ナポレオンさんの生涯を描いている漫画「ナポレオン 覇道進撃」の13巻が、ナポレオン帝国の崩壊間近感が色濃く漂いまくっていてかんたんしました。
↓マッセナさんの表紙が目印です
こちらの漫画「ナポレオン 獅子の時代(全15巻)」「ナポレオン 覇道進撃(連載中)」、とてもおもしろいのですが知名度が低い印象です。
覇道進撃13巻も発売日に行きつけの本屋さんへ買いに行ったのですが、新刊コーナーに平積みされることもなく、1冊だけが棚に入れられていました。
お気に入り作品がいまいち売れていない現実を見るとけっこう傷つきます。
作品の特長として、作者の長谷川哲也さんがナポレオンさんの生涯をよく消化しはった上で、登場人物ひとりひとりを「非常に濃い」キャラクターに再構築していることが挙げられます。
これは実に難しい知的活動で、どれだけ実力あるクリエイターでも歴史作品については「魅力的なのは主人公周辺のみ」「まわりのモブは主人公のすごさを引き立てる係」になりがちです。
その点、この「ナポレオン」はナポレオンさんの敵も味方も庶民も貴族も文化人も、それぞれが実にキャラ立ちしてはって、それぞれがそれぞれの人生を生きている感が素晴らしいんですよ。
ちょっぴり「濃い」魅力に偏りがちなところはありますが、登場する人物は男も女もイカした奴らばかりなのです。
膨大な数の人物が登場してくるので紹介し始めたらキリがないんですが、
・ナポレオン
・レティツィア(ナポレオンの母)
・ポリーヌ(ナポレオンの妹)
・ジョゼフィーヌ(ナポレオンの最初の妻)
・ダントン(〃)
・サン・ジュスト(〃)
・マルキ・ド・サド(小説家)
・サンソン(死刑執行人)
・デュゴミエ(フランス革命軍将軍)
・マルモン(ナポレオンの戦友)
・ビクトル(ナポレオン軍兵士)
・マッセナ(ナポレオン軍元帥)
・ランヌ(〃)
・ダヴー(〃)
・ネルソン(イギリス海軍提督)
・フーシェ(フランス警察大臣)
・ゲーテ(詩人)
・ゴヤ(画家)
・マッセナの御者
・サラゴッサでマルボが惚れた女性
……などなどの描写はとてもイイですよ。
とりわけ「獅子の時代」におけるロベスピエールさん、「覇道進撃」におけるタレイランさん&フーシェさんは主役の座を奪うほどの活躍ぶりです。
「「大陸軍は地上最強!」」というキャッチコピーとともに戦争描写が注目されやすい作品なのですが、内政・外交・陰謀面の描写も充実しています。
フランス革命に興味がある方はもちろん、歴史ものや政治ものや組織経営ものに関心のある方へ自信を持っておすすめできる作品だと思います。
前置きが長くなりました。
最新刊の覇道進撃13巻では、ナポレオンさんの再婚(ハプスブルク家のマリー・ルイーズさんと)や第一子出産、マッセナさんのポルトガル遠征などが題材になっています。
史実ではナポレオンさんの絶頂期……が過ぎかけている気がしないでもないところ、ロシア遠征直前のタイミングですね。
作品内でも「徐々にナポレオンの足下が崩れてきている」様子がふんだんに散りばめられています。
これまでの巻で既にハイチ革命やトラファルガー海戦やスペイン反乱や勇者ランヌの死などを経ており。
ナポレオンさんの腹心ということになっているタレイランさんやフーシェさんは幾度も幾度も謀略を巡らせております。
オーストリアなどとの戦争では最終的に勝利を収めていますが、以前に比べれば判断ミスや連携疎漏や士気低下が目立ちます。
これまでの30巻近い物語を通じて、読者はナポレオンさんのいいところも悪いところも、頑張ってきたことも哀しかったことも知り過ぎるくらいに知っています。
最高権力者ってのがあんまり幸せじゃなさそうなことも知っています。
それでも野心と使命感で突っ走ってきてようやく築き上げた大帝国が、あちこちでヒビ割れしている、崩壊はもう目の前に迫っている。
確実に生じる破滅直前独特のザラついた空気感。
再婚しようが世継ぎができようがピュリファイされるものではありません。
大河ドラマ的な英雄出世物語……秀吉さんであれ歴代中華王朝の初代皇帝さんであれ、出世している途中こそが面白くて、昇りつめて以後の話はいまいち人気がなかったりしますよね。
物語に華や派手さがなくなっていきますし、どうしても悲哀や失策や老醜が生じてまいりますし。
そういう訳で万人受けしないのは否めませんが……
私は、絶頂後の失策や没落や余韻から学べるものも多い、そうした「暗い」話もけっこうおもしろいものだと思っています。
これから漫画「ナポレオン」も史実通りの失速フェーズに移っていきます。
題材の関係上、漫画においても「勢い」「カタルシス」はなくなっていかざるを得ないでしょうから、読者が目減りしていくかもしれません……。
何とぞこの一大絵巻をセントヘレナまで描ききっていただきたいと願っております。
それにしてもあのマッセナさんまで引退。
もう「マッセナは奪うのだ!」も石鹸カッターも見ることができないんですね。
寂し過ぎます。
横山光輝三国志における諸葛孔明さんの台詞「将が小粒になってしまった」を思い出さずにはいられません。
もちろん他にも超実力派元帥はたくさんいるんですが、漫画的にマッセナさんほどキャラ立ちしていた方は少ないので……。
育て上げてきたキャラを強制退場させなきゃならないのも歴史作品のつらいところです。
この作品が無事に完走して、最後までちゃんとコミックが発刊されますように。
そのためにもコミックを購入する読者がも少し増えますように。