アウトレイジ最終章を昨夜観てきて、「わざとなのかな、わざとじゃないのかな。わざとだったら凄いな」と思い至ってかんたんいたしました。
上映中ですしストーリー展開のネタバレはいたしません。
遅い時間の上映ということもあって、思ったより客数は少なかったです。
観終わった直後の正直な感想としましては……
「前作・前々作に比べて迫力なさ過ぎ」
「て言うか全員老い過ぎ」
「老人会の揉めごと見てるみたいで哀しくなるわ」
というものでした。
前作から5年後の公開。
主要キャストはいまや軒並み70歳前後なんですよ。
そりゃ迫力も猛々しさも出ないさね。
初代「アウトレイジ」、二作目「アウトレイジ ビヨンド」があまりにも面白かったものですから。
続編を観たいファンが押し寄せて動員数的にはヒットしているけど、評価的にはいまひとつ……という作品になりそうだな。
そんな風に思ってしまったのです。
でも。
一夜明けて、いろいろと思い返してみて……
あれ?
ひょっとして、あの“残念な老醜感”。
“わざと”だったんじゃねーの??
と……思いついて。
それならば色んな設定が整合してしまう!
まじか、そういう文学的な映画に実は切り替えてたん?
と一人盛り上がってしまいました。
考え過ぎかもしれません。
というか高い確率で私の妄言だと思いますが、あえて仮説を書いていきます。
もし。
この映画の真のテーマが「老醜」だったとしたら。
一作目・二作目から目も当てられないくらいに弱体化した関東「山王会」。
まるで主要事業を切り売りしまくったかつての大企業を見ているかのようです。
いまだ日本最大の暴力組織でありながら、組織内では残念な派閥争いと停滞感が蔓延している関西「花菱会」。
資本・内部留保はいまだ盤石ながら、発展するビジョンは見えない各業界の盟主企業かのようです。
今作で大きく存在感を増した在日韓国人集団「張グループ」。
彼らの目は既に日本のヤクザ組織から離れていっています。
舐められるのは承服できないものの、日本ヤクザを相手にしても旨味スケールが小さいことをよく理解している。
成長の止まった日本市場から中国沿岸部に移転を検討している外資系企業のようです。
ストーリーやら各キャラクターの演技以前に。
設定面から「ヤクザ業界の老い」(≒日本社会の老い)がひしひしと伝わってきます。
そう言えばビヨンドと最終章の間に「龍三と七人の子分たち」も挟んでいたな……。
あれはコメディタッチでしたが、最終章ではガチで「老い」を描こうとしているのか?? と。
役者方に移ります。
ビートたけしさん。
完全に暴走しているキャラになっています。
世話になった張会長には迷惑をかけたくないと言いつつ、迷惑かけまくり。
バイオレンス映画なので無双感はあるんですが、それ以上に迷惑感が半端ないです。
前作・前々作のような「共感を呼ぶ感情の爆発」ではなく、「共感を得られない感情の暴走」なんです。
暴走老人。
ある種“無敵”の存在。
無敵老人がまき散らす迷惑感が、くっきりと表現されていたように思います。
……繰り返しますが、狙い通りなのか素で年取っただけなのかが本当に分からない。
滑舌の悪さ。
声の通らなさ。
演技なの? 素で衰えたの?
これで次回作でイキイキエネルギッシュ演技していたら、みんな「騙された!」ってなりますよね。
大杉漣さん。
ポストと実力が釣りあっていなくて、配下の支持をまるで得られていなくて、空回った虚勢を張りまくっている役回り。
虚勢、コンプレックス、虚勢、コンプレックス……負のスパイラル。
偉い人にありがちな老醜のカタチです。
西田敏行さん。
ビヨンド時代の異常な迫力がぜんっぜんなくなってしまった人①。
演技は同じ方向性なのに、猛獣のような恐ろしさが1/4くらいになっています。
その代わりに寝技・謀略の凄味は増していましたが……。
まさに元武闘派の老後。
激しい系恐怖人材から奥之院系恐怖人材への転身。
この変化も素なのか演技なのか分からない。
演技なんだったら凄すぎると思います。
塩見三省さん。
ビヨンド時代の異常な迫力がぜんっぜんなくなってしまった人②。
演技の方向性も変わっていて、“気力”が萎えたお年寄りそのものですよ。
大病を患ってはりましたからね、それこそ“素”なのかもしれませんが。
塩見さんの病気までを織り込んだ演出なのだったとしたら……。
岸辺一徳さん。
一般にイメージされる「悪い政治家の老人」そのものです。
これは間違いなく演技の力でありましょう。
ピンポイントながら終盤最高のバイプレイヤーでした。
一徳さんの悪いお年寄り名演を観て、「ひょっとして他の役者陣もわざと“老い”を強調している……?」と考えてしまったのです。
以上の日本ヤクザ重鎮役の方々。
閉塞感漂う暴力団業界の設定と絶妙に噛み合っています。
他、ピエール瀧さんの演技はとても面白かったです。
素直に笑えました。
物語全体の老いを上手くカムフラージュしてくれていたのかもしれません。
張グループの金田時男さんと白竜さん。
このお二人は逆に“老醜”を見せない役回りでした。
白竜さんは「現役」感が漲ってはりますし、金田時男さんは「本物」感が溢れています。
彼らが「醜くない」役割だからこそ、日本ヤクザサイドの「老醜感」が引き立つのです。
というか金田時男さんの存在感・本物感がずるいくらい凄い……!
数少ない「若い」演技をしてはったのは、たけしさんの弟分役の大森南朋さん、張グループの韓流スター系の若者、チンピラ原田泰造さん軍団、それに刑事役の松重豊さんといったところ。
大森さんは若者の純朴な部分、韓流スター系の人と原田泰造さんは勢い任せな無茶しやがって感、松重豊さんは高齢役者陣が失った猛々しさ、そういった面がフィーチャーされておりました。
ただ、この方々は物語的には高齢役者陣の周縁部分に位置しますので、映画の中心はやはり老いた方々なのです。
むしろ、老いた方々の“残念感”を引き立たせるための役割だったんじゃないかとすら思いました。
松重豊さんが悪を討つ的方向に暴れた方がバイオレンスものとしては面白そうでしたもん。
いかがでしょう。
ちょっと深読みし過ぎかもしれませんが、人間の老いをありありと描写した文学映画という評価もできる作品だと思います。
今後、こういう老いた組織・人物が日本のあちこちで跋扈することになりますからね……。
北野武さんから日本社会へのブラックなプレゼントなのかもですよ。
他、印象的だったものとしては「拳銃の音」と、「和泉ナンバーのレクサス」。
なんか妙なリアル味を感じました。
拳銃の音なんてリアルで聞いたことないですけどね。
普通のヤクザ映画よりもクリアな音が出ていたような気がします。
以上、アウトレイジ最終章の感想でした。
いずれ、今作の主演陣が別の作品でエネルギッシュな演技をして世間と私を驚かせてくださいますように。
南無八万の親分の笑顔が好きでした。