モーパッサンさんの短編小説「脂肪のかたまり」が最高に胸糞悪い内容でかんたんしました。
100ページ足らずの内容なのですぐに読み終えられます。
100ページでこんな気分悪い名作を作り出せるもんなんやと唸りましたよ。
以下、ネタバレを含みます。
あらすじ。
普仏戦争(1870~1871)でプロシャ兵に街を占拠されたフランス人たちのお話です。
もうこの町はアカンと街を脱出して他の地域へ向かう乗合馬車。
乗合馬車の乗客は貴族や大商人といった上流階級の人達の他、聖職者の尼さんや共和主義者のおっさん、そして「ブール・ド・シュイフ(脂肪のかたまり)」というあだ名のぽっちゃり系娼婦さんなどでした。
急いで街から脱出した人たち。
予想外の大雪で馬車は遅々として進まず、弁当の用意などもしていなかったので皆腹ペコになりました。
でも、しっかり者のブール・ド・シュイフさんだけはお弁当を用意してはったのです。
(ここの食事の描写と挿絵がとても素敵です)
娼婦の施しを受けたくない上流階級系の人たち。
でも、空腹に耐えかねた皆は結局お弁当をおすそ分けしてもらうことになりました。
ここでは皆さんブール・ド・シュイフさんに愛想を振りまいています。
馬車は宿場町「トート」に着きました。
一行は宿屋で休んで、翌日すぐに出発するはずだったのですが。
この宿場町もすでにプロシャ兵に占拠されており。
プロシャ兵の士官がブール・ド・シュイフさんに欲情しますが、愛国者の彼女はプロシャ士官の申し出を拒否ります。
したらプロシャ士官は意地悪で乗合馬車の一行の出発を禁止してしまいました。
しかも原因はブール・ド・シュイフさんにあるみたいな演出付きです。
やだ、ひどい。
こうなるとブール・ド・シュイフさん以外の馬車の乗客たちは困ってしまいます。
彼らはもっともらしい詭弁や論理を駆使して、彼女にプロシャ士官と寝るように迫っていくのです。
あろうことか聖職者の尼さんまで。
日ごろ人に品性を説いている人たちの自己中極まりない振る舞い、嫌悪感が凄いです。
結局押し負けたブール・ド・シュイフさんはプロシャ士官と一夜を過ごし。
翌朝、馬車は無事に出発の許可を得ることが出来ました。
馬車の中で。
皆はめいめい弁当を食べ始めますが、朝まで仕事していたブール・ド・シュイフさんだけは弁当を持っていません。
一同、初日は彼女に食べ物を恵んでもらっておきながら、今日になると「ああやだやだ、娼婦がいると空気が悪いわー」みたいな顔をして誰も彼女に食べ物をあげないのです。
もう醜い醜い。
ブール・ド・シュイフさんはすすり泣きを始め、共和主義者のおっさん「コルニュデ」さんはラ・マルセイエーズを口笛で吹き始めて皆をイライラさせ始めました。
馬車内の空気は相変わらず最悪です……。
というお話になります。
大人のイジメそのもので、むかむかしてきます。
そのむかむか惹起力もまた偉大なる文学なのでしょう。
本筋は人間の露悪ですが、一方で美味しそうな弁当の描写であったり、家事を手伝ったり赤子を抱いたりしているプロシャ兵の素朴な姿であったり、ところどころに挿入される場景がそれぞれ地に足が立っていてまたいいんですよ。
ピエール・ファルケさんの手によるという挿絵も素晴らしい。
適度なデフォルメと省略が場の空気をかえってくっきり印象付けてくださいますね。
人間にはいいところもあれば悪いところもあるものですが、この小説では人間の一番感じの悪いところ、醜いところ、ダサいところ、おぞましいところをビビッドに見せつけてくださいます。
ネットリとしたクソ教養野郎たちの思いあがった悪意が湿度粘度高くまとわりついてくるような読了感、ほんま傑作文学やなと思いました。
なんかかえって元気が湧いてきましたよ。
たまにはこういうビターな物語を読むのも大事なことなのかもしれませんね。
この作品の登場人物たちのような醜さがたぶん自分にもおおいにあると思うのですが、可能な限り自覚して自律することができますように。