肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「古本屋台」Q.B.B……作:久住昌之、画:久住卓也(集英社)

 

兄弟ユニット「Q.B.B」の漫画「古本屋台」が特定の層にだけめっちゃ突き刺さる作品になっていてかんたんしました。

 

古本屋台| Q.B.B./久住 昌之/久住 卓也| まんが単行本|BOOKNAVI|集英社

 

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原作が久住昌之さんで、作画が弟の久住卓也さんになります。

久住昌之さんはいまやすっかり有名人ですが、テレビ的な明るい世界だけでなく、いまもこうしたニッチなサブカルチャーな世界でも素晴らしい仕事をされているのが本当にすごいですね。

 

 

内容としましては、タイトル通り「古本の屋台」……基本は古本屋なんだけど、1杯だけ白波のお湯割り/ロックを100円で飲むことも可能……というファンタジーなお店を舞台にした情景を描いている作品になります。

 

1杯しか飲めないお酒をゆーっくり飲みながら、気難しいオヤジさんや常連客と古本などの話題を語り合う……ような話が2ページ1話でたくさん収められておりますよ。

オヤジの人物造形が最高でしてね、はしゃぎ過ぎると「帰んな」とか言われて追い払われてしまうんですが、その独特の緊張感もまた楽しそうでいいんです。

他の日に行ってみたらオヤジがバイオリン弾いていたり、ときにはオヤジの方が酔っぱらってしまっていたり、屁をこいたりしていてね、パーフェクトに近いけどパーフェクト過ぎないオヤジの存在感にみんな引き寄せられてしまう訳です。

 

 

古本を屋台で……しかも飲み屋機能、サークル機能付き……となったらそれはもう特定層の願望そのものですよ。

よくこんなファンタジーを漫画にしてしまったものだ。

 

中には古本屋台のオヤジがふらっと消えたと思ったら、どこぞのお金持ちに誘われて浅間高原の別荘客相手に屋台出してきたみたいな話があったりして。

小学生の「学校に侵入してきた悪者をボクが格好良くやっつける」みたいな妄想の、これぞまさしく中高齢インキャ版やなあ! とでもいうべき愛おしさに満ちてございます。

 

 

オヤジ以外の話でも、主人公のおっさんが旅に出て

「おそい夏 海辺の安ホテルにひとり逗留…」

「厳選してきた五冊の文庫本を読みふける二泊三日…」

「長年の夢 遂に実現!!」 

からの

「って明日の朝チェックアウトだけど一冊も読んじゃいないや
 ダラダラしただけで…」

「あー楽」

 

みたいな空気感の話が多くてすごい共感できるんです。

これぞ分かりみが深いというやつですね。

 

 

ラスト間近のエピソードで、主人公のおっさんが古本屋台のオヤジの今後について夜中に一人考え始めてしまって寝付けなくなって、

「どうするつもりだろ…」

「この先…」

「俺が考えても仕方ないんだけど」

 

(目が冴えちゃった)

(…俺が)

(継ぐか)

(なんてな…)

 

と一人で夜酒やり始めるのもいいんですよ。

実にいい。

ほんまいい。

 

 

古本屋台というだけあっていかにも古本ファンが好きそうな本がたくさん出てきますが(つげ義春さんネタが多かったり吉村昭さんの本も出ていたりしてちょっと嬉しい)、それ以上に元文学青年が老後に渇望してしまうような“場”を具現化しているという点が秀逸な作品だと思います。

馴れ合いになり過ぎないで、一定の緊張感や距離感や秘密感が保たれているところまで含めて。

 

 

私は人見知りなので古本好きな人たちの集まり(古本屋に行くとよく店主と常連が楽し気に話していたりしますよね、周りの一見客にも気軽に声をかけたりしながら)には入っていけない方なんですが、入ったら入ったですごく楽しいんだろうなあと思ってしまいました。

 

出会いって、人と人との一対一な出会いも大事ですけど、楽しい“場”との出会いも大切ですよね。

たぶんボケ防止とか幸せな老後とかのためにも超重要だと思うのです。

 

 

孤独な大人たちにこそよい縁がありますように。