谷口ジロー先生の名作「犬を飼う」および短編集の再編集版が発売されていてかんたんしました。
目に涙を溜めながら読ませていただきました。
土山しげる先生の遺作「流浪のグルメ」を買う流れで、谷口ジロー先生の作品も手に取りたくなったのです。
谷口ジロー先生も今年の2月にお亡くなりになりました。
親しんでいた漫画作品の作者が次々に……。
最近だと谷口ジロー先生は孤独のグルメの作画で有名ですが、もともと様々なジャンルの作品を発表されていた方ですので、人によってイメージする代表作は異なることでしょうね。
私は漫画版「センセイの鞄」が心に残っています。
「犬を飼う」は有名な作品なのでご存知の方も多いかもしれませんが、谷口ジロー先生の実体験をもとにした、老犬を看取る内容の短編です。
人間の介護同様に、散歩の介助、下の世話、24時間体制での看病等々……家族が老犬に振り回され、疲弊していく様を、美化せずリアルに描写した上で、その上で本当に、最期の切なさが胸を打ちます。
犬に限らず、大切な存在を亡くした経験を持つ方であれば、きっと涙を流さずにはいられない……卓越した描写が見事の一言です。
老犬「タム」が逝く直前のエピソード、散歩中にお婆さんが話しかけてくるシーンがくるんですよね。
「おまえ… いつまで生きてるつもりなんだろねえ。」
「早く死んであげなきゃだめじゃないかね。」
「おまえ……わかるだろ? あたしもさ、早くいっちまいたいんだよね。」
「おばあちゃん、そんなこといわないで、」
「もっと長生きしてよ。」
「楽しいことなんかなんにもありゃしない。」
「あたしゃね、迷惑かけたくないんだよ……」
「この子だってそう思ってる。」
「そう思ってるんだよ。」
「でもね、死ねないんだよ…… なかなかね……死ねないもんだよ。」
「思うようにはね…… なかなかいかないもんだね。」
お婆さんとタムの表情、それぞれが、読者の様々な感情を呼び起こすようです。
お年寄りのこういう独白、実生活で耳にしたことがある人も多いと思うんですよね。
他に収録されている「そして…猫を飼う」以降の作品も、エッセイ「サスケとジロー」も、「百年の系譜」も、いずれも優れた作品なので外せません。
猫関係では「庭のながめ」という作品で、仔猫を一匹里子に出したときの、母猫の描写が堪りませんでした。
「百年の系譜」は戦時中の、軍用犬にするため愛犬と引き剥がされた少女の話なのですが、これも泣いちゃいましたね。
詳述はしませんが、別れのシーンだけでなく、日本兵の最期の描写、米兵の「オーマイゴッド」という素なリアクション等、短編の中に名場面がたくさんございました。
谷口ジロー作品は余韻、余情に富んだものが多くていいですね。
これからも私は折に触れて読み返すことだと思います。
若い世代の方々にも、谷口ジロー作品に触れる機会が訪れますように。
図書館とかにあったらいい作品だよなあ。