肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「映画マイ・インターンに見る起業とコーポレートガバナンス」ナンシー・マイヤーズ監督

 

マイ・インターン」という映画を観てみたらとても面白かったうえに「最近っぽい起業とコーポレートガバナンスの感覚」をサラッと実感できていい映画だなあとかんたんしました。

 

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以下、ネタバレを含みますのでご留意ください。

 

 

おおまかなあらすじとしては、Webで服を売る先進的な急成長企業が社会貢献アピール目的でお年寄りのインターンを募ってみたところ、かつて電話帳製作会社で働いていたという70歳のロバート・デ・ニーロさんが応募してきたような次第になります。

美人で有能な社長のアン・ハサウェイさん付きの雑用係としてロバート・デ・ニーロさんが配置されて、しばらくは何の仕事もなくヒマしていたんですが、徐々に穏やかで誠実でスマートな人柄とパフォーマンスが評価されてアン・ハサウェイさんたちの信頼を得ていく……ちゃっかり会社のマッサージ師を口説き落として彼女までゲットしてしまう……という話。

 

ロバート・デ・ニーロさんが穏やかでキュートで有能なお爺ちゃんという、ちょっと男性陣はみんなこれ見習った方がいいんじゃないかというくらい魅力的な存在に描かれておりますので、そういう意味ではリアリティに欠けるんですけれども。

 

「職場にこんなサポーターがいてくれたらいいのになあ……」とふん詰まった気持ちを抱えている働く女性たちにとってはたとえ幻想であってもいっときの安寧に浸らせていただけるありがたい映画になっているのですよ。

仕事と家庭の両立に苦労してはる女性は素直に楽しむのが吉かと存じます。

一方でサラリーマン諸氏はこういう映画を観て定年退職後のライフプランを鮮やかに具体化いたしましょう。

 

 

 

 

 

映画の見どころは、いまほど申し上げたロバート・デ・ニーロさんのシニアな魅力と、ラストシーンで胸の前で拳を握りしめながら涙ぐんでいるアン・ハサウェイさんの圧倒的なかわいさなんですが、個人的にはもう一点、「今日的な成功した起業家あるある……企業の成長ステージに合わせた経営体制の構築」という現実的な課題を分かりやすく視聴者にお伝えいただける点も見逃せないなと思いました。

 

 

と申しますのも、この映画の舞台となる企業はアン・ハサウェイさんが短期間でゼロから築き上げたんですが、成長に組織が追いついておらず、アン・ハサウェイさんの超人的な才覚・努力でなんとか組織が回っている状況でございまして。

創業者頼みの組織力のまま、先に会社の規模だけがどんどんデカくなってしまっているというステータス、これってヤバいですよね。

 

起業直後に求められる能力……ビジネスの仕組みを創り出す段階と、組織拡大後に求められる能力……仕組みの洗練と権限・組織のデザインが求められる段階。

創業者のトップがどっちも上手いことできるケースは実際のところ稀なのです。

 

起業して、組織の成長段階に合わせて創業者もまた成長していかねば、部下を育てていかねばならないのですが……。

 

アン・ハサウェイさんもそこんところでやはりつまずいている模様です。

 

 

ほいで、アン・ハサウェイさんの右腕っぽい部下が遠慮気味に投資家からのメッセージを伝えてくるんですよ。

 

アン・ハサウェイさんは実務に専念して、経営は外からCEOを招聘すべし」

 

という。

 

 

この辺の相場観はさすがアメリカという感じもするんですが、いまの世の中はだんだん社長というものが「創業者」や「出世レースの果て」というものだけではなくなってきていて、「いろんな会社を渡り歩く経営のプロ」という人材もひとつの有力な候補になってきているんですね。

 

しかも、これはまさにアメリカ的なのですが、「社長を選ぶのは現社長ではなく、株主(投資家)……正確に言えば株主の信認を得た社外取締役たちである」というね。

 

どれだけアン・ハサウェイさんが有能であっても経営のプロじゃないでしょ、だったら外からCEOを呼んできた方が組織も上手く回るし株価も上がるよね……というド正論を、彼女の気持ちなんてお構いなしに投資家さんたちは仰ってくるのであります。

 

こんなんゼロから会社を育て上げてきた創業者からしたら憤懣やるかたないですよね。

 

映画の中ではこんな重たい経営課題(+旦那の浮気)を背負ったアン・ハサウェイさんが、ロバート・デ・ニーロさんのあたたかなサポートを受けながらなんとか課題を一つひとつ乗り越えていくような美しい展開なんですけれども。

その難題の一つとして「投資家からのCEO交代プレッシャー」が採用されているのがたいへん現代的でアメリカ的でいいなあと思ったのです。

 

 

なにがいいなあって、やっぱりアメリカ人であってもいきなり外からCEO連れてこられるのはすんなり受け止められない、消化できない、超ストレスフル、というのは変わらないんだなというのが(笑)。

 

日本よりはるかに進んだ(もしかしたら行き過ぎた)ガバナンスの仕組みを持っていても、中で働いている人間の気持ちはあまり日本人と変わらないんだな、そりゃそうだにんげんだものと共感できたのがこの映画のサブメロディ的によかったんでございます。

 

 

さらに良かったのが、アン・ハサウェイさんが自分の会社の服を自分で注文して、届いた品の梱包のイケてなさをチェックして、会社の物流センターに直行して現場のスタッフさんたちに改善の指示を手本見せながらやっているところ。

しかも彼女の説明がハートフルだからか、現場のスタッフさんたちもモチベーション上がって笑顔で従っているところ。

 

作中でロバート・デ・ニーロさんにも称賛されていた場面なんですが、こんな細部にまで心を込めた仕事をしているアン・ハサウェイさんの姿はシンプルに美しいです。

ジェンダーどうこうでなく、やっぱり一仕事人として頑張っている人が報われてほしいなあという気持ちになりました。

 

 

 

長々と小難しいことを書きましたが、映画はコメディタッチのライトな演出ですから大変観やすい内容になっています。

ハリウッド系でたまにはいい話が観たい、あんまり重たい話ではなく、というニーズにぴったりですよ。

 

 

邦画洋画を問わず、お仕事がんばっている人を勇気づけるような作品がこれからも定期的に登場してくださいますように。