肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「八月の鯨」リンゼイ・アンダーソン監督

 

八月の鯨という昔のアメリカ映画にかんたんしました。

 

八月の鯨 映画 - Google 検索

 

アメリカはメイン州(いちばん右上の州)、
大西洋を望む場所に建つ家で暮らしている老婆×2の物語です。

いや、物語というか、物語要素もほとんどないのですが……。

 

登場人物は

・家主の妹(お婆ちゃん)
・居候の目が見えない姉(お婆ちゃん)

・近所のいらんことしいな友達(お婆ちゃん)
・近所の居候先を探している友達(お爺ちゃん)
・近所の大工さん(お爺ちゃん)

・近所の不動産屋さん(かろうじてお兄さん、但しチョイ役)

以上です。

 

特筆するような事件やサスペンスやアクションやホラーは起こりません。

ある夏の日の朝から翌朝までをささやかに切り取って、お年寄りたちによる
トークや思い出話や愚痴話や口喧嘩を眺めているだけの映画です。
気分的にちょっとプラス、ちょっとマイナス、ちょっとプラス、ちょっとマイナスと
繰り返して、最後はちょっとプラスで終わる。


音楽で言えば環境BGM、
ゲームで言えばアクアノートの休日
そんな映画と言えるかもしれません。


90分という短い映画ですので集中して観ていられますが、
あともう少し長かったり、もう少し疲れていたりしたら
あっという間に寝てしまっていたと思います。

 

 

で、それが面白いのかというと。


これがなぜか面白いんですよねえ。


演技と景色。
この二点だけで格別な見応えを与えてくれるのです。

 

 

演技。

登場人物全員老人という中で、皆さまの演技が素晴らしいんですよね。

私の知っているお年寄りそのものなんですもの。
洋の東西って関係ないんやなあとあらためて感じました。


田舎の、引退した農家や漁師や店主の暮らしをイメージしてください……

やたら朝早く起きて、朝っぱらから友達が遊びに来てダベって、
午後はお昼寝して、夜からまた会合でお酒もちょっと飲んで、
ときには老人同士で喧嘩もして、次の日も朝早くに目が覚めて……という
お馴染みの生活リズム。


感情のコントロールが効かなくなってきていて、
要らんことをしてしまう、
こらえきれずに落ち込んでしまう、
言わなくていいことを全部言ってしまう、独特の業。

特に悪い癖をいくら指摘されても直さない銘々の開き直り方が実にいい。


そして、一人になったとき、昔の写真や思い出の品を手にして
物思いに耽ってしまう……表情。その横顔が。

 

こうした演技の尋常でないリアルさにかんたんしつつ、
リビーさん(目の見えない姉)の長い白髪の美しさに少しドキッとするのです。

お年寄り一人ひとりの魅力がすごいですよ。

 

 


加えて、お年寄りばっかりで胃が飽きてくるちょうどよい頃合いで
すこぶる美しい景色のカットを挿入してくれるのです。


大西洋独特の濃厚な青色。
夏の日差しを存分に浴びた草花。
月と星の尊い明かり。
朝焼けと遥か彼方を望む大海原。


時の歩みを体現しているお年寄りたちと、
永遠の輝きを体現している大自然の風景。


この対比がまた快くてね……


いい映画だなあと思ってしまうんです。

 

 

 

もうひとつ……

お年寄りたちの演技が上手すぎたために。


90分この映画を観るなら
90分リアルお年寄りの話を聞いた方が
いいんじゃなかんべか……とも思ってしまいました。

 

うーむ。
そうだね、孝行仁愛しましょうよ。

 

 

それぞれの老境に眺める景色が美しいものでありますように。