肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

絵本「曾我兄弟」文:砂田弘さん・絵:太田大八さん(ポプラ社)

 

図書館にて、よい子の絵本コーナーに「曾我兄弟」という死には死をもって報いよ的な物語が紛れていてかんたんしました。

 

www.poplar.co.jp

 

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あの曾我兄弟です。

能や歌舞伎を好きな方にはおなじみのストーリーですね。

 

気の毒な男(工藤祐経さん)が土地と嫁を奪われます。

気の毒な男は、土地と嫁を奪った父子を報復に暗殺します。

暗殺された父子には曾我兄弟という子どもたちがいました。

大きくなった曾我兄弟は、気の毒な男を報復に斬殺します。

曾我兄弟も兄は斬り死に、弟は斬首されます。

残された曾我兄弟の母と恋人は供養の旅に出かけます……。

 

というあらすじ。

みごとなくらい誰も幸せになっていないですね。

 

 

日本の仇討ち物語のなかでも屈指の知名度を誇りますが、江戸時代や明治時代と違って、現代では工藤祐経さんにも充分な事情があったことや北条時政さん周辺のもろもろの陰謀なんかが明らかになっておりますので、なかなか曾我兄弟だけをヒーロー扱いもできないんですけど。

忠臣蔵と同様に)

 

それでも……

単純な勧善懲悪ものとしてではなく、無常観・虚無感に触れることができる武士のあわれの物語として、この曾我兄弟はいまもなお独特の輝きを放っているように思えます。

 

 

 

この物語をちびっ子向けの絵本に忍ばせているのがいいですね。

子どもたちがこの絵本を「読んで~~」と持ってきたときは目を疑いましたよ。

 

小学校低学年や幼稚園児に理解できるんだろうか……と思いながら読んであげたら。

 

……想像以上に食いつきがよかったです。

 

 

たぶん、子どもたちからすれば異世界ファンタジー以上の異世界感があったんでしょう。

 

日ごろ彼らが接する物語とは道徳も価値観も違いすぎますからね。

 

 

源頼朝さんの命令

「ただちに ふたりをとらえてまいれ。首をはねる」


 ↓
子どもたちのリアクション

「え!? なんで殺されなあかんの!?」

 

 


……まったくその通りであります。

 

子どもたちよ。

幕府と格好よく言っても実態は軍事政権。

粛清に次ぐ粛清こそがその本質なのだよ。

幕府ができましためでたしめでたしじゃないんだよ。

平家との闘いよりも粛清で死んだ人の方が多いのかもしれないよ……。

 

とは心の中で思いつつ。

さすがに頼朝さんや時政さんの恐ろしさを一言で説明するのは難しいです。

 

 

物語の締めくくりのセリフも

「それにしても、ひとのいのちのなんとはかないことか」

ですからね。

 

ごっついインパクトを子どもたちに与えた様子でした。

 

子どもたち自身、何が面白かったのかうまく言えない感じでしたけど……

「なんかおもしろかった!!」

と喜んでおりました。

 

 

 

現代に生きる子どもにとっては、ひょっとしたらこの絵本は“毒”かもしれません。

 

でも、子どもたちの記憶の奥深いところに、こうした日本古来の情とあわれを染み込ませておくことは。

やがて子どもの視野や関心を広げたり彩ったりすることに繋がるかもと思いました。

 

きれいで健やかなものばかりインプットしてもちょっとですしね。

 

 

 

曾我兄弟という物語は、この500年くらいずっと親しまれてきたんです。

暴力や報復が許されない現代であっても、人の琴線に触れる力はあんがい変わっていないのではないでしょうか。

 

 

月夜を飛ぶ雁の家族を見て涙する曾我兄弟。

仇討ちを煽ったことを後悔し嘆く母。

ほのかな疑念だけでためらうことなく処刑を命じる頼朝。

曾我兄弟の助命を嘆願する畠山重忠和田義盛、梶原景季、千葉常胤ら善玉御家人

曾我兄弟をバックアップする一見優しい北条時政

残された女たちの哀しみ。

 

 

印象的な場面の数々は、いまも人々を惹きつけてやみません。

 

家族を思う美しい気持ちと、人間社会の因果応報、とめどない寂寥……

こうしたモチーフが時を超え、これから先の人々にも語り継がれていきますように。

 

 

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ちなみに曾我兄弟の物語は戦前まで教科書に載っていたそうです。

教科書から外すときは、やっぱり「曾我兄弟を消すなんて日本史のロマンがなくなる」「日本人の美しい心を冒涜するな」「ゆとりか」的な声が殺到したんでしょうか。

物語と学問の区別という概念が浸透していないのは今も昔も一緒なのかもです。

 

 一方、教科書から外れたこともあって曾我兄弟がマイナーになっていったのも事実だと思います。

自分の推し偉人を教科書に載せておきたい気持ちそのものはよく分かりますね。