肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

ジルオールの「フレアとゾフォル」インフィニット版エンサイクロペディアより

 

偶然ジルオール インフィニット エンサクロペディアを手に入れてかんたんいたしました。

 

ジルオール インフィニット エンサイクロペディア

 

本書は2005年6月に発売されたPS2ソフト『ジルオール インフィニット』に登場するキーワードを取り上げた用語辞典です。

冒険の舞台となるバイアシオンには歴史、人物、国や種族などさまざまな言葉が登場します。『エンサイクロペディア』では1,400点に上るこれらの用語を集め、イラストや画面写真とともに解説していきます。

また、代表的なキャラクターやエピソードについて、ゲーム内では語られなかった背景設定を公開。より深く楽しむためのサブテキストとして、バイアシオンで紡がれた各時代の逸話や主要人物も取り上げていきます。

本書が『ジルオール』の世界観を補完し、みなさまの旅をより魅力的にする手引きとなれば幸いです。

                                       編者

 


ジルオールというゲームをご存知でしょうか。

コーエーさんがPS・PS2(リメイク)・PSP(再リメイク)でリリースしていたRPGゲームで、バイアシオンという架空の大陸における歴史ファンタジーを題材にしているものです。

カルラさんというハイレグアーマーの新参ホイホイキャラが目立っていたのでご覧になったことのある方もいらっしゃるかもしれません。

 

 ↓参考:後姿も神々しいカルラさん

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ゲームバランスはけっこう大味ながら、イラスト・テキスト・BGMが極めて優れており、熱心なファンを多数生み出しました。

舞台設定や人物造形がたいへん練り込まれている作品ですので、上述のような歴史・設定・用語集のニーズも出てくる訳でございます。

評判を聞いてエンサイクロペディアを一度は読んでみたいと願っていたところ、最近某所で思いがけなく入手することができました。

読んでみたら想像以上に突っ込んだ裏設定を記載してくれていて面白かったので深くかんたんした次第でございます。

 

 

とりあえず本日は個人的に好きなキャラクターのうち、エンサイクロペディア記載の裏設定にとりわけ興味を引かれた二人を取り上げたいと思います。

 

以下、ジルオールのフレアとゾフォルについて重大なネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレア・ウル

 


かつて栄えた魔導王国「ラドラス」の支配者「シャローム」さんの血を引く四人の巫女のひとり、火の巫女フレアさん。

ファーストインプレッションは無表情・無感情ながら、足繁く通ううちに情熱的かつ依存的な親愛を見せてくださる女性です。


実は本物のフレアさんは数十年前に亡くなっております。

「シェムハザ」さんという火の巫女の世話係に求愛されたのですが、拒否したところ殺されてしまったということで……。

ゲーム中で出会えるフレアさんはシェムハザさんが「束縛の腕輪」という闇の神器を使って土くれからつくられたレプリカ、人造人間なのです。


エンサイクロペディアでは、オリジナルフレアさん殺人事件について裏設定を記載してくださっています。

本物のフレアは真面目で辛辣だった。現在のフレアと同様に火の精霊神殿を守ることを第一にしていた。そのため、コーンスと人間との間で子供が作れないことを理由に、シェムハザの想いを即座に退けた。


即座に退けた。


シェムハザさんは「コーンス」という妖精種族の生まれです。
人間とコーンスでは子供ができないという設定があったんですね。



現フレアさんとオリジナルフレアさん、けっこうキャラクターが違うようです。



オリジナルフレアさん……

真面目……辛辣……次世代の巫女誕生が第一……


ということはフレアさんの見た目はそのままで、
ドSでツンツンだけど子づくりは熱心という……

ゴフッ



現フレアさんとオリジナルフレアさん、プレイヤーが両方に出会えていたら大変なことになっていたかもしれませんね。

 

 

現フレアさん、PS1時点では「絶対に助からない」キャラでした。


このゲームは大きな歴史の流れは決まっているのですが、各登場人物は主人公の行動次第で生死や人生が大きく変わるのです。

しかも「一番親密なキャラと個別エンディングを迎えることが可能」というゲーム設計になっており、要は恋愛ゲーム的な要素が充実していて、「お気に入りキャラを生き延びさせて熱愛エンディングを見る」ことがプレイヤーの大きな目標となっていたものでした。


それだけにフレアさんも何とか生き残る道があるはずだと多くのプレイヤーが挑んだのですが、そんなフラグはどこにもなく。

主人公との出会いによって感情・親愛の心を得たフレアさんが、最後は必ず土くれとなって滅びてしまう。

もちろんフレアさんとの個別エンディングはなし。

何より、お亡くなりになる際の台詞が誰よりも切なく……。
(画像はPS2版の死亡ルート)

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直後、主人公はフレアさんの力で神殿の外に飛ばされます。

死顔を見せない矜持、苦みを抱いて散りゆく覚悟。
フレアさんはプレイヤーの心に大きな傷跡を残したのでした。


「絶対に死ぬ」ことで、フレアさんはジルオールに登場する数々の魅力的な女性の中でも、格別の思い出と立ち位置を得ることになったのです。

 

 

そしてPS2でリメイクされた「ジルオール インフィニット」。

多くのプレイヤーとスタッフの愛情を集め、フレアさんには新たに「生存フラグ」「追加イベント」「個別エンディング」が用意されたのでした。


当初、この英断は不評だったと記憶しています。

「命を失ってこそのフレア」
「陳腐なハッピーエンドなど要らない」

そんな声が多かったものでした。



ですが、プレイヤーの期待は良い方向に裏切られることになります。


PS2の追加イベント・フレアエンディングが……とんでもなく蠱惑的で、「PS時の哀悼」とは全く別の方向にプレイヤーを魅了したのでした

(この追加イベント・エンディングの内容はあえて貼りませんが、何度も見てしまうプレイヤーが続出したと聞いております)


PS2版のフレアさんテーマ曲「故郷」「命火」がまた情景に彩りを加えて。

PS2PSPから入った人は素直にフレアさんの愛に捕われたことでしょう。

 

 

かくしてフレアさんは

 ・土くれに帰してこそ

 ・一緒に暮らそう

 ・いっそ出会わない方が

という3択をプレイヤーに迫る悩ましい存在となり、現在に至っております。



ちなみにPSP版では「仲間にする」ことまで可能となりましたが、3Dグラフィックの出来がお、おうという感じなので割とスルーされている状況です。
魔力が高いから強いんですけどね。



2度のリメイクを経てここまでの人気者になったフレアさん。

だからこそオリジナルフレアさんの裏情報は新鮮でしたし、もし登場していたら新たなフレア豚を生んでいただろうなと思いました。

 

 

 

妖術宰相ゾフォル

 


ジルオールの物語における黒幕のひとり、妖術宰相ゾフォルさん。

「システィーナの伝道師」というNARUTOで言えば暁のような悪の組織の一員で破壊神ウルグと魔王バロルの復活、世界の滅亡をもくろむお爺ちゃんです。


魔術師としても超一級の実力を有してはりますが、ゾフォル爺ちゃんの一番の異能は「予言の力(※不吉な内容限定)」

この力を以て、ジルオールの世界における強大な帝国の前皇帝2代に仕え、予言に従って皇帝にとっての不吉要素人材を虐殺したり魔人を召喚したり
皇帝を不死身にしたりと物語開始前から悪い方向に滅茶苦茶活躍してはります。



ただ、ゾフォルさんって普段は気さくに話してくれるお爺ちゃんで……。


予言の力のせいで、幼い頃から母に捨てられたり人に疎まれたりと酷い経験を重ねてきたことも透けて見え。

極悪人なんですがどこか「他の生き方もあったのでは?」と思えてしまう黒い魅力の持ち主なのでございます。


↓老いについて語るゾフォルさん。たぶん自分のことを話している。
 自分を変えてくれる人を探し求めているようにも映る。

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フレアさんのところで書いた通り、ジルオールでは主人公の行動によって人生が変わるキャラクターが数多いらっしゃいます。

フレアさんのように、リメイクを重ねる中で選択肢が広がっていった方もいらっしゃいます。

 ※逆に私の大好きなエリス王妃などは狭まっていきました。
  かつてのフレアさんのように助からないからこその切ない魅力がございます。

ジルオールの「エリス、セルモノー、ゼネテスについて」 - 肝胆ブログ



そんな中、ゾフォルさんは救済シナリオが追加されることなく、一貫して悪事を重ね、滅びていくのです。

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これはフレアさんがキュートでゾフォルさんがハ外道だからというだけではなく、物語で担っている役割として「救ってはならない存在」だからなのでしょう。

ゾフォルさんが救われれば、ディンガル帝国三代の悲劇が茶番になってしまう。
ネメアもシャロームもベルゼーヴァもザギヴも道化になってしまう。
絶対に許されてはならない人物なのです。

ゾフォルさんが救われれば、「老い」というものが空疎になってしまう。
明るい意味で古強者「アンギルダン」さんも変わることがありませんが、変わらないからこそのお年寄りなのです。
まさにゾフォルさん自身がそう言っていることであります。



この方が変わることなく斃れてくれるから、未来への扉が開かれる。



でも……もし、主人公がゾフォルさんの若い頃に生まれていたら?

もっと他の生き方が、むしろ主人公とゾフォルで世界を裏から操る存在を克服していくようなストーリーもあり得たのではないか?


プレイヤーにとって、そんな思いも捨てきれないのがゾフォルさんでした。

 


そして、このエンサイクロペディアでは……

バロル(前皇帝兼魔王)の配下になったのは、バロルがヌアド(前々皇帝)の元で飼い殺しになっていたゾフォルの才能を見出し、譲り受けたためである。こうしてアンギルダンやサラシェラ(カフィン)らと並ぶ“バロルの四星”に数えられるようになった。
その後、バロルに憧れていたキャスリオンを仮面の騎士としてバロルに推薦し、“バロルの五星”となる。
ゾフォルはひそかにキャスリオンに好意を持っていたが、「バロルはゾフォルを得ることで、大事なものを得るだろう。そしてディンガルを手に入れるだろう。だが大事なものを失うだろう」という予言を防ぐことができず、毒酒をあおるキャスリオンの死を見届けることとなった。
この罪悪感から、キャスリオンを復活させるというイズとの取引で闇に落ちたバロルを魔人にし、次々と闇の円卓の騎士を復活させた。



背景が複雑なので詳述は避けますが、自分を取りたててくれた皇帝と、好意を持っていた皇帝の妻(ジルオール世界の勇者ネメアの祖母)を自分の予言どおりに失った。

バロルとキャスリオンを復活させたくて、ゾフォル自身も闇に落ちた。

その後の所業は非道と呼ぶにふさわしいもので……という経緯があちこちの裏設定話から読み解けるのです。

(なんか松永久秀みたいです)



ますますゾフォルさんを惜しむ念が強まってしまいました……。

そして、こういう「もう遅い」方がいるからこそ、大河ドラマとしてのジルオールが厚みを増しているのでしょうね……。

 

 

 

 

以上、取り急ぎフレアさんとゾフォルさんの裏設定のご紹介でした。

他にも触れたい人がたくさんいるので、そのうち別途書くかもしれません。

 

ジルオールはとてもおもしろいゲームですし、いまでも比較的手に入れ易いです。

これからも新規プレイヤーがじわじわと入ってきて、三度目のリメイクやら新作発表やらに繋がりますように。

 

 

ジルオールの「セラとベルゼーヴァ」 - 肝胆ブログ

ジルオールの初心者向け「エンディング有キャラの紹介(一部)」 - 肝胆ブログ

 

 

 

 

「海外子会社のリスク管理と監査実務」長谷川俊明さん(中央経済社)

 

 

弁護士の長谷川俊明先生による表題本が良著でかんたんしました。

 

www.biz-book.jp



日本企業の海外進出がますます増えている・重要になっている一方、
東芝日本郵政のような失敗事例の話を聞く機会も増えてきております。

また、日本国内においても営業や製造や事務や企画やあらゆる領域で
コンプラ疲れ」が話題になっている風潮でもあります。


こうした世の中の流れに受け身でいても面白くなさそうなので、
最近はグループベースでのコンプラ・ガバナンス領域に対して
むしろ前向きに学んでいこうという気になってきました。

 


学んでみるとけっこう面白いものですね。

 

 

こちらの本は色々と読みかじっている中で、特に面白かったものです。


海外法務案件に強みを有する弁護士先生が書いてはるだけあって、
理論も実例もポイントが分かり易く、かつ実践的でためになりました。

字のフォントもそんなに小さくありませんし、難解な法律用語も少なめです。

海外展開している企業・海外進出を検討している企業さんにおかれましては
経営者さんも監査役さんも実務者さんもお目通しいただくといいと思いますよ。

 

 


以下に序章、1~3章、付録資料という本書の構成に従って
かんたんに概要や感想を書いてまいります。



序章 海外事業・海外子会社のリスクコントロール
    -海外事業をめぐるリスク要因を分析


まずは昨今の状況の確認ということで、海外事業からくるリスクと
国内事業のリスクの違い(性質や大きさなど)を確認し、
海外子会社を法人格にして親会社へのリスク波及を遮断すべきという基本や、
駐在員の安全確保、海外子会社の独立性向上、海外子会社のグループ再編といった
論点を整理していただいています。


その流れで東芝事件やオリンパス事件にも触れてはりますが、
個人的にはイラン革命~イラン・イラク戦争時の某プロジェクト撤退判断
(日本側とイラン側で見解が分かれる)の事例が興味深かったです。

戦争も含めた現地固有リスクを予測し、あらかじめ契約に織り込んでおくことが
重要ですね。


他にも、中国沿岸部やインドでは現地人材の雇用・労務問題の観点から、
一度進出した企業は「かんたんには撤退できない」という視点も新鮮でした。

そう言えば知り合いのメーカーのおっちゃんもそんなこと言ってたような。

 


第1章 海外子会社の管理体制
    -ガバナンス・コンプライアンス体制を解説

 


経営者や組織企画者向けの章になります。

グローバルグループのガバナンス・リスクマネジメント・コンプライアンス
効かせるために、どのような組織体制や統治手法が考えられるかを
整理いただいています。

分かりやすい例で言うと、日本親会社が各海外子会社を直接統治する方法か、
日本親会社の下に各地域(米国、ユーロ、アジア・中国等)のハブ拠点を設置して
その下に各海外子会社を配置する方法か、などなど。

というのも、財務・会計関係は世界標準化が進んでおりますが、
法務関係については地域地域のローカル性が強いことが背景にあります。


確かにアメリカとユーロでもけっこう文化は違いますし、
社会主義国イスラム圏になってくると法律も行政も個性的ですよね。

これらをすべて日本本社が直接マネジメントするのは非効率的かもしれません。

一方で企業理念や事業スピードなどはグローバルに浸透させる必要があって、
この辺の塩梅が経営者の腕の見せ所なのでしょう。


印象的だったのは「親会社による不正の防止」という観点です。

海外子会社の……というタイトルは「現地のリスク」だけを学ぶ本であると
想起させますが、この本は「親会社経営陣の牽制」にも力点を置いているところが
特長だと思います。

海外子会社から親会社監査役へのヘルプラインをつくっておけ、とか。

「親会社が子会社にばっちぃものを押し付ける」事案が本当に多いようで……。

読み手がまず襟を正さないといけませんね。

 


第2章 海外子会社の法的リスク コントロール体制
    -最新の動向をふまえてリーガルリスクを明らかにする

 


この章は実務者・海外赴任者にも興味が湧く内容です。
具体的な海外現地のリスク事例をたくさん挙げていただいております。


先に節を挙げた方がイメージを掴みやすいかと思います。

 第1節 新興国型法的リスクの管理
 第2節 外国公務員に対する贈賄防止体制
 第3節 独占禁止法・競争法コンプライアンス体制の課題
 第4節 知的財産権の侵害・非侵害防止コンプライアンス体制
 第5節 人事・労務分野コンプライアンス体制の課題
 第6節 サプライチェーンコンプライアンスCSR
 第7節 M&Aとグループ再編のリスクコントロール
 第8節 日本親会社と海外子会社間取引のリスクコントロール


この本の「あんこ」の部分でもあって盛りだくさんですね。
なんとなく内容や事例を想像できる方も多いことでしょう。


独占防止に向けたリニエンシー(自首)制度の普及には興味を引かれました。
カルテルやトラストについて、自首したらお前の企業は許してやるという制度です。
他のカルテル仲間企業はもちろん制裁を受けます。
裏切った後が怖いですね。

各国で数十億円規模の制裁金を喰らった、あるいは自首して制裁を逃れた
具体日本企業名が次々に出てきて面白かったです。

日本人は日本人同士で集まりがち(ライバル企業同士であっても)だから、
余計にカルテルを疑われやすいというのはなるほどと思いました。


サプライチェーンで、海外での仕入れ元に……奴隷状態・強制労働・人身取引が
含まれていたらアウト、というのも重要ですね。

英国では「現代奴隷法」という刺激的な名前の法案が出来ているようで、
こうした観点の労働者保護法は今後急速に各国に広まっていくことでしょう。

「安いからこの仕入れ先!」くらいのノリで取引をジャッジしていたら、
ある日いきなり「人類の敵」だとバッシングされる可能性があるということです。 

取引先調査と契約時の人権保護要請が欠かせないことを覚えておきましょう。


他に印象的だったのは中国全般ですね。

中国は法整備と行政面の執行が急速に進んでいる、突然変わるという特徴があります。

とりわけ行政の権限が強い、変化が激しいというところは重要で、
基本的には「まっとうな方向に進んでいる」ということもあって、
「以前はザルだったから」「以前は賄賂でOKだったから」というノリで
接すると大火傷する可能性が高そうです。

デカい国ですからまだまだ緩いところもあると思いますけど、
着実に「隙は減ってきている」と意識しておいた方がいいのでしょう。

 


第3章 海外子会社の内部統制・ガバナンスおよび監査体制
    -イメージをしにくい海外子会社監査を理解する

 


こちらは監査役向けのチャプターです。

2章までの内容を踏まえた上で、海外事業監査はすこぶる重要だ、
でも各国の法律や海外子会社の独立性の観点から親会社が単純な直接監査を
できる訳でもない、ならばどうするという内容になっています。

確かに……親会社の監査役が乗りこんでいって日本語でギャーギャー
わめき散らしても子会社からしたら迷惑なだけです。
(これは日本国内でもそうです)


親会社としては体制面のチェックを中心にすべき、
各地域のハブ拠点と連携してグローバルな監査体制を構築しようという
合理的な方向性を示していただいております。

独立監査役員や弁護士・会計士など社外リソース活用の重要性を
語られているのもポイントですね。


反面、内部監査部門への評価は低いです。

内部監査部門は所詮サラリーマン、経営陣の不正には文句を言えない」という
「確かに……」な事実を突いてはって、だからこそ監査役員が大事なんだと。

著者が弁護士であることを割り引いても、これは納得感が高いように思われます。

「社長を刺すことを躊躇わない内部監査部門」が理想なんでしょうけどね。

 


資料① 海外事業の内部統制、ガバナンスおよび監査のチェックリスト
資料② 海外子会社現地従業員(NS)向けコンプライアンスアンケート<参考例>
資料③ 海外事業監査項目<参考例>

 


これらはありがたいおまけです。

本著の内容を実際の実務に落とすためのひな形ですね。
出版社の良心を感じます。

この内容をベースに各社の事業に応じてアレンジすれば
それっぽいものができるのではないでしょうか。

 

 

 

 


以上、様々な角度からよい学びを得られる本でございました。

素直に面白かったです。
食わず嫌いせずにコンプラを学んで「攻め」に使っていけたらいいなと思います。

 


こうした指針・ノウハウが普及して、海外のチャンスを掴みにいく
日本企業、あるいは野心と才能ある個人が増えていきますように。

そうした企業が増えれば「平清盛」「倭寇」「堺」「朱印船貿易」などの
歴史題材も再び人気が出てくるでしょうし。

 

 

 

装甲騎兵ボトムズ「幻影篇」高橋良輔監督(サンライズ)

 

ボトムズOVAの最新作「幻影篇」にかんたんしました。

 

ボトムズWeb|幻影篇

 

現時点でリリースされているキリコさんの物語を観終わりました。
長かった……。


今後続編がつくられるかどうか分かりませんが、この幻影篇で
キリコさんの物語がリスタートできたのはよかったと思います。

 

 

以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりサンサはいいねえ」


ボトムズシリーズでこんな台詞を聞くことができるとは思いませんでした。

砂と鉄屑しか存在しない星。
レッドショルダーによって破壊・虐殺され尽くした星。
大気は汚れ、酸素マスクなしには生きていけなかった星。


この幻影篇は惑星サンサとゾフィーさんの再生物語だったように思います。

そんな内容、どこにニーズがあるんだという突っ込みは置いといて……。

 

 


あらためてあらすじを纏めますと。

幻影篇は全6話です。


1話「ウド」。
バニラさんとココナさんとゴウトさんが30年ぶりにウドを訪れます。
懐かしいバトリングを見物に言ったらシャッコさんがいました。
シャッコさんは謎のATと戦います。
キリコさんは出てきません。


2話「クメン」。
クメンではなんとポタリアさんが大統領になっています。
が、クーデターに遭って首都から逃走しているところです。
相変わらずのクメンです。
30年ぶりに「ファンタムクラブ」を開きますが、キリコを追う輩が襲撃してきます。
結果、ポタリアさんがお亡くなりに……。
キリコさんは出てきません。


3話「サンサ」。
やっとキリコさんが登場します。
なんとTVシリーズに登場したゾフィーさんのお家に居候になっていました。
ゾフィーさんはレッドショルダーの手で家族を失っておりますので、
TVシリーズではキリコさんを殺そうと付け狙っていた経緯があります。
幻影篇では視力が弱り、居候している若者がキリコさんだと気付いていません。
ATの襲撃を受けますが、キリコさんはサンサではATに乗らないと言い切り戦わず。
その時、古代クエント文明の力で唐突にみんなワープしてしまいます。


4話「ヌルゲラント」。
消滅したクエントの双子星だそうです。
シャッコの村では「神の子」が生まれました。
クエントの他部族は「神の子」を殺そうとしてきます。
どうも「死んだら神の子じゃないから殺してみろ」という趣旨の掟のようです。
キリコさんは神の子を守りますが、シャッコさんと一緒に大穴に落ちてしまいます。


5話「コクーン」。
ヌルゲラントにそびえる「ゴモルの塔」の地下に落ちたキリコさんたち。
カイコみたいな変な虫に神の子を奪われ、取り返しに追いかけます。
遥か昔から「神の子候補」はこの地下に落とされ、神の眼鏡に適わなかった子は
命を失ってきたようです。


6話「インファンティ」
ヌルゲラントの神の正体は生きていたワイズマンでした。
「赫奕たる異端」に出てきたモンテウェルズさんが神の子の養育係に名乗り出ますが、
ワイズマンに拒否られ怒って銃を乱発するも跳ね返ってお亡くなりになります。
ワイズマンはキリコさんに神の子を神として育てることを要請しますが、
キリコさんに拒否られ再び殺されます。
キリコさんと神の子は緑の泡に包まれて宇宙の彼方へ飛んでいきました……。

 

 

相変わらずロッチナさんも出てきて、ワイズマンの復活と死を見届けて
喜んではりました。
本当にワイズマンとキリコさんのことが好きなようです。
たぶんキリコさんと神の子のことも追いかけていくのでしょう。

 

5話からはかつての神の子候補「ジュノ」という子が仲間になり、
なんやかんやでゾフィーさんと仲良くなって一緒に暮らすことになります。
家族ができてよかったねゾフィーさん。

冒頭で申し上げた通り、幻影篇で救済されたのがゾフィーさんだと思います。

 

一方、TVシリーズクメン編の好漢ポタリアさんは2話で出てきたと思ったら
あっという間にお亡くなりになってしまいました。
かつてのカンジェルマンさんの役割を今度は自分が担ったのだとしたら
一概に気の毒とは言えませんけど……。

やっぱり残念は残念です。

 


あらすじを見れば一目瞭然、この幻影篇はTVシリーズの同窓会、
リバイバル的な内容になっています。

物語の中でも現実の時間軸でも30年の時が流れているので、
感慨は深いものがあります。

画質もすこぶる良いですし、OP・EDはキリコさんの雰囲気がよく出ていますし。

ファンサービス的にATは懐かしい機体が続々と出てきますし。
30年後なのにベルゼルガやらストライクドッグやら登場しますからね。

セリフ回しもTVシリーズのセルフオマージュになっていて楽しいです。

TVシリーズが好きだった方にとっては一見の値打ちがあると思います。

 


ただ、TVシリーズやこれまでのOVAと違って、
キリコさんはほとんど戦いません。

5話・6話でATには乗りますが、ほぼ移動に使用するだけです。
AT戦はほんの僅か。

6話のラストで、生身のキリコさんがアーマーマグナムで
3機の敵ATをぶち殺したのはめちゃくちゃ格好良かったですけどね。
人間やめてる感じがありありと出ていました。

 


ストーリーについては、作品単体としては微妙です。

ワイズマンがいくらなんでもアホ過ぎます。
「やめるんだキリコ……(グエー)」じゃねーよと。
この神様なに同じやり方で殺されてんねん。


神の子を引き取ったキリコさんを見て「神はサイコロを振らず。強かだ」と
ロッチナさんは評しておりましたが……。

キリコさんの手に渡った以上、神の子はワイズマン式銀河統治システムの
後継者にはならないと思います。
あるいは後継者になろうとしたら最終的にキリコさんの手で阻止されると思います。

後付けでワイズマンの深謀遠慮を設定することもできるでしょうけど、
現時点ではあまり「強か感」は湧いてきませんでした。

 


一方で、幻影篇はボトムズシリーズにとってはよかったと思います。


ゾフィーさんとサンサの再生は、キリコさんの「過去の清算」を象徴しています。
「未来へ向かって生きていくためのけじめ」ができたと言えるでしょう。

フィアナさんの代わり(と言いたくはないが)に「神の子」を得た
キリコさんは、今後どのように生きていくのか。

新たな想像の余地ができました。

願わくば静かに平穏に暮らしていてほしいんですけど、
続編がつくられたらまた殺し合い生活になっちゃうんでしょうね。

 


幻影篇を観れば観るほど「赫奕たる異端とはなんだったんだろう」という
複雑な感情が湧いてきますが、神妙に受け止めることにしたいと思います。


フィアナさんもテイタニアさんもこのラストを受け容れてくださいますように。

 

 

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北条家の名城「山中城」と三島市の「美観」

 

 

戦国期山城遺構の中でも屈指の存在感を放つ山中城と、
三島市の美しい街並みにかんたんしました。

 

www.city.mishima.shizuoka.jp

 

 

一念発起して新幹線で三島市まで行って参りました。

以前に何かの本で知って以来、一度行ってみたかった山中城を訪問するためです。

 

三島駅東海道新幹線のこだまが停まります。

降りて、東海バスに乗って30分で城跡に到着。

思った以上に近い……。
新幹線の駅から30分で着くなら、大阪城並のアクセスのよさではないか。
(但しバスは1時間に1-2本)

 

 ↓三島駅の5番乗り場から東海バスに乗っていく感じです

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 ※ちなみに、山中城跡バス停の手前では「スカイウォーク」という
  家族・カップル・友達連れに人気のありそうなスポットがありました。

  自分は山中城に行くけど、皆は興味ないだろうからスカイウォークを
  楽しんできなよ的な使い方ができそうです。  

  日本最長 富士を望む大吊橋 三島スカイウォーク

 

 


山中城三島市)は北条家の本拠小田原城の西に位置します。

永禄年間に北条氏康さんによって築城されたとのことですから、
甲相駿三国同盟の破綻後に武田家対策として建てられたのでしょう。

 

織豊系築城術普及前ですから、石垣や天守閣などはありません。

それがいいんです。

時代は山城です。

土塁の高さ、畝堀・障子堀の幾何学的恐怖、縄張りの工夫、
飲料水確保の涙ぐましい努力……見どころはたくさんあります。

北条流築城術の粋を集めたようなロストテクノロジーキャッスルですからね。

日本100名城の大半が石垣・天守閣系のシュッとした城で占められる中、
土と緑しかない無骨なこの城が入選している事実を慈しみましょう。

全国の山城跡を有する自治体はベンチマークにされるといいと思います。

 


本格的にこの城が活用されたのは豊臣秀吉さんによる小田原征伐時のことです。

急いで西の丸や岱崎出丸(国道一号線を挟んで南側)を増築し、
松田康長さんや間宮康俊さんら4,000名が籠城したものの、
豊臣秀次さん率いる70,000名の猛攻によって半日で落城したと
伝えられています。

北条家の守将はことごとく討死されました。


兵力差17倍……
しかも豊臣家中の出世レースで士気盛んな軍隊……


これは、城のつくりがどれだけ素晴らしくても防ぎきるのは難しいと思います。


ただ、北条方の抵抗も激しかったらしく、豊臣方でも一柳直末さんら
多数の討死者を出したようです。

一柳直末さんは美濃生まれの武将で、黒田官兵衛さんの妹婿でもあります。
秀吉さんと親しかったようで、直末さん討死の報を受けた秀吉さんは
泣き崩れたのだとか。

 

城跡となりの宗閑寺では北条方・豊臣方双方の墓が建てられており、
両軍等しく供養されていました。
右が一柳尚末さん、左が北条家主将の皆様。手前の字は読めませんでした。

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さて、これから山中城の写真をぺたぺた貼って参りますが、その前に。


山中城は昭和時代に公園として整備されておりまして、
遺跡保護も兼ねて全体的に植栽がなされております。

そのため土塁も堀も芝生に覆われていて大変美しいのですけど、
戦国時代当時は「土がむき出しだった」ことをお含みおきください。


しかもこの辺り(富士山・箱根近く)の土壌はロームですから、
めちゃくちゃ滑りやすいです。


 ↓参考……城の裏手で撮影した露出土の様子。ねとねとです。

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芝生に覆われていると一見落ちても大丈夫そうですが、
粘土質でまっ茶っ茶な当時の堀に落ちたらアウトです。
(しかも堀はいまより深かったようです)


そういう訳で、心の目で「この緑は当時は茶色……」
思いながらご覧くださいまし。

 

 

山中城の全体図。無料で入れます。トイレもあります。

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城の入り口。左側は三の丸堀。

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土塁が高い。上の方(二の丸)から撃たれたら死にます。

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二の丸と西の丸をつなぐ木橋の下。尾根をぶった切った感と畝堀がたまらん。

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元西櫓。右側に傾斜している。傾斜した先には溜池(貯水)があります。

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西の丸を囲む見どころ「障子堀」「畝堀」の数々。落ちたら殺されます。
畝の上を歩いたら狙い撃ちされます。お前先行けよ嫌だよ感。
当時は茶色ですからね。木も草も生えてませんからね。もっと深いですからね。

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城好きがこだわることに定評のある「馬出」。

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本丸の跡。標高578m、面積1,740㎡とのこと。

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こちらは岱崎出丸の一の堀。これで作りかけだそうです。
岱崎出丸では間宮康俊さんが奮戦し豊臣方をおおいに苦しめたとか。

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それにしても芝生がきれいです。よく手入れされています。
春にはツツジが咲き乱れるんでしょうね。

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公園化している現代の美しい姿と、当時の攻めてきたやつ絶対殺す機能美との
ギャップがまたおもしろいと思います。 


この城、ドローンで空撮したらいいんじゃないかな。
天守閣がない分、建築物の破損リスクは低いし。
ぜったい話題になると思う。

あるいは、戦国無双のエンジンとかをつかって山中城の戦いを再現して
一兵士として参戦できたり、あらゆる高度・角度から観戦できたりするゲーム。
欲しい。
あと10年くらいしたら「城攻めツクール」とか実現できるんじゃないか。

城をじっくり見てくると妄想がはかどって楽しいです。

 

 

こうして大満足なお城訪問だったのでありますが、
併せてかんたんしたのが三島の街の美しさでした。
(権利者に憚って写真は撮っていないです)


美しいと言っても、派手な美しさじゃないんですけど。
「これ」という象徴的な何かがある訳でもないんですけど。

 

美観保護条例が効いているのか電飾看板なしで落ち着いた見た目のパチンコ屋。

地域の暮らしに根付いていそうな提灯屋・仏具屋などの店構え。

庭にきちんと植木職人の手が入っていそうな民家の数々。

 

先ほど紹介した山中城にしても、芝生がきちんと刈り揃えられて、
林がきちんと間伐されていて。


景観の保全に対して、並々ならぬ意識の浸透、誇りのようなものを感じるのです。


街の人々の中で、「街をきれいにしよう」というコンセンサスが
できているのかもしれません。

あるいは、掃除や整頓、手入れといった基本行動が高いレベルで
風土として根付いているのかもしれません。


素晴らしいことだと思います。

 

 


帰り道、三島大社に参拝し、その後たまたま見つけたカレー屋さんで
昼食をいただきました。

「セイロンパラダイス スリランカカレー本店」。

鰻とか食べるつもりが、看板のアジア系メガネイケメンに惹かれて……。

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メニューはココイチ的な親しみあるラインナップでした。
(カツカレーとかもありました)

薬膳感のある「爽」「苦」「辛」が立ったおいしいカレーで、
各スパイスの特徴を活かしたままにバランスよく完成している喜び。
山歩きの疲れがスッと消えました。

しかも安い。
680円で日替わりカレーとサラダとドリンクをいただけるんですよ。

三島田町駅のとなりにあります。

思わぬ幸せな出会いでございました。

 


三島、よかったです。

イメージよりもアクセス良かったし。
日帰りでイケるやん。

東海道新幹線の移動だけに当てる日があったら、
なんなら三島に立ち寄ってみるというのも選択肢ですね。

 


北条五代の大河ドラマ誘致活動をしてはりました。

その夢、いつか叶いますように。

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'17.8.13追記


翌日、録画していたアド街ック天国を観てみたら「三島特集」でした。
なんというニアミス。

12位みしま風鈴→11位ララ洋菓子店→10位BARの流れがよかったです。
次は一泊予定で行ってみたくなりました。

 

山中城は何位かなとわくわくしていたのですが選外でした。
なぜだ。

 

 

 

上村松園さんの異色作「花がたみ」の制作過程……「狂人研究と能面」

 

 

青空文庫に「花がたみ」の制作過程を綴った文章が2本も載っていて
かんたんいたしました。

 

上村松園 花筐と岩倉村

金剛巌 能面と松園さんの絵

 

 

上村松園さんといえば近代の美人画家を代表する方でありまして、
古典などを題材に数多くの傑作を残されております。


その数ある作品の中で、代表作でもあり異色作でもあるのが
こちら、「花がたみ」です。

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絵のモチーフは①の上村松園さん自身の文章に詳しいです。

謡曲「花筐」……継体天皇と、照日前という女性のエピソードを
もとに描いた「狂人の狂う姿」の画。

 

現代でも狂気狂人というのは人気のある題材で、最近も漫画の話題で
「作者「狂ってるキャラってどう描けばええんや…せや!」」という
のが出ておりました。

まとめサイトが乱立しております。
 作者「狂ってるキャラってどう描けばええんや…せや!」 - Google 検索

 

 

狂気の描写としては無表情バトルマニアとか勃起バトルマニアとか
アヘ顔ダブルピースとか実に色々な手法が研究されている訳ですけど。

 

圧巻なのは、この絵を描くために上村松園さんが行った取組みでしょう。


「本物を見てみたい」


ということで京都の某精神病院に数日間滞在し、実際に精神を病んだ方々を
丹念に観察してきはったのです。


……現代では許されない、あるいは激しい糾弾を受ける手法でしょう。
いや、当時だってそうだったに違いありません。

それでも画業のために真っ直ぐ進むところが松園さんらしい。

碁の好きな狂人同志、将棋の好きな狂人同志が、それを戦っている。その姿を離れたところで眺めていると、実に堂々たるものである。天晴れの棋士ぶりだが、そばに寄って覗き込んでみると、王将が斜めに飛んで敵の飛車を奪ったり、桂馬が敵駒を三つも四つも越えて敵地深く飛び入って、敵の王将を殺して平気である。
王将が殺されても、彼らの将棋は終らないのである。見ていると、実に無軌道な約束を破った将棋なのであるが、彼らには、その将棋に泉の如き感興があとからあとからと湧くのを覚えるらしい。朝から晩――いや、そのあくる日もまたあくる日も、何やらわけのわからない駒を入り乱れさして、それでいて飽くところを知らないのである。
如何にも面白そうであった。


印象に残ったエピソードのようです。



そして、見出した結論がこちら。

狂人の顔は能面に近い。
狂人は表情にとぼしい故ででもあろうか、その顔は能面を見ている感じである。
嬉しい時も、かなしい時も、怒ったときも大して表情は変らないようである。

狂人の眸には不思議な光があって、その視点がいつも空虚に向けられているということが特徴であるようだが、その視線は、やはり、普通の人と同様に、物を言う相手に向けられている――すくなくとも、狂人自身には対者に向けている視線なのであるが、相手方から見れば、その視線は横へ外れていて空虚に向けられている如く感じるのである。

わたくしは祇園の雛妓に髪を乱させて、いろいろの姿態をとったり甲部の妓に狂乱を舞って貰って、その姿を写生し参考としたが、やはり真の狂人の立居振舞を数日眺めて来たことが根底の参考となったことを思うと、何事も見極わめる――実地に見極わめることが、もっとも大切なのではなかろうかと思う。



実地を見極める。


最も当たり前の基本でありながら、この基本にここまで真摯に取り組む方は
どの世界においても稀なように思われます。




狂人と能面の類似点を掴んだ松園さんは、続いて能面を描くことに没頭しました。

このエピソードは②、能楽師金剛巌さんの文章に詳しいです。
(金剛巌さんは能における松園さんのお師匠だったそうです)

 

特に美人画家だけに女の面について研究されたので〈花がたみ〉という絵には増阿弥の十寸神という面を写生して、それを人間の顔に戻して松園さんが再び創作して出しています。元来この「花形見」の能には小面、孫次郎を使うので、観世では若女、宝生では増という面を使うのが普通だが、松園さんは十寸神を取り出して描かれた。その面を篏めて創造したところにあの人の優れた凡庸でなかったところが窺える。

昔からあるという物も世の批評の喧しかったり、世間の思惑を心配したりして突っ切ってやれないもので、それを貫いてやるところに松園さんの性格の強さがあると思う。一時が万事で他の事にも矢張そうであろうと想われる。そういう点と、近頃でも能を観に来られても常に写生をつづけていられる様ですが、その熱心さ、又良い素質が松園さんを今日あらしめたものの一部分をなしていると思う。



一流は一流を知ると申しますか……。

能を題材にする芸術家はいまよりも多かったんだろうと思われます。
その中で、文の中で挙げられている松園さん、今尾景年さん、下村観山さん
といった方々は心構えからして凡人と違っていたんでしょうね。

 

 


本物の狂人を観察し、能面を何枚も描き、それらの手応えを融合させて
「花がたみ」という傑作をものにしていく。

その姿勢に崇高を感じずにはおれません。

 

「花がたみ」は、実際に見るととても大きなサイズの大作です。
主題の照日前は鑑賞しているこちらと同等の身長なのです。

正面に立つと圧倒されるような、なぜだかごめんなさいと言いたくなるような、
形容しがたい痺れを感じます。

「序の舞」に代表されるような上村松園さんの描く「清冽」とはまるで違う、
底深い情念の威に気圧されてしまうのです……。

印象がずっと身体の奥に残って、「一生が少し変わった」と感じるほどに。

 

日本画に興味のない方にも一度は是非見ていただきたい名画だと思います。

 

 

 

ちなみに「花がたみ」は奈良の松伯美術館が所蔵されています。

松伯美術館


こちらの美術館には他にも私の好きな「鼓の音」を始め、
上村ファミリーの名画コレクションを有しておられます。


 ↓鼓の音 

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事前に展示内容をチェックの上、是非お立ち寄りください。

 

 

 

また、上村松園さんの絵は人気があるのでしばしば各地の美術館でも
展覧会が開かれております。

客層の雰囲気も好ましいことが多く、松園さんの美人画の前で立ち止まって
じっと鑑賞されている老婦人とか、あなたこそが美人だと言いたくなっちゃいます。


ちなみに'17年8月現在では、北海道の旭川美術館で
これら「花がたみ」「鼓の音」を観ることができるそうですよ。

見どころ・作品紹介 | 上村松園・松篁・淳之展

 

 


松園さんの美人画についていま思っていることは、現代の若い方にとっては
「花がたみ」「焔」のような情念あふれる作品の方が理解しやすく、
「序の舞」のような静かで凛とした作品は縁遠いのではないかということです。


 ↓序の舞。若い人……こういう女性を見たことありますか、憧れますか。

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上の方で書いた通り、現代でも「狂ったキャラ」は人気があるというか
見たことがあるというか場合によっては実際に身のまわりにいたりとかで
一定の馴染みがあると思うのですけど。


「序の舞」「娘深雪」に描かれたような女性を……
リアルで見たことがないという方が多いと思うのです。

男性も女性も100年前とはずいぶん違ってきておりますので、
それ自体はいいも悪いもないのですが。



考えすぎかもしれませんけど。



100年後に支持されている美人、女性の生き方がどのようなものであれ、
上村松園さんの描いた美人画もまた尊重されている世の中でありますように。

 

 

「消費者庁 打消し表示に関する実態調査報告書」ねとらぼ報道より

 

 

消費者庁が発表した広告における打消し表示に関する調査報告に
かんたんしました。

 

nlab.itmedia.co.jp


↓件のレポート

http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/pdf/fair_labeling_170714_0002.pdf

 

 

さまざまな業界の広告で


 「かくかくしかじかで最高です!

                         ※但しイケメンに限る


みたいな言い方が活用されていて、この※の後付部分を打消し表示と呼称します。

 

消費者庁レポートの前半P3-4ではこの打消し表示の類型がまとめられていて、

 

 ・例外型

   -入院、手術、通院の保障が、一生涯続いて安心。何回でも受取OK! 

    ※医療行為、医療機関及び適用症などによっては、給付対象と
     ならないことがあります


 ・体験談型

   -楽しくダイエット!!
    毎日すっきり起きて、体重が5kg減り、着られなかった服が
    ぶかぶかになり、周りからほめられるようになりました。

    ※個人の感想であり、効果には個人差があります


 ・別条件型

   -次世代モバイル! 通話も! ネットも! 月額2,340円!(税抜き)

    ※●●のインターネット契約が3年間必要です
    ※〇〇カードを同時に申し込みされたお客様限定

 

などなど、見たことあるような例がずらずらと並んでおります。 


要は人目を引くようなインパクトある表現をデーンとやっておいて、
後から小さいフォントでこちゃこちゃ責任逃れワードを書いているやつですね。

 

 

 

レポートではこの後、様々な実験・アンケートを積み重ねて
「やっぱり打消し表示は問題あり!」と極めて実感に沿ったデータを
立証されている感じです。


(ねとらぼさんの記事が大変良質ですので詳しくはそちらをご覧ください)

 


それにしても……

これ、見ようによっては「世の中に騙される人はいっぱいいます」
「まだまだ詐欺業界にはポテンシャルがあります」という嫌な事実を
実証してしまっているレポートでもありますよね……。


 ・打消し表示を見落としていた人が9割

 ・打消し表示を見つけていても正しく理解できた人は少数


つまり「この広告手法は極めて有効」ということであります。


消費者庁がわざわざこのようなレポートを公表し、
各業界を牽制したということは……

遠からず大手企業は順番に刺されていくんだろうと思います。


金融、美容、スマホ、通信、健康などなど、
ここで例示されているようなビジネスはその前に襟を正しておくべきですが、
一社だけ先んじていい子になって売上落とすのもしんどいので
業界全体が刺されるまでやり続けちゃうんでしょうかね。

こういう時は業界のリーディングカンパニーが率先していい子になるのが
穏やかシナリオですけれども。

できれば職業倫理に沿って着実な見直しが進んでほしいものです。

 

 

一方、大手企業が品よく改善していく間に、当局の網に引っ掛からない
零細アングラ業者はむしろこのレポートを活用してますます詐欺まがいの
広告をぶっ放してきたりして。

大企業のテレビCMや店頭パンフはすぐに刺せますけど、
寂びれたアーケード商店街の空きテナントで開催されている
怪しげな健康セミナー兼健康食品販売とかなかなか尻尾を掴めなさそうです。

困ったものであります。


お近くのお年寄りとか若い子とか見守ってあげてください。


地味な話ですが、数年に1回くらい「くらしの豆知識」とかを読んで
消費者力を高めておくのが被害予防に繋がると思います。

本当に地味な冊子ですけど「くらしの豆知識」は良本ですよ。

2017年版 くらしの豆知識(国民生活センターの紹介)_国民生活センター

 



さて、こうやって広告関係にメスが入ってくると、
実務的にはとても大変なことになると予想されます。


広告制作って一見華やかなんですが、実際の仕事内容は
契約書づくりや製品設計と同じように地道な作業の積み重ねです。


こういう世の中からの真っ当な要望・改善命令を受けると……


一般的に経営者さんが選ぶ道は「チェックリストを増やす」
「外部専門家たちを交えた広告内容チェック委員会をつくる」
「偉い人が広告の細部デザインに口を出す」などになってきます。


要するに広告の実務担当者さんからすれば「余計なチェック負荷が増える」
「納期が短くなる」「責任だけは重くなる」「ちなみに給与は増えない」
という結果に繋がる訳です。

 

まして景品表示法に手が入ろうものなら既存チェックリストの
再構築負荷が膨大なものに……うごごごご。


経営が長年に亘ってアコギな商売をしてきたツケが
まとめて実務担当者さんに降りかかってくるのです。

ご無体ですねえ……。

 

 

某広告会社を発端にした働き方の変革も道半ばの中。
しわ寄せが広告制作担当者の寿命を縮める結果になりませんように。

中長期的には「無知の人を騙す」ことに頼らない経済成長企業成長が
実現されますように。

 

 

 

「悪魔城年代記 悪魔城ドラキュラ(X68000)&サントラ」KONAMI

 

 

某中古ショップで悪魔城年代記……悪魔城ドラキュラX68000)の
サントラが2,000円で売っているのを見つけてかんたんしました。

 

www.konami.jp

 

 

このサントラはけっこうな貴重品だと思います。

既に1枚持っていますが、つい勢いでもう1枚買ってしまいました。

 

X68000悪魔城ドラキュラ音源装備に応じて3種類のBGMアレンジを選択可能
という頭のおかしい仕様になっており、そこにPS移植版のアレンジまで加わって、
各曲4種類のバリエーションを聴くことができる贅沢なアルバムになっております。


しかも収録曲(ゲームで使用されている曲)が


 ・Vampire Killer

 ・Wiched Child

 ・Bloody Tears

 ・Moon Fight

 ・The Tower of Dolls

 ・Simon's Theme

 ・Load BGM


と悪魔城シリーズの中でも人気曲勢揃い。

これはファン垂涎のアイテムであります。

 

個人的には、シモンのテーマはこのX68000版が一番好きですね。
(次点でメガドライブバンパイアキラー版)

とりわけアレンジ3:ローランド社GS音源ver.のものは静かな出だしと
挿入された鼓動音が決戦感を否が応にも高めてくださります。

発売当時は評判がよくなかったPSアレンジ版も豪華な感じがして
私にとってはけっこうお気に入りだったりします。

 

 


サントラ購入記念ということで、久しぶりに当作をプレイしてみました。

序盤は勘が鈍っていてしょうもないダメージを受けましたが、
後半になってくるといろいろ思い出してサクサクいけましたね。

この作品は難易度が高いと言われがちなのですけど、
完全な覚えゲーなのでやり込むほどに簡単になっていくのですよ。

 

 

まずは音源を選びます。

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1面は画像を撮り忘れました。
こちらは2面のボス。雑魚ですが足場が悪いので要注意です。

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3面のボス、魔法使い。たいして強くありません。

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4面。BGMで血の涙が流れる中、女神像が血の涙を流してはります。
ちなみに周回すると鼻血も出します。

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4面のボス、メデューサ。ボスとしては最弱です。

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5面のボス、狼女を葬ったところ。
この辺からステージもボスも初見殺しになってきます。

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6面。Moon Fight。

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6面のボス、ドッペルゲンガー出現前……。
この時代(1993年)によく鏡の演出なんて入れられたものです。

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くたばれドッペルゲンガー
この方も初見殺しで、ゴリ押しは難しいです。
8の字に動きながら一発ずつ鞭をお見舞いしましょう。

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7面、デス様のお部屋(悪趣味な実験・拷問場)。
歪んだ性癖を惹起しそうなインテリアで目のやり場に困ります。

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7面のボス、デス様を仕留めたところ。
ノーダメージは無理でした。くやしい。

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ラストの8面、このゲーム最大の難関が現れました。
ご覧のように、片足が完全にはみ出るまでドット単位の調整をしないと、
シモンさんのジャンプ力では穴を飛び越えられないのです。
ここをスタスタピョーンと進めるようになったら一人前です(笑)。

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ドラキュラ伯爵の直前ではメイドさんが襲い掛かってきます。
ナイフで戦うメイドさんの元祖格なのかもしれません。

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いつもの階段。

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いつものポーズで登場するドラキュラ伯爵。

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ドラキュラ伯爵はいつも通り弱い感じです。
誰もがやったであろう、カッコいいポーズでの魔力の玉ゲット。

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やっぱり悪魔城ドラキュラは楽しいですね。
何回クリアしても達成感があって不思議です。

 

ちなみに当作品にはアレンジモードというプレイバージョンも入っていて、
髪が赤くて真っ黒ボンテージを着込んだシモンさんを操ることができます。

確か「ドラキュラ2で赤い鎧を着ていた」→「シモンは赤髪」という
よく分からないロジックでデザインされたんだったと思います。

月下の夜想曲で取り込んだ女性客を引き込むためだったんですが、
このゲームは元々ガチムチのハードアクションだったので
ライトゲーマーにはもちろん受けませんでした。

私は歓喜して猿のようにプレイしていましたが少数派だったようです。
(ネットでの評判を後で知ってショックを受けました)

 

 

いまはPSアーカイブでダウンロードしてプレイできるようですし、
もし興味があったら触ってみてくださいまし。

 

 

本当にいつの日か、悪魔城伝説ドラキュラ伝説2の年代記が発売されますように。

3万円までなら出しますよ。
Praying Handsの仕上がりによっては5万円まで出しますよ……。