マザーウォーターなるストーリーもオチもない映画になぜだかかんたんしました。
100分ほどの映画でして、京都の洛北界隈(北山とか高野らへん?)を舞台に数名の男女の日常(主に飲食・散歩場面)を切り取ったような内容です。
登場人物はそれぞれ何らかの背景を持っているようですが、映画内で詳しく語られることはありません。
意味ありげな会話はしていますが、何らかの課題が明らかになったり解決したりという要素はナッシングです。
笑える場面もなければ泣ける場面もない、ただただゆったりとした生活の場面場面をアルバムのように収めた感じ。
カフェの隣の席の会話とか、隣の家が庭でやってるパーティとかをなんとなく眺めてみたようなテイストの映画になります。
面白いか? と聞かれれば……
10人中8人は「意味分かんねぇ」と斬り捨てるでしょう。
ただ……
季節、気分がフィットした場合のみ、
“なんかよかったな”が湧いてくる映画でもあります。
おりよく映画の季節は春。
春の夜、家族や大事な人とソファで寄り添ってぼんやり観るにはいいと思うのです。
ストーリーがない代わりに。
印象に残る食べもの飲みもののシーンがたくさん出てくるんですよ。
もたいまさこさんのアイデアで、軒先のベンチでイートイン可能になった豆腐屋さん。
できたての豆腐をその場で食べられるたぁなんて贅沢、なんて羨ましい。
そっけなく豆腐丸ごとと醤油だけ出されるのがまたいいのです。
ウイスキーしか置いていないバーの深緑色の壁。
カウンターの中から客の二人を映す場面があるのですが、そのシーンの緑の壁、茶色の木製カウンター、赤茶色のドア、こげ茶系の客の服装……の取り合わせが西洋画のような美しさをたたえていて素晴らしかったです。
小林聡美さんによる水割りのつくり方がまたいいのです。
イケてるバー独特の丸いおおぶり氷に、ウイスキーだけをまず注いでよく混ぜます。
空気を入れているのか香りを花開かせているのか、はたまた混ぜる時間そのものを味わっているのか。
そこから水を注いで再び軽く混ぜたら気持ちよく酔えそうな水割りの出来上がりです。
一人でプレミアムモルツ? を開けて夕食を楽しんでいるのが格好いい。
昼間は街の人々と交流、夜は一人でかき揚げ。生き方上手感がパないのです。
サンドイッチのシーンなどでゆっっくりと動くカメラワーク。
なんでもない会話のなんでもなさをより増幅しているようで、観ているこちらの気持ちもゆったりしてくるかのよう。
またサンドイッチが美味しそうなんですよね……。
食べものは飯島奈美さんが監修されたそうで、さすがだ。
昔ながらの銭湯の脱衣場で食べている出前? の丼も惹かれるうまそうさでした。
おっちゃんが若者に半分あげる場面も万人に通じる郷愁があったように思います。
食べもの飲みものの他にも。
全編を通じて登場する赤ん坊「ポプラ」氏がすげぇかわいいんですよ。
赤ん坊好きならもうこれだけでずっと眺めていたいくらい。
街のみんなで育てているような子どもで、登場人物それぞれとポプラ氏の関わり場面がすげぇいいんです。羨望です。
とりわけ、銭湯の脱衣場ですぴすぴ寝ているポプラ氏、それを眺めているもたいまさこさんがね、もうこっちまでめっさ孫欲しくなってしまいますよ。
赤ん坊っていてくれるだけで……
ほげほげ言ったり妙な速さで腕を上げ下げしているだけで周りは幸せです。
繰り返しますが、ストーリーは特にありません。
場景は印象に残りますが、言葉として身体に残るものはほとんどないでしょう。
それでもいい、そういうのもたまにはいい、という方にはとてもおすすめですよ。
洛北界隈のあの気持ちのよい空気感がこれからも受け継がれていきますように。