表題の本「地学ノススメ」が地学のおさらいと最新研究のインプットに最適な内容になっていてかんたんしました。
現在京大教授をやってはる鎌田浩毅さんの本になります。
ときどきテレビや新聞にも出てはる人ですね。
本のあらましは
東日本大震災を境に、日本列島は「大地変動の時代」に入ってしまった! 複数のプレートがひしめく恐るべき地理的条件にあるこの国で生き延びるには、「地学」の知識が不可欠だ。しかし、高校での履修率は低く、多くの人の地学リテラシーは中学レベルで止まったままである。ご存じ「地学の伝道師」が、地学の「おもしろいところ」「ためになるところ」だけを一冊に詰め込んだ、すべての日本人に捧げるサバイバルのための地学入門。
ということで、まさにこうした再履修系の本を読みたかったのでありがたかったです。
地学ってなんか面白そうですけど、高校以降ちゃんと勉強した記憶がないですもんね。
著者の鎌田さんの危機意識もこの辺りにあるようで、授業時間削減や大学受験との関係で最近の学生の「地学離れ」が半端ないそうです。
……さいきん、歴史でも似たような話があった気がします。
「教科書から坂本龍馬や武田信玄や上杉謙信が消えるかもの件」 - 肝胆ブログ
学問は年を追うごとに広く、深くなってきていますし、地学も含めて学際的なアプローチが求められるようにもなってきています。
そんな中、義務教育や3年+4年の高等教育程度の時間では「世界に存在する楽しい学問の数々」を網羅することなんて全然できないってのが現実なんでしょうね。
地学や歴史もそうですし、社会に出る直前の学生においては実際的な法務(特に民法や労働関係法)や消費者問題、公的年金も含めた金融・資産形成リテラシー、もちろん基礎IT……などなど学んでほしい領域はたくさんたくさんあります。
もう、寿命もずんどこ伸びてるんだし25歳くらいまでみんな勉強していてもいいんじゃないかなあ。
社会人になってから「余裕と好奇心のある人だけが学び続けなさい」だと、格差や歪みが大きくなるばかりのような。
という雑談は置いといて本の中身です。
本は9章構成になっておりますので順に紹介してまいります。
第1章 地球は丸かった
-人類がそのことに気づくまで
ピタゴラスさんやアリストテレスさんによる「地球は丸いようだ」に始まり、エラトステネスさんによる「地球一周は四万キロメートルくらい」、マゼランさんの「地球を一周してみたよ」、ニュートンさんの「丸いというか楕円」、人工衛星での精密観測による「厳密に言えば洋梨というかジャガイモというか」に至るまで。
地球の形をめぐる人類史をざっと紹介していただける章になります。
第2章 地球の歴史を編む
-地層と化石という「古文書」
地層に含まれる成分や化石は地球の歴史を雄弁に語ってくれる「古文書」であると説いてくださる章です。
実地の観察を繰り返して史料精査を行い、確かな事実を積み上げて理論を形成していくという過程は他の学問と同様の基本行動ですね。
地学の実地調査は世界中の火山や海底などがフィールドになりますので、スケールが大きくてロマンを感じます。
第3章 過去は未来を語るか
-斉一説と激変説
斉一説……過去に起きた地質現象は現在起きつつある自然現象の注意深い観察によって知ることが可能である。言い換えれば、自然はゆっくり絶え間なく変化してきたので、現在観察される現象から過去を読み解くことができるし、過去は未来を解く鍵として活用することも可能、という考え方。
激変説……ノアの洪水的、神の御心的な天変地異により地球環境が形成されたという考え方。
現代では基本的に斉一説ベース、ただし隕石衝突による恐竜絶滅など一部激変説も織り込みうる、と広く理解されておりますが。
西欧社会の人々が聖書から離れてこうした知見を得るようになるまでには多大な時間と努力が必要であった、という章です。
聖書が歴史の中で果たした役割というのは本当にどえらいもんですね。
第4章 そして革命は起こった
-動いていた大陸
「動かざること山のごとし」というが、実際の山は「動いている」。
「ウェゲナーさんによる大陸移動説」からしばらく経っての「プレート・テクトニクス説の誕生」。
地面・海底の下では「プレート」が動いていて、その力で山は動くし海底は裂けるし大陸は千切れていく。
「パンゲア超大陸」から現在の大陸配置に至るまでの流れを人類はようやく理解できるようになったのです、という章になります。
話がどんどんダイナミックになってきていますよ。
個人的には、アイスランドでは現在も地上が引き裂かれているという内容に関心を抱きました(ユーラシアプレートと北米プレートの境目なので)。
第5章 マグマのサイエンス
-地球は軟らかい
火山活動の基本的な仕組みを、4章で学んだ「プレートテクトニクス」概念をつかって分かりやすく教えてくださる章です。
海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいく。
海洋プレートは幾ばくかの水分を含んでおり、地下に沈んだプレートの上にあるマントル層に比重の軽い水分が移っていく。
マントル層の岩石が水分を吸収し、地熱と減圧で溶けてマグマとなっていく。
こうした動きでマグマができるので、プレートが沈み込む場所(日本とか)には火山ができやすいんだよ、と。
分かりやすいです……。
私の文章では伝わらないと思いますが、実際の本はすこぶる分かりやすいですよ。
学んだり思い出したりした知識が次の章で新たに学ぶ内容にそのままぴったり繋がっていく楽しさ。
ワクワクさせられます。
第6章 もうひとつの革命
-対流していたマントル
めちゃくちゃ面白い章です。
「ものすごく長い時間がたてば、個体も流れる」……動くのはプレートだけではない。
沈み込んだプレートの残骸はゆっくりと地球の核付近まで沈み込んでいき(下降流……コールドプルーム)、反作用で核の表面から巨大で熱いプルームが上昇していきます(ホットプルーム)。
こうした動きを「プルーム・テクトニクス」というらしいのですが、面白いのがこの地球内部の物質大循環が地磁気を生み出し。
この地磁気が約27億年前に誕生したことで、地球は有害な太陽風をガードすることができるようになった。
すなわち、地球上に生物が溢れる条件が整った、ということです。
ああ……断片的に聞いたことのあるような話がきれいに繋がった。
ものすごく頭がすっきりします。
地球を覆う地磁気シールド。
スーパーロボット大戦α外伝みたいでロマンの塊ですね。しかも27億年前から実現済。
第7章 大量絶滅のメカニズム
-地球が生物に襲いかかるとき
過去5億年間に発生した地球上の大量絶滅事件のうち、2億5000万年前に起きた古生代の終わり/中世代の始まり(P/T境界)の経緯を説明してくださる章です。
急に生物学っぽい話になりますが、この時期に生物は「古生代型動物群」から「現代型動物群」にガラッと様変わりしたんだと……。
その原因は6章で学んだ「プルーム・テクトニクス」にありました。
すなわち……地球内部の対流の擾乱。
擾乱ですよ擾乱。観応の擾乱くらいでしか出てこないあの単語ですよ。
マントルと核の境界付近で温度のバランスが崩れる
↓
地磁気の強度が低下する
↓
それまでブロックされていた宇宙線が地球に降り注ぐ
↓
さらに、地球内部の対流の乱れが大規模火山活動を促す
↓
\火山大噴火/
↓
空中を漂う大量の火山灰で太陽光が何十年も遮られる
↓
マグマに含まれていた二酸化硫黄ガスが酸性雨を降らせる
↓
気温低下、食料不足、大気汚染、海中での酸素欠乏……
↓
さよなら古生代
具体的すぎてめっちゃ怖いです。
断片的に聞きかじったことはありましたが、こうやって詳細に知ると身震いががが。
第8章 日本列島の地学
-西日本大震災は必ず来る
必ず来ますか……そうですか……という章であります。
斉一説という言葉もありましたが、地学的調査の数々の結果、2038年前後に西日本大震災が起こるのはほぼ確実です、という説をご教示くださいます。
南海トラフというやつです。
……どこで暮らせばいいんだろう。
現実のタスクとして、2030年代に入ったあたりから人生計画や事業計画に巨大地震リスクへのアセスメントを反映するべきなんでしょうね……。
第9章 巨大噴火のリスク
-脅威は地震だけではない
地震で文明が滅ぶことはないけど火山噴火で滅ぶことはあるんだぜ。
7章読んだでしょ、という内容です。
とりわけ「北朝鮮の白頭山」が噴火したら東アジアに広く被害をもたらす……しかもそろそろ噴火してもおかしくない時期……今頃めっちゃマグマ溜まっているはず……という嬉しい知識までインプットしてくださいますよ。
Oh……。
と、数々の学びを得ることができる素晴らしい入門書です。
日ごろ地学的学問に触れる機会はないけど興味はある、という方にはおすすめですよ。
分かりやすい本なだけに恐怖が具体的に伝わってきて震えました。
いずれ地震や噴火が来るのは避けられないかもしれませんが、日ごろの備えや的確な指導や幸運などにより子ども世代が極力被害に遭いませんように。
これまで何度も日本社会を救ってきた復興魂が数十年後も発揮できる世の中でありますように……。