イギリスミステリの古典的名作「ウッドストック行最終バス」に
かんたんいたしました。
↓装丁のデザインがおしゃれだと思います。
概要。
夕闇のせまるオックスフォードでヒッチハイクをしていた二人の娘。その晩ウッドストックの酒場で、娘の一人の死体が発見された。もう一人はどこに消えたのか、なぜ名乗り出ないのか……謎また謎に、モース主任警部が導き出した解答とは? 論理のアクロバットが華麗な謎解きの世界を構築する現代本格の最高傑作
某書店のミステリコーナーでプッシュされていたので手に取ってみました。
1975年の作品ということです。
上記のあらすじの通り、ウッドストックの街で発生した殺人事件を
“モース警部”が追う……という内容です。
以下、ネタバレを含みません。
エピソードの特徴としては、若い娘さんの殺人事件ということもあって
性的な事情やふしだらな事情がけっこう登場してきます。
事情を反対から読むと情事なのです。
ドギツイ描写はありませんが、苦手な人もいると思いますから
あらかじめお含み置きください。
400ページ近いけっこうな長編になりますが、
連続殺人事件だとか冒険パートだとかで長いのではありません。
構成の特徴として、
① モース警部が仮説を思いつく
↓
② 裏を取りに行く
↓
③ つじつまが合わない!
↓
④ ①に戻る
という試行錯誤・ミスリードが大きなボリュームを占めていた印象です。
主人公のモースさん、物証を集めるよりも真相を想像する方がお好きなようで。
(ていうか科学的手法を駆使すればもっと早く解決していたような)
結果として何回か推理を“外す”のですけど、外すことで次の推理は
より精度が上がっていく、読者も他の選択肢を考えざるを得ない、という流れで
なかなか楽しゅうございました。
解説の新保博久さんによれば、著者のデクスターさんはこういったスタイルの
ミステリ執筆に定評のある方だそうです。
“クロスワードパズル的”なミステリづくりなのだとか。
(デクスターさんはクロスワードパズルづくりの名手でもあります)
モース警部は世界的に人気のある探偵さんですけど、
気分にムラがある方ですので感情移入はしにくいと思います。
とは言え、彼の推理に振り回されて「なるほど、そういう筋立てもあるか」
「って違うんかーい!」を繰り返すのはなかなかおもしろいんです。
個人的にはモース警部よりも部下のルイス部長刑事に同情しちゃいます。
ルイス刑事は魅力的なお方なんですよ。
家族を大事にしている人で、早く帰宅したくてそわそわしていたり。
他の警官がモース警部に褒められたらちょっと焼きもちしたり。
捜査でエロ映画見に行くことになって嬉しそうだったり。
なんだこの萌えライミー。
事件は多くの要素が絡まってからくりを構築しておりますので、
初見で完全解明するのは難しいと思います。
私は中盤くらいで直観的に犯人が誰かは分かったのですが、
真相を見破ったからではなく「まあポジション的にこいつだろう」と
火曜サスペンス劇場のお約束的な視点で当てた感じです。
「でもこいつが犯人ならこことここはどういう理屈で?」という謎解きは
モース警部の説明を待つ必要がございました。
いやー、事情に事情が重なって複雑な事件でした。
2/3くらいは見当がついてたんだけどなあ(負け惜しみ)。
なお、舞台がイギリスということでパブのシーンが多数出てきます。
警部や刑事が昼間っからビールをグビグビやっていたり
そのまま車を運転したりしているのは大変おおらかで羨ましいです。
(飲酒運転はぜったいにいけません!)
「ビター」「ライム入りのラーガー」という表現は独特の風情があって
なんだかとてもおいしそうな印象を抱きます。
ラガーをラーガーと発音するだけでイメージ変わるもんですねえ。
以上、こんがらがった春雨を一本一本ほどきながら食べていくような
ミテスリでありまして、それが独特なエンターテイメントになっておりますよ。
「主人公無双」が好きな人には合わないと思いますが、
「七転び八起き」が好きな人には合うと思います。
よろしければお試しください。
不幸な行き止まりに辿り着く色恋が減りますように。