肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

映画「華岡青洲の妻」原作 有吉佐和子さん / 監督 増村保造さん(大映)

 

 

映画「華岡青洲の妻」における嫁姑の確執にかんたんしました。

  

www.kadokawa-pictures.jp

 

 

和歌山県の英雄、華岡青洲

全身麻酔を使用した乳がん手術※を世界で初めて成し遂げた方であります。

 ※女性の方はなるべく定期的にマンモグラフィ受けましょう

 

 

……華岡青洲のつくりだした麻酔薬「通仙散」の原料は、
マンダラゲ(別名キチ●イナスビ)という毒草です。

 



青洲さんはどうやって麻酔薬を完成させたのか。




それは当然……動物実験および人体実験であります。



 

人体実験には青洲さんの母・妻も参加いたしました。

賢母・良妻の美談はいまも土地に残っておりますが……

 

果たして単純な美談だったのか?

そこには嫁・姑の確執を軸としたドラマがあったのではないか?


と、小説として創作されたのが有吉佐和子さんであります。



この小説「華岡青洲の妻」は大ヒットし、映画化もなされました。

 

映画がまた、ものすごくおもしろいのですよ……!

 

役者さんがまずすごい。

青洲は市川雷蔵さん。
青洲の妻に若尾文子さん。
青洲の母は高峰秀子さん。


モノクロの画面に眉目秀麗な三人が映えること映えること。


女性陣の方言「~よし(~です)」がまた品よくてねえ。
(「~しよし(~しなさい)」とはまた違うんですよ) 

 



詳しいネタバレは避けますが、妻と義母の確執が深まる経緯がすごい。


映画冒頭、青洲さんは京に遊学していて不在なのです。

妻は旦那不在の家に嫁いできた訳です。


旦那不在の三年間。

妻と義母の仲はすこぶる良好だったのですが……。



青洲さんが帰ってきた途端、義母の態度は急転直下の冷たさに。


ああ、嫌な感じにすごくすごくリアルです。

男がいなけりゃ女は仲良くできてたのです。
男が間に入って取り合いが始まったのです。



ネタバレしませんが、ネタバレしたくなるほどの対立好演が
ビシリバシリと火花を散らし、義母が妻を見詰める視線の
鋭さ妬み深さに背筋がうぞぞぞと凍えます。


時代劇ですがチャンバラなんてまるでありません。

これは時代劇の器を借りた昼ドラです。
不信のときです。ウーマンウォーズです。

この手のドラマが好きな方には超オススメです。




男どもの能天気っぷりがまたいいんですよね……。


劇中でも青洲さんの妹が「兄は嫁姑の確執を理解した上で
自分の実験に利用している」と吐き出すシーンがあります。

確かにそれは的を得ていると思います。

嫁姑の争いに何ら口出しすることなく、夢・使命を追う医師として
まっすぐな青洲。

演じるのは当代最高のイケメン市川雷蔵
医師風のモジャ髪モジャ眉毛でもやっぱり美青年。

何もかもが超颯爽。
母も妻も意地を張りあう対象として最適です。
絶対、自分の魅力を確信したうえで振る舞っています。

 

そして、それ以上に能天気なのが青洲の弟子たち。

嫁姑問題には誰一人としてまったく気づかずに
「大奥様は偉い」「若奥様も偉い」と無邪気に褒めているだけなのです。

これ。
男どものこれ。

ええ憎らしい。

これですよ。
男の冷たさというのは気づかないふり以上に、
本当に気づいていないところにあると思いますよ私は。



このように。
100分の短い映画の中で、身もだえするほどの人間ドラマを
堪能することができます。

たいへん面白い作品だと思います。

 

ただ、劇中で「猫をつかった実験」「切り裂く系の外科手術」シーンが
ありますので、こうした描写がダメな方は避けた方がいいと思います。

この辺りは現代の作品では見られない感性ですから、
慣れていない方はびっくりしてしまうかと……。

 

 


最後に、女性中心の映画ですが、伊藤雄之助さんによる
青洲の父役演技が素晴らしかったことを紹介しておきます。


映画最序盤は嫁姑の対立もなく、市川雷蔵演じる青洲も帰郷していません。


導入部に盛り上がりがないのです。


そこを怪演で引っ張ったのが伊藤雄之助さんです。
存在感、アクの強さが最高です。

近所にこんな爺ちゃんおったなあと思わずにいられない、
すんごいマイペースなアクの強さ。
いまでは珍しくなった演技の方向性です……。



この映画は往年の時代劇役者の魅力がよく出ていると思います。

 

颯爽とした主人公。
凛とした女性。
デンとしたおじさん。

 

こうした役者が増えて、再び時代劇に活況が訪れますように。



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ところで、華岡青洲のご先祖はあの畠山高政に仕えていたという
伝承がございます。

意外なところで登場しますね高政さん。


遊佐長教・安見宗房という実権握りたい系謀臣の魔の手から逃れ、
河内・紀伊の支配者として権力を取り戻した高政さんは、
あの時代の守護大名としてはかなりの器量の持ち主だと思うんです。

応仁の乱からずっと分裂して内乱に励んできた畠山家が
かつての力を取り戻しかけたというのはすごいことですよ。

三好長慶松永久秀の登場で世の中の家格秩序が大きく揺らぐ中、
保守系世論の強力な受け皿になっていたんだろうな。


和歌山各地に残る伝承を丁寧に拾って読み解いていけば、
滅び去った畠山家の知られざる一面が見えてくるかもしれませんね。


ちょっとやってみたい作業です。