肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「恋愛と夫婦愛とを混同しては不可ぬ」芥川龍之介さん(青空文庫)

 

芥川龍之介さんの恋愛エッセイ「恋愛と夫婦愛とを混同しては不可ぬ」にかんたんしました。

 

……複雑な気分になりました。

 

青空文庫リンク

芥川龍之介 恋愛と夫婦愛とを混同しては不可ぬ

 

 

 


大まかな内容はタイトル通りです。


恋愛と夫婦愛は別物だと。

 

一般の人たちが考へるやうに、太く長く且つ平和に楽しめる夫婦生活といふものを、理想とし幸福として考へるならば、聡明な男女には自由結婚が適して居り、聡明でない男女には媒酌結婚が適してゐると私は言ひたい。併し聡明といふことと、青年といふことは、多くの場合一致しないものである。だから大抵の場合、媒酌結婚で結構だと思ふ。


よっぽど賢い人間ならば自由恋愛の果てに結婚すればよいが、多くの人間(特に若者)はそうではない。
結婚するなら媒酌結婚(仲人により斡旋された結婚という意味か)で結構だ……という主張。


ただ、

無知な大人が媒酌する結婚は、聡明でない青年男女が自由結婚をするのよりも遥かに危険である。

と、アホな仲人が媒酌する結婚は危険とのことです。
夫婦候補二人の人生観、更には結婚後の変化までを見越したマッチングが重要という意ですね。

 

 

 ……その上で。

私は愛の恒久性や純潔さを疑ふ。愛の変化消滅といふことについては厭世的である。恋愛の陶酔といふものが永続するとは考へられない。結婚して幻滅の悲哀を感ずるとは、よく聞くところであるが、結婚のみならず人生は総て幻滅の連続であらうと思ふ。結婚前の陶酔した恋愛とても、その過程の中には幾多の幻滅があるし、結婚後の永い生活の間にも屡々幻滅を感ずる。幻滅のない恒久性の愛といふものは考へられない。この点から私はホリデイラヴ、即ち一週間に一度の恋愛を主張する。

恋愛といふものはそんなに高潔であり恒久永続するものではなくて、互に『変るまいぞや』『変るまい』と契つた仲でも、常に幾多の紆余曲折があり幻滅が伴ふものである。だから私は先に言うたやうにホリデーラヴを主張するのである。よしんば其の恋愛が途中の支障がなく、順調に芽を育まれて行つたにしても、結婚によつて、それは消滅し又は全く形を変へてしまふのである。
自由結婚にしても媒酌結婚にしても、結婚生活といふものは幻滅であつて、或る意味に於て凡ての結婚といふものは、決して幸福なものではないと思ふ。

 


恋愛というのは永続性がないもので、やがて幾多の幻滅を伴うものであるから、結婚生活なんて幸せなものではない。
ホリデーラブ(要は浮気・不倫)に励むのがオススメだよ……。

 


という内容であります。

 

 

 

芥川龍之介!!


ゲス過ぎるぞ!!!

 

 

 

 


芥川龍之介さんは主に大正時代に活躍された文豪であります。

言わずと知れた超有名人ですね。

 


彼は「塚本文」さんへ熱烈に求愛(ラブレターの内容が広く知られています)した後、1919年に文さんとめでたく結婚いたします。

文さんとの間には3人の男子を授かることもできました。

 



されど。

 

一方で、芥川龍之介さんは浮気・不倫を繰り返してもおりました。

 


…………。

 


その上、精神面の衰弱も甚だしくなっていき……。

 


1927年に自殺を遂げます。

彼と文さんの夫婦生活は10年も経たずに終わりを迎えました。

 

 

 

この「恋愛と夫婦愛とを混同しては不可ぬ」は1924年の発表のようで、タイミングとしては結婚5年後・自殺する3年前に当たります。


文章から伝わってくる厭世観、虚無感、孤独感、頽廃感……。

この頃から、本業の小説についても作風が変わって参りますが……。

 


彼の精神衰弱は健康面・経済面など様々な要因が絡み合っており、いまもって自殺に至った要因は特定されておりません。

されておりませんが、この文章を読んでいると女性生活面の絶望もあったのでしょうか。
それとも、精神が衰弱していたからこそ女性生活面も崩れていったのでしょうか。

芥川家の夫婦生活も含め、我々第三者には想像することしかできませんけれど……。

こうやって人の私生活を想像していること自体、私もたいがいゲスい……自己嫌悪感が湧いてきますけれど。

 

 

 

 

文さん。


彼女の気持ちを想像してしまうと……。

 

 

あんなに文ちゃん文ちゃん口説いてきておきながら。


浮気・不倫を繰り返した夫。

関東大震災時、子どもたちを置いて一人逃げ出した夫。

芥川家親族からもたらされる面倒事厄介事。

生活の困窮と将来の不安。

衰弱していく愛しい人。

 
そんな中、こんな文章を雑誌で公表されてしまったのです。

 


もう……。

 


芥川龍之介さんの自殺時、彼女は彼の遺骸に「楽になれてよかったですね」という趣旨の言葉を囁いたと伝わっております。

 


その後、第二次大戦では次男をも失い。

 


文さんは昭和43年に永眠。
棺には芥川龍之介さんの手紙と写真が収められたといいます。

 

…………。

 


尊い女性ですね……。

 

 

 

 

 


表題の文章、一般論としてもそれなりに面白い文章ではありますが(ゲスいけど)、芥川夫妻の生涯を思うとたまらない気持ちになります。

著者どころか著者の妻まで想起させて読者の心を揺さぶるのはずるいです。
反則です。

 


……揺さぶられてしまいました。

 

 

結婚後に幻滅を感じたら、その上、不愉快な生活を続けるよりも離婚したらよい。商事契約に於て、解約すれば権利も義務もなくなり全然無関係となるやうな具合に、結婚や離婚に対しても、もつとあつさり考へたい。離婚や再婚を罪悪視するのは余りにこだはつた考へ方であると思ふ。況んや見合ひなどした際、どちらか一方が幻滅を感じたにも拘らず、当座の義理や体裁から、これを有耶無耶に葬つて結婚するなどに至つては笑止の極であると思ふ。


そんな風にあっさり結婚生活をあきらめてはいけないと、あえて素朴な意見を申し上げたいと思います。

 

て言うかあの世で文さんに詫びろ。

て言うかもげろ。

 

 

 


世の夫婦みなさまが爆発するほど幸せでありますように。