起重機船……巨大クレーンを備えた船を題材にした写真集 兼 取材誌がたぎるほどにエキサイティングでかんたんしました。
海上の巨大クレーン これが起重機船だ - 株式会社洋泉社 雑誌、新書、ムックなどの出版物に関する案内。
こんな人におすすめの本です。
機能美を尊ぶ人
クレーンなどの重機を愛する人
巨大ブリッジなどの建造物に惹かれる人
沈没船サルベージという仕事にトキメキを覚える人
海の男・寡黙な職人・インテリマッチョに焦がれる人
起重機船の写真を眺めているだけで時間を忘れ、
起重機船で働く男たちの写真や言葉に鼓動を乱され、
あの橋もあの防波堤もあの復興作業もこの方々が……と感謝してしまう。
そんな素晴らしい本であります。
著者の出水伯明さん、取材協力してくださった深田サルベージ建設株式会社さん、まことにありがとうございます。
本は三部構成で、どの章も迫力・迫真に満ちた写真が満載です。
第一部 知られざる起重機船の世界
「起重機船」と言われて、「ハイハイ、起重機船いいよね」と言える人は少ないと思います。
世の中には巨大な建造物がたくさんあります。
本の帯にも
という文章が載っておりますが、こうした建造物の資材……橋の鉄材であったり支柱となるコンクリートの塊であったりは、当然誰かが工場から運んできて据え付けた訳ですよね。
その「誰か」こそが起重機船なのであります。
この起重機船、数百トンから三千トンクラスの物体を運ぶ力があるとのことで。
しかも、そんなパワフルな機能を発揮しながら、乗組員方の緻密なお仕事により誤差数センチ以内という精度でキッチリ設置していくんだという驚くべきお仕事内容を紹介いただけます。
私が特にかんたんしたのは次の描写であります。
まぎれもなく700トンの重量物は宙に浮いている。
なにやら奇妙な感慨を覚えたが、じつはケーソン(防波堤の一部となるコンクリートの塊)が吊り上がった瞬間、“ドン!”と腹に響くような音がした。
ケーソンは、製作ヤードにコンパネ材を敷き詰めて、その上で造られるが、自重により地盤と密着するため、吊り上がる直前にその付着力が解放され、大きな音がするそうだ。その音は700トンの重量物が地面から引き剥がされるときに発する大地の悲鳴のように聞こえた。
この本のライターを務めた武内孝夫さんの筆がめっちゃ冴えてはります!
こんなん読んでしまったら、ぜひその現場を見学してみたくなってしまいます……。
他にも、67ページ~で紹介されている、建造物の撤去作業だけで25枚の計画書をつくっており、その中でも約30項目に及ぶ「リスクアセスメント作業手順書」に目を引かれた……という場面もめちゃくちゃよかったです。
緻密な計画・リスク評価あってこその繊細な作業、従業員の安全ですよね。
どんな世界であれ、意志の詰まった仕事ぶりには深い情動を呼び起こされます!
写真も、あまりにも巨大で力強い「フック」や「平行滑車」、「シャックル」など……1枚1枚に目を奪われ、得も言われぬ仕事の説得力が伝わってくるんですよ。
第一部の時点でもうたまんないです。
第二部 「深田サルベージ建設」の技術と歴史
この本で取り上げられている深田サルベージ社は、もともと日露戦争で老朽船を多数沈めて封鎖した旅順港の、戦後の沈没船引き揚げ・撤去作業を請け負うところから始まったそうです。
のっけから歴史的事業ですね……。
その後の当社の歩みとして、瀬戸内海を中心とした沈没船のサルベージ、更にはナホトカ号や北朝鮮工作船(2001年の事件)のサルベージであったり。
(ニュースでご覧になった方も多いと思います)
戦艦陸奥・大和の調査であったり。
架橋など鉄構工事・海洋工事事業への参入であったり。
レアメタル等の海洋開発であったり。
本当に「海」にかかわる様々な事業で当社が重要な役割を果たしてきたことを説明いただきます。
この世になくてはならない企業さんですね……!
個人的には、この部で紹介されていた「南部もぐり」という潜水技術……岩手県九戸郡の久慈高校種市分校に伝わる技術に惹かれました。
もともとは房州の技術だったとのことですが、三陸地方でそのような潜水技術が伝承されているとはまったく知らなかったです。
潜水の準備をするダイバーさんの写真も、真剣さがビリビリ伝わってくるようで読者の背筋も伸びますよ。
第三部 会場のつわものたち
お待ちかね、「人」の部です。
こまごま引用したり紹介するのはやめておきますが。
写真と言葉から伝わってくる男たちの気概、誇り……
最高です。
私がこの方たちの親だったら、ぜったい号泣すると思います。
関心のある方、とりわけ深田サルベージ社に少しでも縁のある方はぜひ御目通しいただきたいです!
とても満足度の高い本でございました。
この本で取り上げられた方々もこのブログを読んでくださっている方々も、無事故無怪我で新たな年を迎えられますように。