肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「スラ(スッラ)」モンタネッリ版ローマの歴史より

 

モンタネッリさんが描写するスラ(スッラ)さんも格好良すぎてかんたんしました。

 

スラさんはモムゼンさんであったりモンタネッリさんであったり割と近現代の人から高く評価されている気がしますが、じっさいワークライフバランスだとか自己実現だとか働く理由だとか個性だとかそういう面が重視されたり複雑系な高難度政治局面にあっての現実的打開が求められたりする現代世相にあっては一層評価が高まっていく人のように思えますね。

 

某ゲームでも登場して妖しい魅力を振りまいていたらしいですし。

(見つけた時にはサービス終了していた……)

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気を取り直してローマの歴史版スラさん。

 

trillion-3934p.hatenablog.com

 

 

ローマ誕生~ローマ帝国崩壊までを500ページでまとめている本ですので、スラさんの章は僅か10ページ。

軽く立ち読みできてしまう分量ですのでまずは一読いただいて、興味が湧いたら他のローマ本で詳しく知って頂くとかもできますよ。

 

 

モンタネッリさんによるスラさんの人柄描写的な記述を軽く引用いたします。

戦史的活躍とか政治史的活躍とかも面白いのですが省略。

 

ルキウス・コルネリウス・スラ、貧乏貴族の家に生まれ、政治にも軍事にも興味を持たない不良青年で、年上の彼女のひもとなって暮らし、やくざな無頼の生活を送っていた。学歴もなかったろうが、多読家でギリシア語に通じ、芸術的センスもあった。どういうわけか財務官に選ばれ、ユグルタ戦争に参画することとなった時、秘められていた巨大な潜在能力が噴出し始めたのである。

 

スラはこの戦争で卓抜な才能を発揮する。冷静、俊敏、勇猛無比で兵の絶大な信望を得た。かれは生涯、賭けとスリルを愛したが、戦争はその両要素に満ちみちているから、かれはこの上なく戦争を好み、戦争を楽しんだ。

 

前九九年ローマに帰還するが、制服ぐらしに倦きてしまったスラは官界から身を引き、昔の無頼の生活に戻って、遊女、剣闘士、不良詩人、貧乏役者の間で暮す

 

貴族階級は貧乏なかれを見下げていたし、平民階級はかれを敵視した。その両階級にかれは冷やかな軽蔑を抱いている。かれの道連れはいつでも社会の枠をはみ出た無頼の徒である。

 

 

(からの戦勝に次ぐ戦勝、ローマ占領、虐殺、独裁官就任を経て)

 

 

スラは個人崇拝の発明者だった。自己の権力の絶対性を誇示するために肖像を彫った貨幣を発行し、「スラの戦勝記念日」を祭日にした。

 

皆が茫然自失する中を独裁者の座を下り、全権力を元老院に返還、執政統治を復活させ、一介の私人としてクーマに引退する。

 

政府と軍の権力を棄て、道行く人の驚愕と疑惑に満ちた沈黙の中を、一介の私人として自宅への道を歩いていたその時、一人の男がかれのあとをつきまとって、さんざんかれに悪態を吐いた。スラはその馬鹿者の侮辱にとり合わず、悪罵に振り向きもしなかった。ただ一緒に歩いていた友人にこう言った。「なんて馬鹿なんだ! こんなことをすればこれからは、自発的に権力を放棄する独裁者は世の中に一人もいなくなるぞ!」

 

その後死ぬまでの二年間、スラはヴァレリアを可愛がり、狩猟に興じ、友人と哲学を論じ、回想録を書く。生涯のこの夕暮れに至ってはじめてかれは福者(フェリクス)だった。生は充実し、幻滅にも悲哀にももはや悩まされなかった。後悔ということにはもともと無縁だった。クーマの別荘で、かつての子飼いの部下たちに囲まれ、死の当日まで元気で頭脳も衰えなかった。

 

息を引き取る前に自分の墓碑銘をこう口述した。

「返礼ができぬほどよく私を助けてくれた友は一人もなかった。また、返礼ができぬほどひどく私を痛めつけた敵も一人もいなかった」

まったくその通りであった。

 

スラは人間を信用しなかった。自己への愛があまりにも強くて他人への愛は残らなかった。かれは人間を軽蔑し、秩序を守らせさえすればいいのだと思っていたから、怖るべき警察機構を創り、貴族派の占有物とした。貴族を尊重したからではなく、平民の方がもっとだめだと確信していたからである。その結果、かれの事業は十年で完全に瓦解した。

 

 

 

モンタネッリさん解釈の好きなところは、

いわゆるスラさんゴリゴリ貴族派(共和制派・元老院派)説を採用せず、「軍事は趣味、政治は面倒事、求めるのは無頼と遊興」という極めて個人性が強い人物として描いているところ

ですね。

 

よく描かれがちなカエサルさんの反対サイドな守旧派最後の輝き的に扱ってないのがいいの。古代の話なので史実は分かりませんが、私はモンタネッリさん解釈の方がロマンがあって好み。

モムゼンさん版の現実課題への最適対応マシーン解釈も好き)

 

圧倒的な個人的実力で一時世の中を安定させて、次の時代を招く萌芽を養う猶予を世の中に提供しつつ、自身はあっさり表舞台から身を引いて、死後は自身が築いた体制もあっさり崩壊。

前時代と次時代の境界を繋ぐ場面で異常な役割を果たしながら、本人のやりたかったことはどうやら別のことで、しかも直後にもっと有名な人が活躍するもんだから歴史からも忘れられがちでね。

 

いいよねえ。

 

 

 

そんなスラさんの知名度がじわじわ上がって楽しいスラさんコンテンツが登場したりしますように。

 

 

 

誰か小説とか書いてくれないかな。

 

「転生したらスラだった件」

略して「転スラ」

とかどうですかね。

なんかウケそうなタイトルじゃないですか。

 

「大賢者」「捕食者」「心無者」というスラさんらしいユニークスキルを駆使して、様々な民族を率いて一大勢力を築き、遂には「魔王」格にまでのし上がっていくの。

 

おお、これはヒットしそうな気がする。

 

  

 

「スッラ」塩野七生さん ローマ人の物語 勝者の混迷より - 肝胆ブログ