阪堺電車をストーリーの縦糸にした連作短編集「阪堺電車 177号の追憶」にかんたんしました。
表紙でジャケ買いしてしまいました。
乗ったことあるかどうかは覚えていませんが、間違いなく見たことある車両です。
こういう個人的な思い出に引っかかってくる本はつい買っちゃいますね。
様々なタイプの短編小説……サスペンス、経済ドラマ、ボーイミーツガールなど……の連作作品で、すべての物語に画像の阪堺電車177号が絡んでくる内容です。
阪堺電車は大阪市と堺市を結ぶチンチン電車。
住吉大社や南宗寺に行くときなどに乗りましょう。
モ161型177号は納入来85年間働いてはった電車ということで、作品内では戦前から最近までの時代に応じてドラマが展開していきます。
それぞれのドラマの登場人物にちょっとだけ繋がりがあったりして、物語に物語が重なっていく感覚が読んでいて楽しいです。
以下、ネタバレを含みません。
プロローグとエピソードの間に6章の短編が収められている構成になります。
プロローグ ――平成二十九年三月――
第一章 二階の手拭い ――昭和八年四月――
推理小説風。
阪堺電車から見える質屋さんの二階にはいつも手拭いが。
あの手拭いはいったい何の意味が……?
第二章 防空壕に入らない女 ――昭和二十年六月――
戦時中に女性二人が巡り合うドラマ。
ところが、一人の乗客はかたくなに防空壕へ入ろうとしない。
いったいどうして……?
第三章 財布とコロッケ ――昭和三十四年九月――
優しいボーイミーツガール@阪堺電車。
私はこの章がいちばん好き。
大阪の下町らしい素直な叙情が心地いいです。
男同士の話やで
第四章 二十五年目の再開 ――昭和四十五年五月――
第二章の続編。
舞台は戦時中から昭和の発展期へ。
高度成長期の暗部がじわじわと胸に迫ってきます。
第五章 宴の終わりは幽霊電車 ――平成三年五月――
バブル崩壊直前の土地転がし話。
大阪人大好き「ミナミの帝王」的な悪い不動産屋を懲らしめたいやつです。
こっち側も向こう側も人物描写がよございました。
第六章 鉄チャンとパパラッチのポルカ ――平成二十四年七月――
現代。
引退近い177号の姿を追う撮り鉄の兄ちゃんと、
別のターゲットを追うパパラッチの兄ちゃん。
更には第3のカメラマンまで現れて……
沿線の住宅地で、いったい何が起こっているのか?
エピローグ ――平成二十九年八月――
といった概要になります。
それぞれのエピソードに応じて巧みに演出や作風を変えつつ、大阪下町人情ドラマとしての味わいを一貫して楽しめる秀作。
こういった連作集を創造できるセンス、素敵ですね……!
阪堺電車に縁のある方はもちろんのこと、関西人や全国の下町人、鉄道ファン、旅人など、多くの方に推薦したい作品です。
連続テレビ小説の原作にも向いてそうな気がしますよ。
これからも阪堺電車が多くの乗客に愛され活躍し続けますように。