中国は明代の宦官にして武将「鄭和」さんの航海を描く漫画「海帝」。
2巻ではいよいよ大艦隊が出港し、どんな国でどんなドラマがと楽しみにしていたら、マラッカ海峡でダイオウイカとの激しいバトルが始まるという完全に斜め上すぎる展開の面白さにかんたんしました。
星野之宣さんが本格的な歴史漫画を執筆して下さるという嬉しいハプニング。
鄭和さん、名前や、大航海時代以前に中国からアフリカまで到達したという事績は有名ですが、具体的な生涯を詳しく知っている訳ではないので漫画内での掘り下げをとても楽しみにしています。
以下、ネタバレを含みます。
1巻から足利義満さんと対面したり、倭寇の少年を助けたり、倭寇と手を組んだり、永楽帝による建文帝の帝位簒奪(靖難の変)の顛末が描かれたりと、同時代の歴史要素を活かしたシナリオがたくさん見られて満足度が高かったのですが。
この時点で「大鮫魚」なるメガロドンの生き残りと誼を通じていたりしましたので、星野之宣先生お得意の伝奇的、SF的な楽しさは見せつけられておりました訳です。
星野之宣作品はとにかく「大きいもの」「神秘的なもの」の作画がいいんですよ。
神話の挿絵みたいでね。
この作品では船、海、そして巨大生物。
(同じく、星野之宣作品の女性は巫女的、原始社会的強さを感じて好き)
続く2巻では、大艦隊出港後はじめに立ち寄った占城(チャンパ)で、越南(ベトナム)との争いに巻き込まれるところから話が始まります。
途中「飛頭蛮(空飛ぶ生首)」ならぬ「屍頭蛮」という怪奇的演出が見られたり、歴史ものらしい駆け引き・舌戦が楽しかったりといい感じにドラマが進んでいきまして。
次なる航路はマラッカ海峡。
現代でも重要航路であり、海賊多発地帯でもあることで知られています。
作品内でも海賊を警戒しており、実際に海賊が現れますが……
星野之宣先生、単に海賊と戦っても面白くないと考えられたのか。
(明の威信をかけた大艦隊が数隻の海賊に苦戦するのも微妙ですし)
海賊船は唐突に現れたダイオウイカの大軍に襲われ、沈められてしまいました。
どうやら当時のマラッカ海峡はダイオウイカの住処だったようです。
そんなところで海賊を生業にするなよ。
ダイオウイカさんの群れは、続いて鄭和艦隊にも襲いかかってきます。
伸びる触手。
きしむ船体。
ポン刀と弩で迎え撃つ倭寇。
助太刀してくれる大鮫魚(メガロドン)。
面白過ぎるだろ。
圧倒的画力から生み出されるダイオウイカの圧倒的不気味さ。
お目目くりくりなのがまじ気持ち悪い。
触腕の爪が鋭くて接触即大怪我なのがタチが悪い。
ぶにぶにの体には滑って砲弾が効かないのもタチが悪い。
一方、立ち向かう倭寇のお頭はめっさ格好いい。
「我らがここで退けば餌食にされ続けるだけだ! いつまでもこの満刺加の海でこ奴らは待伏せし、襲ってくるに違いない。」
「大鮫魚のようにここを渡る時は戦って人の力を思い知らせよ!!」
「人が世界の海を往来する日のためだ!」
「潭太や弖名たち―――もっと後の子々孫々が安心して航海できる日のために、今、戦うのだ!」
超神秘的な巨大生物に、勇気を奮って立ち向かう小さき人類。
ネタバレしませんが、戦いの結末まで含めて実に星野之宣作品。
「鄭和の生涯を描きましょう」という話から、
「分かりました。じゃあダイオウイカ出しましょう」って、
どんな頭してたら思い浮かぶんだろう。
すごい……!
シンプルに歴史だけを描く作品ではなく、鄭和さんの「パイオニア」的な面に注目し、人類が神話の世界に足を踏み入れていくような展開がとても面白い漫画だと思います。
こういう骨太な伝奇作品は今日日ありがたいですね。
ぜひぜひ重厚かつ神秘的に引続きストーリーが積み重なっていきますように。
「海帝 7巻 感想 仏教とのフュージョンが素晴らしい」星野之宣先生(ビッグコミックス) - 肝胆ブログ