東京駅内の美術館「東京ステーションギャラリー」で開催中の「生誕一〇〇年 いわさきちひろ、絵描きです。」展がとても感じ入る内容でかんたんしました。
いわさきちひろさんが描く子どもの絵は本当にいいですね。
「いわさきちひろ、絵描きです。」とは、いわさきちひろさんが夫に初めて出会った際に名乗ったセリフなのだそうです。
こういう、所属組織名を名乗らない自己紹介って格好いいと思います。
いわさきちひろさんは、赤ちゃん向けの絵本でお世話になるケースが一番多い感じですかね。
私の周りのちびっ子たちも、彼女の絵を見て育ってまいりました。
「もしもしおでんわ」や「おふろでちゃぷちゃぷ」あたりが私はお気に入りです。
読み聞かせてあげるのが楽しみでした。
輪郭のない、淡い色使いを重ねた子どもの絵は、なんとも幻想的かつ親しみの湧き上がる、ずうっと記憶に残っていく逸品であります。
今回開かれている展覧会では、いわさきちひろさんの初期から晩年までの絵を一度に見ることができる構成になっております。
マリー・ローランサンさんの絵など、彼女の絵に影響を与えたと思われる作品や当時の文化史料が展示されているのも注目度が高いですよ。
私の印象に残ったのは、初期の油絵。
いわさきちひろさんというと上で挙げたような絵本の水彩画が有名ですけど、油絵やパステル絵もまた違った趣があってようございました。
例えば展覧会のHPにも載っている「眼帯の少女」。
(オフィシャルHPから引用)
確かにいわさきちひろさんのタッチでありながら、絵本とは違った重さ、暗さ、どうしようもない共感が伝わってまいります。
この作品の近くには同じようなテイストの「マッチ売りの少女」なども展示されていて、いわさきちひろさんが子どもを単なる「かわいいもの」として写し取っている訳ではない、ベースの部分には子どもたちの幸せを願うような祈り、逆をいえば幸せでない子どもをたくさん見てきたのであろうこと……が偲ばれます。
彼女の、現実のつらい面やヒューマンドラマを描いた作品、見応えがございまして……
幻灯「最後のつたの葉」(オー・ヘンリーさんの最後の一葉)なんかも立ち止まってしばらく眺めてしまいました。
展示会の中盤からは、子どもや赤子を描く作品が増えてきまして、よく知られている方のいわさきちひろさんの世界が広がってまいります。
とりわけ赤子のスケッチは全体的に素晴らしく写実的で、そうそう赤ん坊ってこんな顔するよね手足の曲げ方するよねこうやって指しゃぶるよね! と育児経験者の胸に迫ること間違いなしです。
小さな作品が中心になりますが、スケッチを見逃さないようにいたしましょう。
「あごに手をおく少女」や「落書きをする子ども」も見飽きないですし、
私の好きな「たけくらべ」の信如・美登利の絵があったのもたまらないですし。
終盤に見ることができる作品群はもう圧巻の一言です。
「王子を想う人魚姫」「魚たちにハーモニカをきかせる少女」「海辺を走る少女と子犬」などの水をモチーフにした作品たちには本当に感じ入りました。
(オフィシャルHPから引用。この遠望。一人と一匹、足跡、空と海の色……)
高畑勲さんのアイデアで拡大された「子犬と雨の日の子どもたち」「落書きをする子ども」も超よかった。
現代の技術をもってすれば絵を拡大して悪くなることなんて何もないんだ、ガラスの向こうの本物と、拡大されたコピー、両方展示すればいいんだ、というメッセージは考えさせられるものがあります。
(歴史系の文献展示なんかもそうかもしれない)
あらためて作品を一度に見せていだくと、いわさきちひろさんが描く子どもは、写実的、かわいい、幻想的……なだけでなく、幼子独特の脆さ、儚さ、だからこそ大人が抱かざるを得ない願い……をも内包しているのかもしれないなあ、と。
そんな考えを抱いた素晴らしい展示会でございました。
東京駅には東京ステーションギャラリーがあるのがいい。
極めてアクセスのよい場所にあって、しかもあまり広くないのが好き。
移動の合間に「ちょっと絵を見に立ち寄る」ができるのが最高なのです。
3階→2階の移動時、煉瓦壁の階段を降りる時間がまたいいんですよ。
展示作品と展示作品の間の上質なインターミッション感があって。
東京駅の歴史を刻んだあの煉瓦、いいわあ。
欲を言えば「ぽちのきたうみ」をショップで売ってくれていたらなおよかったな。
ちひろ美術館に行ってみようかなあ。
絵本作家もすてきな人が次々登場してきてはりますけど、いわさきちひろさんの作品も時を越えて子どもたちに愛され続けますように。