平松伸二先生の自伝的漫画「そしてボクは外道マンになる」のコミックがついに発売されてかんたんしました。
そしてボクは外道マンになる|集英社グランドジャンプ豪華連載陣
若い人の中には平松伸二先生をご存じない方もいらっしゃるかと思います。
「ド外道が~~~!!(射殺)」
「地獄へおちろ~~!(刺殺)」
「我が心すでに空なり……空なるが故に無(浮遊)」
「け けだもの~~~!!(ヒロインレ●プ)」
「フフフ セーラー服は……いい!!(変態)」
「いんだよ細けえ事は!!(復活)」
「牙を突きたてろ(殺人許可)」
「ア~~どす恋 どす恋(ジゴロ)」
などなど、デビュー以来かずかずのアグレッシブ名言付き外道殺しバイオレンス漫画を生み出してきたお方です。
各作品の主人公が格好いいことにも定評があって、1970年代のジャンプでは随一の女性ファンを有してはったんですよ。
この「そしてボクは外道マンになる」はグランドジャンプPREMIUMで好評連載中の、平松伸二先生の自伝的な漫画になります。
フィクション・脚色が混じっているとは思うのですが(たぶん……さすがに……)、70年代ジャンプにおける漫画家・編集者の熱気が伝わってくる激しい内容となっております。
超こち亀の対談でも思いましたが、この世代の漫画家方のコメントって熱いんですよね。
1巻のあらすじとしては
16歳で漫画家デビュー(新人漫画賞受賞)
↓
18歳で上京し、「アストロ球団」の中島徳博先生のアシスタントに
↓
「ドーベルマン刑事」で連載デビュー(1975年……こち亀連載開始の1年前)
↓
読み切りや増ページで疲労困憊のうえ、先輩漫画家たちから嫉妬の嵐に……
という流れになっております。
平松先生、デビュー超早いです。
あらすじだけ見ると「漫画界のエリート物語」という感じですね。
しかしそこは平松伸二節。
どんな漫画でもドぎついケレン味を付加することに余念がありません。
この作品では、「当時のジャンプ編集者の恐ろしさ」表現などが突き抜けております。
「立っている」箇所を少し紹介しますと……
権藤狂児さん(担当編集)
「ボクはまだまだ未熟です…だあ~~?」
「そんな事ア分かり切ってんだよ~!」「いいか! 『少年ジャンプ』の連載はなア何百…いや」
「何千もの新人が血眼になって狙ってるんだ!!」「その千載一遇のチャンスがいらねえんだったら」
「とっとと荷物をまとめて」
「岡山のド田舎に」「帰りやがれエエエ~!!」
バキィッ(殴打)
ガッ ボゴッ(平松先生が吹っ飛び壁に大穴が空く)「やる前から弱音吐きやがって!」
「とんだ期待はずれだぜ!」
「ボケが」(帰る)
……連載デビューって大変なんですね。
この後、ドーベルマン刑事連載が決まった平松先生に対して、権藤編集がやったことがまたすごい。
作品に「怒り」が足りない、「外道」を知らねばならないと指導し……
なんとヤクザを雇って平松先生をボコボコにし、更には刑務所で連続殺人犯に面会させたのです。
このことが確かに平松先生を覚醒させたのですが……。
怖ええよジャンプ編集部!!
中剛裕次郎さん(編集長)
人気が出てきたドーベルマン刑事の増ページを権藤編集に命じます。
権藤さんは「いまの平松くんの力では毎週20ページが限界」とかばってくれるのですが(実は優しい権藤さん)……
「誰が限界だと決めたんだ アア~ン!?」
「権藤よオ どうして少年ジャンプは「ジャンプ」なんだよ~~~!?」
「「マガジン(雑誌)」や「サンデー(日曜日)」の名前はどうでもいい」
「「チャンピオン」と「キング」は王者や王様になった時が限界だ!」「だけどなア ホップステップジャンプの」
「ジャンプには…」
「限界がねえんだアアアア~!!」「平松には自分で自分に限界を作るなと言っとけエエ~~~~ッ!!」
「次週から毎週大増31ページに決定だアアア~~~ッ!!」
……ほんと怖いよジャンプ編集部。
ちなみにジャンプしているイメージの絵がブラックエンジェルズの雪籐さんが外道を殺すときのジャンプの仕方と同じで格好いいです。
仁死村繁樹さん(副編集長)
「地獄へ堕ちろ」しか言わない!
超怖い!!
本宮ひろ志先生(ジャンプ漫画の大先輩)
と、そんな感じで当時のジャンプは恐怖政治で統制されていたようなんですが(笑)。
この御大だけはそんな編集者たちを歯牙にもかけておりませんでした。
編集者のひとりを編集室から廊下までブッ飛ばしたうえで、
「オメエらよオ 一体 誰のお陰で飯が喰えてると思ってやがるんだアアア~~~!?」
「漫画家がよオ 必死こいて血ヘドを吐きながら」
「漫画を描いてるからだろうが~!!」「テメエらには」
「漫画家に対する敬意ってモンが」
「足りねえんだよオオオ~~ッ!!」スパァーッ(日本刀でデスクを両断)
と、編集者一同を恫喝し去っていきます。
さすが……!
きっと実話なのでしょう。
読者も怖い
ドーベルマン刑事はたちまち人気漫画になりましたが、第一話のファンレターはけっこう辛辣なものも多かったそうです。
特に多かったのが、主人公加納刑事の愛銃「ニュースーパー・ブラックホーク」の仕様について描き間違いを指摘する内容だったとか。
ブラックホークはシリンダーが外に出る仕組み(スイングアウト)ではなく、シリンダー・ゲートから一発ずつ弾丸を入れるのが正解ということで。
読者もすげぇ……。
他にもカミソリ入りやら、「ジャンプのレベルも落ちたな~~~!!」「あなたは岡山県人の恥です~!!」「「ダーティーハリー」のマネすんじゃねえ」といった罵詈雑言が続々と到着。
当時、ファンレターの内容にショックを受けて飛び降り自殺した漫画家もいると噂になっていたようですが、10代の少年がこんな手紙を読んだら確かにショックが深そうです。
現代はSNSとかでかんたんに読者リアクションを見ることができるので、やはり繊細なクリエイターはしんどいんでしょうね。
以上、「そしてボクは外道マンになる」の紹介でした。
まじめな部分と平松節の部分がいい塩梅にブレンドされていておすすめですよ。
2巻も9/19に出るようですしありがたい限りです。
現在発売中のグランドジャンプPREMIUMには「ブラックエンジェルズ 雪藤ですが...何か!?」が掲載されていました。
内容は最近の平松作品っぽく、ワイドショーからネタを拾ってきたようなギャグ寄りの読み切りでしたが……。
久しぶりに、シリアス寄りのバイオレンス作品も始まりますように。
「そしてボクは外道マンになる 2巻」平松伸二先生(グランドジャンプ) - 肝胆ブログ