肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「戦国史を歩んだ道 感想」小和田哲男さん(ミネルヴァ書房)

 

有名な歴史学者小和田哲男さんの自伝が面白くてかんたんしました。

 

www.minervashobo.co.jp

 

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ミネルヴァの自伝シリーズです。

 

小和田哲男さんの幼少時代~研究者へ~一般に広く歴史を紹介……という人生の流れを語って頂く内容になっています。

 

 

歴史に興味を持ったきっかけとして、「駿府城跡」「母方が馬場美濃守信房(信春)さんの弟の子孫(と言われる)」「祖父が徳川慶喜さんを見かけたことがある」「チャンバラ映画」「オール読物」「真田十勇士等の講談本」などを挙げられているのが、まず印象的です。

立派な歴史学者さんでも、歴史を好きになる入り口は一般人と一緒のようで。

 

 

読んでいて頭が下がったのが、学生時代のまじめに研究をし続ける暮らしぶり。

今川家をテーマにした卒論で、なんと早稲田の小野梓記念学術賞まで取られたそうで。

学者さんなので熱心に研究をしてはるのは当たり前といえば当たり前なのですが、自分の堕落していた学生時代と比べると汗顔せざるを得ません。

 

若くして今川氏、浅井氏、後北条家氏の研究で新進気鋭の歴史学者として存在感を高めていかはりますが、これらの家が現在戦国時代ファンの中で高い人気を博していることを思えば、小和田氏の功績は極めて大きいものがあるのではないでしょうか。

そもそも、日本史の中ではもともとマイナーな分野だった「戦国時代の研究」でごはんを食べていけるようになったことも含め。

もちろん今日的には、後進から小和田氏の論や研究手法や寛容すぎる監修活動について反論が出ることもある訳ですが、そうした後進の拡がりを産んだ一人が小和田氏ですからね。

 

 

世代的に学生運動の話なんかもありますので、その辺は好みが分かれるかもです。

運動系の話が好きでない人も、今川館跡保存運動などの史跡保存活動は歴史ファンにとって意義が大きいと思いますので、バランス感を保って読み進めましょう。

日本百名城や続百名城を楽しめるのも、一つひとつの史跡を大事に保全してくれている方々のおかげですからね。

 

 

戦国時代ファン的に面白いのは、「第六章 歴史の面白さをもっと伝えたい」。

テレビ番組出演、大河ドラマ考証、小説家への資料提供、まんが・ゲームの監修等々……よく見かける「監修:小和田哲男」についてまさに語られています。

 

大河ドラマの話はいろいろ面白いですね。

「秀吉」は、“ねね”を“おね”に修正する事を原作者の堺屋太一さんに承諾いただいた。

功名が辻」では、原作者の司馬遼太郎さんが亡くなってはるので原作通り“ねね”に戻った。

天地人」で上杉謙信さんが倒れる際、厠で倒れるべきところ、あまり格好良くないし食事中の視聴者もいるだろうからと毘沙門堂で倒れることになった。案の定クレームは何件かあった。

「江」の小谷城落城時、小谷城は発掘調査で炎上していないことが判明しているが、落城を分かりやすく視聴者に伝えるためちょっとだけ燃やすということになった、実際の放送ではけっこう大々的に燃えていてショックだった。

などなど。

 

小谷城炎上の件は、前に紹介した時代考証の本でも取り上げられていました。

「時代劇の「嘘」と「演出」」安田清人さん(洋泉社歴史新書) - 肝胆ブログ

 

 

小説家の隆慶一郎さんや永井路子さん等との交流も興味深いです。

われわれ歴史家は、資料がないことについては言えない。しかし、作家の方たちは、それが絶対ありえないという史料がなければ、あったこととして書ける。つまり、史料がないところは自分の想像をふくらませて書けるわけである。歴史家の書く物よりも、作家の書く物の方が面白いというのは、そこに原因があることを知った。

 

さいきん、歴史界隈では学者と作家等の論争?がアレな感じになっているそうですが、学問とエンターテイメントが健全にリスペクトしあえているといいですね。

 

 

戦国史と女性史のドッキング」という考察も刺激的でした。

ご自身のマンション管理組合の経験……理事会なり工事業者との交渉なりは、どの家も全部妻がやっているのに、正式資料に載るのは夫の名前……から、戦国時代の史料に男の名前が出てきても実際には女性がやっているケースがあったかもしれない……という考えに至ったというエピソードなのですが、なるほどであります。

証明はできませんけど、想像が膨らみますね。

 

 

 

かように、小和田哲男さんの人生を振り返る中で、氏の研究に対する姿勢を中心に学びの多い本でありました。

歴史に限らず、まじめに研究し、偉くなってからも知識をアップデートし、かつ社会にフィードバックしてくださる学者さんは素敵だと思います。

 

我々庶民サイドもまた、学者さんの努力に敬意を払う世の中でありますように。