肝胆ブログ

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日経新聞「戸田雄三さんのこころの玉手箱 感想」

  

日経新聞の「こころの玉手箱」、戸田雄三さんの回が非常に密度高く、後進にとって得るところの多い内容でかんたんしました。

 

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こころの玉手箱は、1か月連載の私の履歴書と違って全5回になりますので、凝縮された内容になっているのが特徴ですね。

 

著者の戸田雄三さんは、富士フィルムさんの多角化というか、化粧品事業や医療事業への進出に多大な貢献をされたことで著名なお方であります。

若い方はピンとこないかもしれませんが、かつてフィルムカメラデジタルカメラに駆逐された際、フィルム事業にこだわったコダックさんが破綻し、一方で多角化に成功した富士フィルムさんが見事難局を乗り切った……というのは、各種ビジネススクールの教材でも取り上げられるほど有名な経済史上のエピソードなんですよ。

事業環境のディスラプション……破壊的変化……というのは引続き様々な業界で生じていくことでしょうから、富士フィルムさんの足跡から後進が学ぶべきところは多いと目されている訳であります。

 

 

 

そんな戸田雄三さんのこころの玉手箱ですが、そうした自らの功績的要素については控えめで、むしろ製造的実務面の重要性を訴えかけるような内容であったり、チームの力を発揮するための努力であったり、御父上との思い出であったりと、地に足の着いたエピソードが中心になっているのが非常にいいですね。

共感を抱きますし、経済ニュースでちやほやされる系ではないんだけど実は働く上でものすごく大事なことを実直に書き下ろしてくださっているような感じで。

 

 

私にとって印象的だったエピソードは次のとおり。

 

まだ小学校にあがる前、新年会に行ったのはいいが、おやじは地下鉄の駅のベンチで寝てしまった。終電もなくなり、駅員さんに声をかけられて、やっと目を覚ました。その時、おやじのオーバーコートで暖かく包まれた時のたばこの臭いは今でも覚えている。 

 

大学で有機半導体を研究したが、富士フイルムでは研究職には就かずに「製造マン」になった。新入社員研修で「俺たちはフィルムを作っているのではない。信頼をつくっている」という言葉に感動し、自ら志願した。以来、研究と市場の交差点とも言える製造現場で単なる製品ではなく、お客様に信頼して買っていただける「商品を作る」ことを実践した。

 

私に「この実験データは信用できない」と指摘され、「両親にもそんなふうに言われたことはない」と泣きながら所長室を飛び出していった所員もいた。あとでもう一度呼び出し、「データは信用できない」と繰り返した。「だが、君のことは信頼している。だから単刀直入になれる」と付け加えると、彼は再び泣いた。この一件の後、私も彼のおかげで「ミスター・インスパイアリング(励まし屋)」と所内で呼ばれるようになった。

 

製造には研究とは違った技術が必要で、まさに信頼を作り込んでいると言ってよい。ところが、最近の日本企業では、製造が生み出すこうした価値が経営陣によく理解されていない。そもそも、技術系の役員の比率が小さい企業が多い。製造の大切さを再評価してこそ、この先の日本の産業競争力再生が可能になる。

 

リーダーの役割は次代を担う若者に希望を与え、課題を示唆することであるはずだ。しかし、今をときめくリーダーの多くが世のため、人のためよりも自分、自社、自国を最優先させているのは憂うべきことだ。

 

いずれも情感深く、かつ学ぶところの大きい内容だと思います。

 

全5回という凝縮した文章量の中で、戸田雄三さんの回はとりわけ読み捨てるところのない、金言が多い連載だったように感じますね。

 

「守りは本能、攻めは才能」というお言葉も、苦境にあってなおファイティングスピリットを失っていない後進の背中を支えてくださると思います。

 

 

かような先人に負けず劣らず、これからの日本経済もまた力強く情緒豊かに難局を乗り切っていくことができますように。