アメリカの黒人探偵小説「IQ」の楽しい続編が発売されていてかんたんしました。
↓前作「IQ」の感想
「IQ 感想」ジョーイデさん / 訳:熊谷千寿さん(早川書房) - 肝胆ブログ
ロサンゼルスの下層社会で探偵業を営む「アイゼイア・クィンターベイ」さんの活躍を描いたシリーズになります。
黒人系、アジア系、メキシコ系のギャングやストリートカルチャーがふんだんに登場してきますので現代アメリカの一面を記した小説としてもクオリティ高いですよ。
「暗黒街のホームズ」といったキャッチコピーがついているシリーズでもありますが、個人的にはシャーロック・ホームズ感はそこまで抱かないかなあ。
探偵もの、バディもの、高い知性と品性と運動神経……といった点は共通していますけど、主人公「IQ」の葛藤多き黒人青年ぶりが他の小説とはそうとう異なった個性をお持ちですので。
1作目との比較では、引続きアメリカ下層社会特有のネトネトした頽廃文学味は残しつつ、よりアクション映画的な爽快感が増したような印象です。
文学的な深い内面描写は1作目の方が上、娯楽小説として完成度が高いのはこちら、という感じかなあ。
あらすじは次のとおりです。
亡き兄の恋人だった女性から、高利貸しに追われる妹ジャニーンを助けてほしいと頼まれた探偵"IQ"。
腐れ縁のドッドソンを伴い、彼女が住むラスベガスに赴くが、事態は予想よりも深刻だった。
ジャニーンは中国系ギャングの顧客情報に手を出し、命を狙われていたのだ。待望のシリーズ第二作。
解説/丸屋九兵衛
小説の構成としては
・ジャニーンさんを救うため中国系ギャングに対抗するパート(現在)
・亡き兄の死因を探るパート(数日前)
が交互に展開していく書き方になっていまして、前者はアイゼイアさんが恋心に揺れつつ相棒ドッドソンさんと痛快な活躍をするのがメイン、後者はアイゼイアさんの復讐心に沿った追跡と葛藤がメイン、という感じになっています。
前者がガン・アクション、後者がドロドロネトネトですね。
終盤では両方の要素が見事に合流して、(死人が大量に出つつも)物語的にはハッピーエンドを上手く迎える運びになりますので安心してお読みください。
見どころは色々ありますが、今回は暴力とPTSDの関係がけっこうリアルに描かれていたのがよかったですね。
被害者は当然悲惨で、加えて加害者サイドのPTSDも迫真味がありまして。
「ミゲル、マテオ、エステバン。みんなライム病か何かにかかったと思ってるが、実のところはストレス何とかだ。業(カルマ)みたいなもんだろ? ひでえことすれば、そのつけがあとでケツに噛みついてくる。ああ、くそ、そうなら自殺したほうがましかもな」
暴力の後悔から逃れるために暴力やドラッグや死に場所を求める男たち。
そういう男たちがゴロゴロいるロスの暗黒街。
そんな街で活躍せざるを得ない探偵IQ。
こういう物語設定の時点で、やはりこの作品はオリジナリティの高い面白さがあるなあと思います。
そんなネトネトした暗さとは別に、1作目から打って変わって恋心に揺れ動いて幼さをひけらかすアイゼイアさんがかわいい。とてもかわいい。
「ありがとう、アイゼイア。ほんとに感謝してる。電話してね、お願いよ?」
「ああ」アイゼイアはいった。そして、さよならもいわずに電話を切った。ばっちりだ。どじでまぬけなやつみたいな話しぶりでなかったのはたしかだ。
そんなアイゼイアさんをからかう相棒ドッドソンさんもかわいい。
「ちょこっとアドバイスをくれてやる。女には芝居しないことだ。等身大の自分でいろ。よくわからねえなら、わかったふりはするな。どのみち、向こうのほうがはるかにうわてだ。何をしたって、女はいずれこっちの本心をつかむ」
今作ではドッドソンさんがきちんと人生の足場を固め始めていたり、アイゼイアさんに推理面で張り合おうとしたり、やはり要所要所でキッチリと活躍したりと、いっそうドッドソン愛を掻き立てられる内容になっているのが実にいいですね。
相棒もののバディが魅力的だとその作品の価値はハネ上がると思いますの。
他にも、ネタバレになるので詳しくは言えませんが、登場する敵役はみんな人間臭いクセがあって惹きつけられますし、更なる続編に繋がりそうな意味ありげ人物も登場しますし、二作目ながら完成度には既に信頼を置ける作家さんになっていますよジョー・イデさん。
「IQ3」もとくとく邦訳されて発売されますように。
ふだんアメリカドラマを観る習慣はないんですが、この作品が映像化されたら実写でも是非観てみたいなあ。音楽パートや食べものパートにリキが入っていると嬉しい。