テレビで「松永久秀さん悪人じゃないよ説」をやっていてかんたんしました。
下剋上の戦国時代。
裏切りと悪行に彩られた生涯を送った伝説の武将がいた。
戦国の大悪人と呼ばれた松永久秀!
かの織田信長も、徳川家康に松永を次のように紹介したと伝えられる。
「この老人、これまで人のようせぬことを三つしよった。
まず足利将軍を殺害した。
主君三好家への謀反が二つ目。奈良の大仏殿を焼いたのが三つ目でござる」
江戸時代に作られた歌舞伎の演目「金閣寺」にも悪漢として登場し、
その人物像はダークヒーローとして広く定着した。だが、最新の歴史研究で、
松永の悪人伝説は後世に作られたものだった事が判明!
現代に残された数々の証拠から、全く違う人物像が浮かび上がってきた!
悪名高き松永の東大寺大仏殿焼き討ちは冤罪だった!?
東大寺を舞台に繰り広げられた三好三人衆との攻防戦の真実とは?さらに松永は、信長よりもはるか前に、
天守がある近代的な城を築いていたという。
安土城のモデルとなった久秀の革命的な城とは?
幻の名城を求めて、古都・奈良を現場検証。そして、松永久秀を最も有名にしたのが、信長軍との死闘の末、
自らの居城・信貴山城の天守に立てこもっての爆死。
しかし、これもまた作り話だった可能性が!この伝説を否定する史料とは?
戦国のダークヒーロー・松永久秀の悪人伝説の真相を徹底捜査!
こんな番組があったんですね。
BSらしい、タレント出演費用を節約(番組タイトルには最大限活用)して製作スタッフが頑張って取材してくる系の番組のようです。
歌舞伎系の役者さんがこの手の番組をよく引き受けている印象がありますね。
収録が楽な割にギャランティーがよくてwin-winな感じなのでしょうか。
天野忠幸さんの監修・取材協力のもと、最近の松永久秀研究を1時間でざっと紹介する構成でした。
⇒「松永久秀」編 天野忠幸さん(宮帯出版社) - 肝胆ブログ
「三好家の忠臣説」要素も若干入りつつ、「悪事は冤罪だよ」「城づくりや茶の湯に長けた文化人だよ」という点がプッシュされていましたね。
テレビなので「信長以前に松永久秀が城づくりに革命を起こしていた!」といった大げさな表現がちょいちょい気になりましたが……。
(天守閣などは久秀さん以前の畿内城郭にも存在した可能性があります。こうしたインフラ系の技術進展を誰か一人の功績に結び付けるのはそもそも無理があるような)
番組のまとめとしては。
「久秀さんの三悪事は冤罪である」
「多聞山城は超イケてる」
「信長さんとは当初同盟関係だった。手切れしたのは信長さんが筒井順慶さん(久秀さんのライバル)に大和支配権を与えたからである」
「久秀さんが悪人扱いされるようになったのは、三好家臣時代に長慶さんに並ぶほどの官位・役職を得ていたからである。こうした大出世は後の天下人や江戸時代人からすれば家格秩序を乱す“悪”でしかない」
「爆死はしていない」
辺りでしょうか。
従来天野忠幸さんが主張されてきたことを素直に紹介してくださっています。
「楠木正虎」さんなんてマイナーネームがテレビに出てきたのにもびっくり。
私の感想としましては。
あらためてテレビでつれづれ紹介されているのを見ると……
松永久秀さんって「歴代上司の人事政策の被害者」感が半端ないですね。
初代上司の三好長慶さん。
(テレビや雑誌等で普通に天下人扱いされるようになってきましたね)
久秀さんが後世で悪人扱いされるようになった原因が、本当に三好家臣時代の「従四位下就任(長慶さんと同格)」「相伴衆就任(長慶さんと同格)」にあると言うのなら……。
長慶さんの「任命責任」が大ということになります。
長慶さんは朝廷官位の「従四位下」を自分・息子の義興さん・親戚の三好長逸さん・家来の松永久秀さんに与えたり。
幕府役職の「相伴衆」を自分・息子の義興さん・家来の松永久秀さんに与えたりしています。
これらの待遇は基本的に名門守護大名の家柄の人にしか与えられないもので、当時の常識としては三好家程度の家柄の人に与えられるものではありません。
(ちなみに長慶さんのかつての主君「細川晴元」さんも従四位下です)
それを、自分自身はおろか、親戚や家来にまでばら撒いちゃっている訳です。
しかも昔から「守護不入」だった大和国を久秀さんに制圧させちゃうし……。
やっぱり長慶さん、ちょっと頭おかしいと思います。
(そんな長慶さんが好きです)
伝統権威をコケにし過ぎですよね。
こんなことしてたら、そりゃ伝統的偉い人たちから憎まれるに決まっています。
他の大名たちからすれば、こっちは先祖代々の勲功の積み重ねでやっと官位や役職をもらっているのに畿内では名もなきおっさん(久秀)がいきなり社交界デビューしてんのかよですからね。
ナポレオンさんが家族会議でヨーロッパ各国の王様を決めていたのに近い感じがしますよ。
こうした久秀さんへの栄典付与が、「主君の長慶さんと同格なんてけしからぬ」と後代の人による悪評を招いた。
合わせ技で、長慶さんも「久秀さんに下剋上された残念な人」扱いされるようになっていった。
もとをただせば長慶さんの人事政策が原因じゃねーかという……(笑)。
二代目上司の三好義継さん(&足利義昭さん)。
長慶さん死後の三好家を急遽治めることになった気の毒なピンチヒッターです。
この方も面白い方で……
三好三人衆の力を背景に、足利義輝さんを弑逆したり松永久秀さんと戦ったりしていたのですが。
三人衆と不和になった(子ども扱いでもされたんでしょうか)からと、三好三人衆方から松永久秀方に寝返り。
「三好家当主が」寝返り。
…………。
久秀さんも嬉しい反面、微妙な思いも抱いたんじゃないでしょうか。
まったく、父親の額を見てみたいものです。
義継さんはその後も足利義昭さんを匿って信長さんに攻められてしまいます。
最期は壮絶に暴れ回って討死を遂げたそうで、織田方からも武勇を称賛されています。
大大名というより「剛の者」という印象ですね。
まったく、父親の額を見てみたいものです。
義継さんが滅びたことで、久秀さんの本来筋の後ろ盾が消失。
このことが久秀さんを追い詰めていったことは想像に難くありません。
そういう訳で、久秀さんは二代目上司からも散々に振り回されたことになります。
三代目上司の織田信長さん。
テレビでも紹介されていた通り、大和支配権を筒井順慶さんに与えたことで久秀さんのマジ切れを誘発します。
昨今よく言われている、「部下の地雷を踏むことに定評のある信長さん」というやつでしょうか。
まあ、個人的には信長さんの人事判断ミスというより、筒井順慶さんが大和の地にしっかり根付いた勢力を有していたことであったり、三好家没落により久秀さんの力もまた目減りしていたことであったりの結果なんだろうなとは思いますけど。
むしろ、この頃になると信長さんも久秀さんの扱いに困っていたんじゃないかとすら思います。
長慶さんの手で異常なまでに出世して、とんでもないランクの栄典保持者で。
義継さんの手で異常なまでに振り回されて、最近はかつてほどの力はなくて。
言い方は悪いんですけど……信長さんの治める若い職場に「役職定年した昔は偉かった人(買収した企業の元重役)」がひとり混じっている感じ。
後期織田家はM&Aを繰り返した急成長大企業のようなもんですから、管理者としての信長さんはさぞ大変だったことでしょう。
かくして久秀さんは三代目上司の人事政策に反発して命を散らすことになりました……と。
だらだら色々書きましたが、ほら、久秀さんってけっこう被害者感ないですか。
なまじ有能だったために。
なまじ長慶さんに見出されたために。
弟の長頼さんは先に戦死しちゃうし……。
梟雄!
ダークヒーロー!!
からの……
忠臣!
気の毒お爺ちゃん!!
振れ幅が大きすぎますね。
これから各種創作で久秀さんがどういう風に扱われていくのか楽しみです。
現代での扱われ方がどうであろうと、史実の久秀さんは安らかに成仏してはりますように。