肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「武田氏滅亡」平山優さん(角川選書)

 

 

「武田氏滅亡」という大著にかんたんして、ぼろぼろ泣いちゃいました。

 

www.kadokawa.co.jp

 


某本屋さんでプッシュされていたので買ってみました。

約750ページという異常な厚さだったので躊躇もしたのですが……
鞄に入れて運ぶのも電車で読むのも難儀する重さだったのですが……

買って、読んでよかったと心から思っています。

 

帯にはこんなことが書かれています。

稀代の英雄か、暗愚な後継者か――
新たなる勝頼像と大国滅亡の真相に迫る決定版

武田勝頼を主軸に据え、武田家が滅んでいく経緯を厳選史料をベースに
丹念に記していく内容の本になります。

主役は武田勝頼さんですが、織田信長徳川家康上杉景勝北条氏政といった
近隣実力者に加え、信長包囲網や関八州にまつわる人物が数多登場してきます。

 

私の感想としては、真の主役は「動揺する国衆たち」ではないかなと思いました。
恐怖し、右往左往し、皆どうしているかなと辺りをキョロキョロし、
大きな流れができた瞬間に雪崩を打って離反していく姿。
あまりにもリアルで、人間的で、説得力があります。

戦国時代の歴史本ではありますが、同じような調査手法を以てすれば
雪印滅亡」も「タカタ滅亡」も「山一證券滅亡」も描ける気がするのです。

ひとつの巨大組織があっという間に、
当事者も敵対者も想像できなかったほどの速さで滅んでいく描写の迫真。
知れば知るほど「誰か一人の責任」「人間性や精神性が原因」とは言えない事情。


私はむしろ企業経営者などに読んでいただきたいと思いますね。

 

 

以下、いろいろ書きますが長いのでご留意ください。

 

 

 

本書のざっくりした内容

 


ものすごくかいつまんで紹介します。
(素人の頭の整理なので理解を間違っている可能性も高いです)

詳しくは買って読んでください。

 


序章 諏訪勝頼から武田勝頼


よく知られている話ですが、もともと勝頼さんは武田信玄の跡取りでは
ありませんでした。
武田家中が対今川戦略で割れ、信玄嫡男の義信さんがお亡くなりになったので、
急遽跡目として登板してきたのが勝頼さんなのです。

もともとは「諏訪勝頼」として扱われていましたし、家中もそう思っていました。
昔のイエ文化において、一度養子として本家から出ていった子どもは
基本的に二度と本家の子として扱われません。

勝頼さん、のっけから足下が不安定です。

しかも親の信玄さんは、織田信長と戦うことを決意し、徳川家康三方原合戦で
おおいに破って決定的に西方外交を破綻させてからお亡くなりになってしまいました。

勝頼さん、のっけから未来が見えません……。

 


第一章 長篠合戦への道


勝頼さんが武田家当主となりましたが……。

信玄さんの遺言にはこんなことが書いてありました。

 ・自分の死を三年間秘匿せよ
 ・勝頼は嫡男(信勝)が成人したら速やかに家督を譲るように
  (勝頼はあくまでピンチヒッターだからね)
 ・勝頼は武田家当主の証である「旗」等を使っちゃダメよ
 ・あ、諏訪の旗や兜は使ってもいいよ


……むごい。実にむごい。

武田家中の反発を防ぐには仕方ないのですが……。
こういう遺言を残すあたり、信玄さんも武田家中の統制には
よくよく注意を払っていたんでしょうね。


こうして、勝頼さんは相続直後から家内統制に苦慮することになりました。


とは言え勝頼さん、徳川家康の領地をどんどん攻めていきます。
この頃は信長さんが河内で三好康長さんにてこずっていたので
織田の援軍はないやろと思っていたのですが……。

康長さんがあっさり降伏した(情勢を見極めて自分を高く売ったんだと思います)
せいで、信長さんが急遽駆けつけてきます。

世に名高い長篠合戦です。
世に名高い大敗で、武田家自慢のベテラン勢がことごとく討ち取られました。


いきなり大ピンチですが、敗戦後、勝頼さんは上手に家中をまとめ直します。
織田・徳川軍は武田領地に深入りすることはできませんでした。
老臣が減ったことで自分の権力を高めることもできたようです。

 


第二章 織田・徳川の攻勢と武田勝頼


家康さんに遠江、信忠さんに美濃を攻められてじりじり後退していく武田家。

勝頼さんは国境防衛の配置を再編成し、粘り強く対峙していきます。

 


第三章 甲相越三国和睦構想と甲相同盟


足利義昭さんが頑張って「武田・上杉・北条同盟」を実現しようとしますが、
この頃はまだ「上杉謙信」さんがご存命なので交渉が上手くまとまりません。

謙信さんは関東管領職として北条家と死闘を繰り広げてきた方ですから、
上杉-北条ラインの関係改善が難しいのです。
これも武田家にとっては辛いところですね。

まずはということで勝頼さんが北条夫人(氏政の妹)を娶り、
甲相同盟だけは成立しました。

北条家と組めば東方は安全です!

 

 

第四章 御館の乱武田勝頼


謙信さんが突如お亡くなりになり、有名な御館の乱が始まりました。
上杉景勝さんと上杉景虎さんが跡目争いをするやつです。

この経緯が下手な上杉本よりも詳しく書かれていておもしろかったです。
どうも景虎さんは「反景勝派」に担がれてしまったみたいですね。


北条氏政さんは景虎さんの兄貴なので、当然景虎派になります。
介入します。
ただ、介入がどうも中途半端で……。
北関東情勢(主に佐竹義重さん対応)が心配で、景虎支援が後手後手です。


勝頼さんは、甲相同盟があるので景虎派になるのかと思いきや……。
なんと、「景勝・景虎両方に中立」「俺が間に入ったるから和睦せいや」という
スタンスで介入していきます。

これが色んな人(当時の人含む)から「景虎を助けなかったのが武田家滅亡の原因」と
言われてしまう行動なのですけど……。

一時的に景勝・景虎間の和睦が成るものの、結局景虎さんは滅んでしまい……。

 

 

第五章 甲相同盟の決裂と武田勝頼


同盟を結んだばかりですが、武田家と北条家の関係は急速に悪化します。

そりゃそうです。
景虎さんは滅び、ちゃっかり勝頼さんは上野で領地を拡大しているのです。
氏政さんが怒っても仕方ありません。
(じゃあ氏政自身で景虎助けに行けよという突っ込みもありますが)

結局断交と相成り、武田家は上杉景勝佐竹義重と同盟を結び、
北条家は織田家・徳川家と同盟を結びます。


さっそく武田家と北条・徳川連合が戦になったりもします。
面白かったのが、

 勝頼:決戦しよーぜ! かかってこいよ!
 氏政:嫌どす

というやり取りがなされている場面。
北条家は堅陣を組んで出てきませんし、徳川家は勝頼が接近すると退却します。


どうも、この後もそうなのですが、勝頼さん直轄部隊は長篠後であっても
周辺諸国からそうとう恐れられていたようですね。

勝頼さんは決戦ではなく、外交と調略で追い詰められていくのです。

 


第六章 苦悩する武田勝頼


関東圏での武田-北条戦争は武田家優位で進んでいました。

しかし、西方情勢が不安なのは言うを待ちません。
勝頼さんは密かに信長さんとの和睦の道を模索し始めます。

ただ、信長さんサイドは次々と包囲網参加チームを打ち破っており、
いまさら武田家と和睦するメリットなんてなく……。

 


第七章 武田勝頼北条氏政の死闘


いよいよ二つの大きなダメージを喰らいます。


一点目。

上野の沼田城を攻め取ったのですが、攻め取るために国衆へ恩賞を約束し過ぎ、
戦勝後に恩賞不足が発生してしまいました。

もともと増税で評判が悪いところに、ますます国衆の信頼が揺らぎます。

小さな太平記を見ているようです。


二点目。

遠江における武田方の要衝「高天神城」が遂に陥落します。

家康さんの調略・付城戦術もさることながら、
家康さんに指示を出す信長さんの計略が冴えわたっています。

第六章の通り勝頼さんに対しては和睦をチラつかせ、後詰めを牽制。
高天神城からの降伏申し出についてはキッパリ拒否。

籠城勢を全滅させ、勝頼が見捨てたとおおいに喧伝すれば、
武田勢力圏の動揺は計り知れないものになるという冷徹な計算が
なされているのです。

織田家PR戦略の贄となって滅んでいく守将の岡部元信さんたち。
哀し過ぎます。


本題からそれますが、この本では岡部元信さんの「海の武将」属性
紹介されていて興味を引かれました。
岡部元信さんいいですよね……桶狭間でも201Xでも実に尊い

 


第八章 斜陽


勝頼さんは部下の反対を押し切って新府城に本拠を移したりしますが、
とうとう信長さんが本腰を上げて動き始めます。

やばい……やばいよ……。


ちなみに、第七章・第八章では武田家全体が綱渡りの中、真田昌幸さんだけは
実にイキイキと調略したり暗殺したり活躍してはります。
大河ドラマのせいで楽しそうに悪いことをしているイメージがついてしまいました。

 


第九章 武田氏滅亡


この章は涙なしには読めません。

日記や新聞記事のように、日単位でその日にあったことを粛々とまとめていて、
何層にも悲哀を畳みかけてくるのです。


地すべり的に離反していく国衆・一門衆。
巻き込まれて命を落としていく女・子ども・老人。
最後まで奮戦する数少ない忠臣。
勝頼・北条夫人・信勝の最期。


詳述はしませんが、「滅びの美学」と呼ぶにはあまりにも悲しい、
こんなものが美しさであってたまるかという気持ちを抱きます。


印象的なのは、信長さんも氏政さんも、そんなにあっけなく武田家が
傾く訳がない、慎重にことを進めよと現場に指示しているところ。

敵にとっても味方にとっても、武田家の滅亡はあまりにも意外な
スピードだったのでしょう。

浅間山噴火もありましたが、まさに天災のような、人智を超えた
崩壊だったのだろうと思います。

 


第十章 勝者のふるまい
終章 残響


……は、エピローグ部ですので詳しい紹介は省略します。
第九章までを読んだ上での味わいだと思いますので。


本筋に関係のないところでひとつ興味を引かれたのは、織田家の圧迫で
畿内から逃れてきた人が武田家に多く匿われていたというところ。

丹波波多野氏の縁者っぽい人とか、
六角義賢さんの二男っぽい人とか、
美濃国を追われた土岐頼芸さんとか、

色んな方の名前が出てきます。

武田家の武名はそうとうなもので、各地の敗者から頼りにされていたんでしょうね。




その他個人的な感想

 


人の上に立つ人というのは、
とりわけ継承者という立場の人は、
自分の「夢」や「野望」よりも、「周囲の期待」に応えることを
大事にする傾向があると思います。


私は武田勝頼さんは優秀な後継者だったと思いますし、
武田信玄が背負っていた期待」に引き続き応えようとされていたのではないかと
想像しています……。


そのことが顕著に出ているのが外交で、御館の乱での介入の仕方は
名門武田家当主・甲斐国守護として相応しい振舞いを心掛けていたように
映りますし、北条家との和睦・断交の流れなんてまさに信玄スタイルです。

その一方で、外の国にいい格好をするためにも、
自国内では無茶に無茶を重ねるのも信玄スタイルです……。

これは武士や騎士、高い家柄に生まれた者としての誇り高いあり方だと
思いますから、単純に武田家の作法を非難しようとは思えません。

 

 

もう少し粘っていたら、武田氏滅亡がなくても本能寺の変があったのなら、
上杉家のように生き残ることもできたかもしれません。

単純に自身が生き残るためだけなら、
今川氏真さんや山名豊国さんのようなスタイルだってあるのです。


ただ、詰まるところ武田勝頼さんは毛利家・長宗我部家・上杉家と比べても
「手強い」「対応優先度が高い」と思われていたからこそ、
あのタイミングで激しい調略を受け、族滅に遭ったのでしょう……。

勝頼さんは優秀だった、信玄さんみたいだった、
だからこそ中央政権の覇者としては滅ぼさざるを得なかった
ということだと私は解釈しています。


後の秀吉・家康路線がまさにその通りですけど、
中央の覇者としては、東国の……武田家・北条家・上杉家のうち、
2つ程度には絶対に滅んでもらう必要があったんだと思います。

この3つの家は武名が高過ぎる。
地域の求心力になってしまうリスクが高過ぎる。

3つ全部を滅ぼしたらそれはそれで地域の安定が崩れますから、
2つを滅ぼし、1つは弱めて置いておくor国替えを命じる……と、
考えてしまうのは自然なことです。

優秀な人が生き残る人だとは限らない……という自然法則を
思い起こしてしまいます。




この本を読んだ方の中には、武田家配下国衆の離反祭に
眉をひそめる方もいるかもしれません。

武士の風上にも置けねえぞ、と。


想像してください。

ローカルな豆腐屋さんが、地場のスーパーと長年付き合いがあるからって。
スーパーの社長は同級生だからって。
スーパーの社長とは年に1回ゴルフで懇親を深めているからって。
スーパーの社長とはライオンズクラブでも一緒だからって。

イオン・セブンイレブン連合のような圧倒的資本力に、
更に皇室御用達という権威と、政府与党とズブズブという迫力と、
巨大宗教信者が支える購買力とを付け加えたようなメガ企業が進出してきて、
「うちと取引しろ。他の取引先は切れ。そうすれば悪いようにはしない」と
迫られたら、あんた断れますかっちゅう話ですよ。


大きな力は怖い。
怖いと混乱もする、迷いもする、裏切ったり間違ったりもする。

これは人間としてごく当たり前の反応です。
武田家が特別なのではありません。


一旦裏切ったり見捨てたりした後に、死んだ方々の遺骸や遺品を弔い、
悔やんだり泣いたり悼んだりするのも、同じ国衆たちです。

のちに徳川家が武田家を顕彰してくれたときに、
嬉しくて馳せ参じてきたのも同じ国衆たちです。


むしろ、武田家は一定の結束があったからこそ、
織田信長という超巨大プレッシャーに対してもしばらくは耐えられた。

耐えて、耐えて、耐えて……ついに閾値を超えてしまったとき、
雪崩のような、崩落のような、超スピードの離反現象が起きた。

弱っちい組織なら、早くからぽろぽろぽろぽろ崩れてたはず……
頑丈だったからこそ、壊れるときは一気に壊れる……。

そんな解釈もできるかもしれません。

 



最後に

 


以上、単なる歴史研究書というよりは、壮大な人間ドラマに出会える本、
後世に伝えるべき含蓄に富んだ本だと思います。

繰り返しですが、歴史ファンや武田家ファンだけでなく、
リーダー・マネジメント層のような見識を深めるべき方々にもおすすめです。

 

一個だけ残念だったのは、年表を巻末付録につけてほしかったなあということです。

良著なので、この本をベースに研究する方も創作する方もいると思うのです。
年表がついているだけで、ありがたみが数割増しになるに違いありません。

贅沢な要望を言っていることは自覚しています。



著者の平山優さんは、勝頼が滅んだ地「田野」にゆかりがあるそうです。

ご自身のルーツがある土地の歴史を調べ、公平に周辺地の歴史も調べ、
細部解析と大きな流れの両方から成果を残していく……。

素晴らしいですね。


こういう立派な研究者が地域社会から正当に評価されますように。
こういう立派な研究者が三好家周辺にも増えていってくださいますように。

 

 

装甲騎兵ボトムズ「ペールゼン・ファイルズ OVA版」高橋良輔監督(サンライズ)

 

ボトムズOVA「ペールゼン・ファイルズ」の殺伐ぶりとATギミックに
かんたんしました。

 

ボトムズWeb|ペールゼン・ファイルズ

 


テレビ版のボトムズに惹かれてシリーズを観始めましたが、
けっこう巻数が多いものですね。

こちらのペールゼン・ファイルズ(OVA)は全6巻・12話。

本編シリーズは全部見るつもりですが、外伝までは手が回らなさそうです。

 

 

感想としては、戦闘シーンは見応えがあってめっぽうおもしろい!
一方で人物描写・ドラマはそれほどでもない、というところです。


以下、ネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘シーンの魅力

 

 

今作では、ATがすべて3DのCGで描かれています。


このことによって見た目は薄そう・軽そうになっているのですが、
思った以上にボトムズの世界観に合っているんですよね。

カンカンカン(数発被弾)⇒爆発(死亡)というATっぽい運命に
絶妙にマッチしています。


加えて、CGにしたことでATの数が異常に多くなった、
様々なギミックで魅せられるようになった、というメリットを感じました。


ボトムズの世界はひたすらに人命が軽いのです。
たぶん一組の夫婦から10人以上の子どもが生まれてるんじゃないでしょうか。

アホみたいな数のAT(人命)を用意して、「誰か一人成功しねえかな」みたいな
無謀作戦が次々に繰り出されます。
以前のシリーズからそういう風潮はありましたが、今作では特に、意識的に
この傾向を補強していますね。


例えばラストの作戦は、「1億2千万名の兵士を投入」という
気が触れているような内容でした……。

こうした馬鹿馬鹿しい設定が、今回はドラマ面での鍵でもありましたので。

ストーリーの評価はともかく、ストーリーとAT・戦闘描写のマッチっぷりは
すばらしいと思いました。



CGを活用した戦闘ギミック、よかったですねえ……。


全話通じてみても、1話の渡河作戦がいちばんおもしろかったです。

大量のATが敵陣地を攻めるために大河を渡るのですが。


味方の飛行船が大量の杭を落とす。
うっかり当たって味方の一部が死ぬ。
 ↓
向こう岸に刺さった杭にワイヤーを巻きつけて渡河に励む。
敵の反撃で味方がたくさん死ぬ。
 ↓
なんとか向こう岸に辿り着いたら、持ち運び可能坂道用カタパルトみたいな
ぐるぐる巻きのアイテムを坂に据えて、懸命に斜面を登る。
敵の反撃で味方がほとんど死ぬ。
 ↓
キリコさんだけが生き残る。


という一連の流れ、それぞれでCGギミックを堪能できるのです。

こんなに惚れ惚れする渡河作戦映像を観たのは初めてだ。

 

以降の話でもポリマーリンゲルの交換とかポリマーリンゲルのブレンドとか
ポリマーリンゲルの爆発とか、燃料まわりの描写が気に入りました。

雪上戦闘、白いATが入り乱れるシーンは一種のアート味がありましたし、
前述のラスト3話でのアホみたいな人数を投入した作戦はお祭り感ありましたし、
どれもこれもようございましたよ。


戦闘シーンではありませんが、全体的に米軍映画みたいな雰囲気があって
(エンディングテーマとか特に)その辺も楽しかったですね。

 

とにかく、バトル・AT描写が大変優れたOVAでございました。

 

 


人物・ストーリー

 


時間軸としては「野望のルーツ」と「テレビシリーズ」の間。

「異能生存体」「ペールゼン閣下」を軸とした内容になります。

 

ペールゼン閣下の研究成果を横取りしたい情報省の偉い人が、
キリコさんと、キリコさん同様に「死なないっぽい人」4名、
計5名で「死にません部隊」を組成。

 ↓
無茶な作戦に次々と送り出して本当に死なないか実験してみよう。
 ↓
誰も死なへんやん! こらぁ本物やで!
 ↓
せっかくやからアホみたいな規模の作戦立案して注目集めたろ!
こいつらおるから成功するやろ!
 ↓
作戦大失敗でした……。
キリコさん以外の死なないっぽかった人たちも全員死にました……。
(本物の異能生存体はキリコさんだけでした)
 ↓
それどころか情報省の偉い人は初めからペールゼンさんの
掌の上で踊っていたのです……。


という特に誰も幸せになっていないストーリーです。
この辺は実にボトムズっぽい。

最後の作戦大失敗(目標惑星大爆発)は、これもまたキリコさんの異能力なのか、
それともワイズマンの意志が働いたのか、意見が分かれそうですね。

 

 

キャラクターの魅力面では……

死なない系仲間の皆様とか、
カン・ユーさんの類友であるワップ少尉とか、
ロッチナさん(改名前)の最終話でのイキイキした表情とか、

魅力ある人物はけっこう出てくるんですけど。


肝心のキリコさんが、全編通じて「受け身」なんですよね。

そりゃそうなんです。
フィアナさんにもまだ出会っていないし、
バニラ・ゴウト・ココナというお友達も登場していないし。

キリコさん本人に生きる目的とか、やりたいことがないんです。


言われた通りに淡々とミッションを遂行してくるのみ。

キリコさん(テレビシリーズ以前)の設定には合っているんですが、
合っているからこそ人間味や魅力が見えてこないという皮肉。

12話も使う長い物語だからこそ、この流され感が目立っちゃいます。


唯一「おっ」と思ったのは、11話で仲間に異能生存体について語るシーン。

キリコさんが自分から異能について語るとは。

ひょっとしたら、この頃には「こいつらも本当に異能生存体ちゃうか」と
信じたくなってたのかもしれません。

「俺はひとりじゃない」「同種の仲間がいる」という思いを抱きたかった、
結果としてそれは幻想だったけど……
ちょっとだけキリコさんの願いが透けていたように思います。


とは言え、作品全体ではキリコさんの戦闘能力&異能生存力以外の
魅力はあまり出ていませんでした。
イプシロンさんのようなキリコさんを外側から掘り下げてくれる
ライバルも出てこないですし。

私はフィアナさんが絡んだ瞬間に戦闘力が300%くらい跳ね上がる
キリコさんの意志の力が好きなので、その辺は物足りなかったです。

 

 

 

まとめ

 


ボトムズの殺伐とした世界観、AT挙動、あるいは異能生存体という設定に
魅力を感じる方にとっては最高傑作、キリコさんの人間味ある物語に魅力を
感じる方にとってはもうひとつ、という評価になるかと思います。


いまにして思えば、テレビ版クメン編やOVAラストレッドショルダーなんかは
上記魅力の両方が高い次元で融合していたんですね。



とりあえず残すOVAは「孤影再び」と「幻影篇」です。

ラストレッドショルダーの高い壁を越えてくださいますように。

 

 

「装甲騎兵ボトムズ(TV)」高橋良輔監督(日本サンライズ) - 肝胆ブログ

装甲騎兵ボトムズ「ザ・ラストレッドショルダー」高橋良輔監督(日本サンライズ) - 肝胆ブログ

装甲騎兵ボトムズ「ビッグバトル」高橋良輔監督(日本サンライズ) - 肝胆ブログ

装甲騎兵ボトムズ「レッドショルダードキュメント 野望のルーツ」高橋良輔監督(サンライズ) - 肝胆ブログ

装甲騎兵ボトムズ「赫奕たる異端」高橋良輔総監督(サンライズ) - 肝胆ブログ

装甲騎兵ボトムズ「孤影再び OVA版」高橋良輔監督(サンライズ) - 肝胆ブログ

装甲騎兵ボトムズ「幻影篇」高橋良輔監督(サンライズ) - 肝胆ブログ

 

 

 

 

大阪府岸和田市「匠屋の水なす漬」

 

今年の水なす漬もおいしくてかんたんしました。

毎年、友達一押しの岸和田市岡山町「匠屋」さんの水なす漬
送っていただいています。

↓タウンページ情報。
https://itp.ne.jp/shop/KN2704082100000596/

 


今年の水なすは特に美味しかったので調べてみたのですが、
なんとネット上にまったく情報がない……!

完全に地元民相手に特化したお店なのかもしれません。

写メをアップしようかと思ったのですけど、
せっかくなので隠しておくことにします(笑)。



おいしいんですよ、ここの水なす。

ヌカと一緒にパッケージされていて、水洗いしてから
手で割いて召し上がれという感じなのですが。


よい水なすを使っているのか、形はぷっくり丸々しく
味はじゅわっと瑞々しく。

紫色の美しい表面、ほんのり黄・緑の和やか内面。

疲れがとれる、食欲が湧く、ごはんにも酒にも合う。
旬を味わった喜びに食卓が笑顔になる。


お店の案内には

お好みで、しょうがやゴマをつけ、醤油をかけてお召し上がりいただくのも格別です。

と静かな自信がみなぎるコメント。


そう、しょうが醤油がいいんですよ。
実にいいんですよ。


更に更に、京都吉兆風に水なすスライスの上に辛子をちょいと乗せ、
紫と黄色ひと雫の色彩を楽しんだところに醤油をちょいつけすれば。

もう最っ高です。

うっとうしい蒸し熱さが吹っ飛んで、夏の夜もいいよねっていう気になります。

 

 

岸和田界隈にはおいしい水なす屋さんがたくさんありますが、
私が知っている中ではこのお店のものが一番口に合います。

ありがとう友達。

近くには行基さんや太平記や三好実休さんで有名な久米田寺もございますね。
岸和田はヤカライメージの強い土地ですが、実際はけっこう特色ある
歴史文化があるんですよ。

自分でも久しぶりに足を伸ばしてみようかな。

 

でも、その前にもう一回送ってもらおう。

そして、来年の水なすも上出来でありますように。

 

 

大阪府岸和田市の「三好実休戦没地」「貝吹山古墳」「久米田寺」「久米田池」 - 肝胆ブログ

 

「メジロの鳴き合わせ会が鳥獣保護法違反の疑いで書類送検」NHKニュースより

 

 

メジロの鳴き合わせ会が摘発・書類送検されていてかんたんしました。

 

www3.nhk.or.jp

 

メジロというかわいい野鳥はその辺をウロウロしていますが、
基本的に飼育NGです。

保護だとか海外産だとか一部の例外を除いて、
飼うのは鳥獣保護法違法ですからお気を付けください。

 

 

こちらのニュース、メジロの「鳴き合わせ」……どの声が
いちばん美しいかを鑑賞する会がガサ入れをくらって
書類送検されちゃったという内容です。


捕まったのは59歳から80歳までの高齢者気味な愛好家グループ12名。
全員が容疑を認めているとのこと。


メジロ大阪府内の山林で鳥もちや籠をつかって捕獲していたそうです。
昭和の頃はカスミ網猟とかヤクザのシノギというイメージがありましたが、
自力で獲ってはったんですね。
自力で獲っててもダメなもんはダメですけどね。

 


何が驚いたって、いまでも「鳴き合わせ会」なんて風流な文人趣味を
続けている集団がいたことです。

 

野鳥の飼育といえば、昭和の文鳥ブームあたりを最後に絶えて久しい
イメージがあります。
鳥山明さんもDr.スランプ文鳥飼育の魅力を熱弁していましたね。


現代では下火になっておりますが、実は歴史の深い趣味ジャンルですから
戦前や江戸時代の文献にはしばしば野鳥飼育が登場いたします。

例えば谷崎潤一郎さんの「春琴抄」ではツンツンヒロインの春琴さんが
鶯や雲雀の声を賞玩しております。

幕末を舞台にした「ブシメシ!(酒井伴四郎日記)」でも偉い人への
手土産に鶯を捕まえたりしていました。


ラジオもCDもyoutubeもない時代、鳥を飼育して朝な夕なの鳴き声に
心を慰められる人はずいぶん多かったのでしょう。


 

 

素人が鳥の鳴き声を学ぶには、サントリーさんのサイトが
とてもよいと思います。

日本の鳥百科|サントリーの愛鳥活動


メジロはこちら。
お馴染みの方も多いと思います。

メジロ|日本の鳥百科|サントリーの愛鳥活動

 

「これなんの声?」と質問される鳥ナンバーワンのキジバトさん。
べーべぼーぽぽー。

キジバト|日本の鳥百科|サントリーの愛鳥活動


ちなみに私はシジュウカラが好きです。

シジュウカラ|日本の鳥百科|サントリーの愛鳥活動

 

 


ともあれ鳴き合わせとは。

鶯にしろメジロにしろ、よい声で鳴く鳥には何百万円という値がついたり
よい声の鳥同士で掛け合わせてブリーディングに励んだりと
そうとうディープな世界です。


お爺ちゃんたち、若い頃に流行していた野鳥趣味をやめられずに
ついつい続けちゃったんかなあ。

数十年前はこういう保護法もなかったようですから、
オールドファンは余計に諦められないのかもです。

 

鳴き合わせ会では米やラーメンなど日用品を持ち寄り、優勝者などの景品にしていたと説明しているということです。


……供述通りなら、金満道楽という感じじゃなさそうですね。
供述をそのまま信じる訳にもいきませんけどね。

 

 

警察サイドも、ガサ入れした5月から今日まで押収した170羽のメジロ
「こいつは国産(アウト)か……海外産(セーフ)か……うーむ……」と
1羽1羽目利きしてはったんでしょうから、労の多い捜査だったことと思います。

お疲れ様でした。

 

なお、鳥獣保護法に違反した場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。

昔はどうだったとかあるにしても、やはり法律を守ってこその風流であります。

 

 

それにしても……鳴き合わせ会かあ。

いっかい見学してみたいものです。
合法な鳴き声鑑賞会がいつか開催されますように。

 

 

 

日刊工業新聞の東大阪市動画「踊る鎧かぶとロボ」と「ピタゴラ装置」

 

日刊工業新聞の動画ニュースで、東大阪市の技術が取り上げられていて
かんたんしました。

 

「踊る鎧かぶと」ロボ 人形工芸士と東大阪の企業がコラボ(動画あり) | 中小・ベンチャー ニュース | 日刊工業新聞 電子版

youtu.be

 

 連携力で“ピタゴラ装置”−東大阪市、市内44社の製品で作成(動画あり) | 地域経済 ニュース | 日刊工業新聞 電子版

 

youtu.be

 

 

踊る鎧武者ロボットかわええ……。



少子化節句離れで人形業界がピンチだ。

⇒じゃあ人形が踊ったらいんじゃね?



そんなアイデアをきっちり実現してしまう技術力がすごいと思います。

節句の鎧兜だけやなく、ひな人形とかにも応用できそうですね。
五人囃子が踊り狂うひな壇とかあったらちびっ子が喜びそう。

どっかのデパートやら高級ホテルやらがスポンサードしてあげたら
ぜったい話題を呼ぶと思います。


以前、居合切りをするロボットの動画も見たことがありますが、
そのうち殺陣やアクロバットで、人間では無理なアクションで
魅せるようなロボットショーが誕生してくるんでしょうか。

実態的にはプログラミング技術を競う形で、
いまのアニメーターがバトル作画を競っているようなノリで。

 

あるいは、ガチのファイトをロボットにやってもらうような
悪趣味なショーが……?


うーむ。
明るい方向で東大阪独自のパフォーマンスが誕生していくことを願います。

 

 


もう片方の動画でも、よくいわれるところの
「歯ブラシから人工衛星までつくれるモノづくり」の力を
アピールされていますね。


NHKピタゴラスイッチと違って、転がっているアイテムが
どれもこれも力づよい機能美に溢れていて最高です。

ギラギラした男くさい輝き。
ゴリゴリした男くさい重量感。


いっすねえ……!

さすが河内鋳物師の末裔です。

 

 

経済面でも文化面でも河内地方が盛り上がっていきますように。

 

 

 

映画「華岡青洲の妻」原作 有吉佐和子さん / 監督 増村保造さん(大映)

 

 

映画「華岡青洲の妻」における嫁姑の確執にかんたんしました。

  

www.kadokawa-pictures.jp

 

 

和歌山県の英雄、華岡青洲

全身麻酔を使用した乳がん手術※を世界で初めて成し遂げた方であります。

 ※女性の方はなるべく定期的にマンモグラフィ受けましょう

 

 

……華岡青洲のつくりだした麻酔薬「通仙散」の原料は、
マンダラゲ(別名キチ●イナスビ)という毒草です。

 



青洲さんはどうやって麻酔薬を完成させたのか。




それは当然……動物実験および人体実験であります。



 

人体実験には青洲さんの母・妻も参加いたしました。

賢母・良妻の美談はいまも土地に残っておりますが……

 

果たして単純な美談だったのか?

そこには嫁・姑の確執を軸としたドラマがあったのではないか?


と、小説として創作されたのが有吉佐和子さんであります。



この小説「華岡青洲の妻」は大ヒットし、映画化もなされました。

 

映画がまた、ものすごくおもしろいのですよ……!

 

役者さんがまずすごい。

青洲は市川雷蔵さん。
青洲の妻に若尾文子さん。
青洲の母は高峰秀子さん。


モノクロの画面に眉目秀麗な三人が映えること映えること。


女性陣の方言「~よし(~です)」がまた品よくてねえ。
(「~しよし(~しなさい)」とはまた違うんですよ) 

 



詳しいネタバレは避けますが、妻と義母の確執が深まる経緯がすごい。


映画冒頭、青洲さんは京に遊学していて不在なのです。

妻は旦那不在の家に嫁いできた訳です。


旦那不在の三年間。

妻と義母の仲はすこぶる良好だったのですが……。



青洲さんが帰ってきた途端、義母の態度は急転直下の冷たさに。


ああ、嫌な感じにすごくすごくリアルです。

男がいなけりゃ女は仲良くできてたのです。
男が間に入って取り合いが始まったのです。



ネタバレしませんが、ネタバレしたくなるほどの対立好演が
ビシリバシリと火花を散らし、義母が妻を見詰める視線の
鋭さ妬み深さに背筋がうぞぞぞと凍えます。


時代劇ですがチャンバラなんてまるでありません。

これは時代劇の器を借りた昼ドラです。
不信のときです。ウーマンウォーズです。

この手のドラマが好きな方には超オススメです。




男どもの能天気っぷりがまたいいんですよね……。


劇中でも青洲さんの妹が「兄は嫁姑の確執を理解した上で
自分の実験に利用している」と吐き出すシーンがあります。

確かにそれは的を得ていると思います。

嫁姑の争いに何ら口出しすることなく、夢・使命を追う医師として
まっすぐな青洲。

演じるのは当代最高のイケメン市川雷蔵
医師風のモジャ髪モジャ眉毛でもやっぱり美青年。

何もかもが超颯爽。
母も妻も意地を張りあう対象として最適です。
絶対、自分の魅力を確信したうえで振る舞っています。

 

そして、それ以上に能天気なのが青洲の弟子たち。

嫁姑問題には誰一人としてまったく気づかずに
「大奥様は偉い」「若奥様も偉い」と無邪気に褒めているだけなのです。

これ。
男どものこれ。

ええ憎らしい。

これですよ。
男の冷たさというのは気づかないふり以上に、
本当に気づいていないところにあると思いますよ私は。



このように。
100分の短い映画の中で、身もだえするほどの人間ドラマを
堪能することができます。

たいへん面白い作品だと思います。

 

ただ、劇中で「猫をつかった実験」「切り裂く系の外科手術」シーンが
ありますので、こうした描写がダメな方は避けた方がいいと思います。

この辺りは現代の作品では見られない感性ですから、
慣れていない方はびっくりしてしまうかと……。

 

 


最後に、女性中心の映画ですが、伊藤雄之助さんによる
青洲の父役演技が素晴らしかったことを紹介しておきます。


映画最序盤は嫁姑の対立もなく、市川雷蔵演じる青洲も帰郷していません。


導入部に盛り上がりがないのです。


そこを怪演で引っ張ったのが伊藤雄之助さんです。
存在感、アクの強さが最高です。

近所にこんな爺ちゃんおったなあと思わずにいられない、
すんごいマイペースなアクの強さ。
いまでは珍しくなった演技の方向性です……。



この映画は往年の時代劇役者の魅力がよく出ていると思います。

 

颯爽とした主人公。
凛とした女性。
デンとしたおじさん。

 

こうした役者が増えて、再び時代劇に活況が訪れますように。



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ところで、華岡青洲のご先祖はあの畠山高政に仕えていたという
伝承がございます。

意外なところで登場しますね高政さん。


遊佐長教・安見宗房という実権握りたい系謀臣の魔の手から逃れ、
河内・紀伊の支配者として権力を取り戻した高政さんは、
あの時代の守護大名としてはかなりの器量の持ち主だと思うんです。

応仁の乱からずっと分裂して内乱に励んできた畠山家が
かつての力を取り戻しかけたというのはすごいことですよ。

三好長慶松永久秀の登場で世の中の家格秩序が大きく揺らぐ中、
保守系世論の強力な受け皿になっていたんだろうな。


和歌山各地に残る伝承を丁寧に拾って読み解いていけば、
滅び去った畠山家の知られざる一面が見えてくるかもしれませんね。


ちょっとやってみたい作業です。

 

 

「アルベルト・ジャコメッティ展」国立新美術館@東京の六本木

 

 

ジャコメッティ展の迫力にかんたんいたしました。

 

www.tbs.co.jp

 

 

アルベルト・ジャコメッティというアーティストがいらっしゃいます。


特徴的な彫刻をおつくりになる方で、
百聞は一見にしかずなので作品の画像を貼らせていただきます。

(今回のジャコメッティ展で撮影OKな作品を撮ったものです)

 

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ご覧の通り、ものすごく細長い人物の彫刻をつくられることに
定評がございます。


10年くらい前にも兵庫県立美術館ジャコメッティ展が開かれていて、
その際の印象が強く残っていたので、今回も移動ついでに六本木まで
行って参りました。

 



行ってよかったです。

空いててじっくり見れたし。


展示されている作品の中では、
後半の大きめの彫刻群と、篇5のスケッチ群※を気に入りました。

ペロポネソス戦争本の挿絵を構想していたものだそうで、
 彫刻とはまた違う味わいがあります。
 巨人と小人が向き合う構図のものとかおとぎ話感あっていいですね。



ジャコメッティさんの彫刻は、パッと見では「削ぎ落した」ように
映るのですけど、近くで見ると「凝縮した」かのような力強さを
感じて、とてもとても圧倒されるのです。

力士やグラビアモデルの肉付きとは真逆の造形ですけど、
力士やグラビアモデルに負けないくらいのエネルギーを受け取れますよ。

 

完全に素人の感想になりますが、
彫刻の中に力のベクトル、力の矢印が埋め込まれているようなんです。

特に後頭部から鼻先・顎先にかけてのライン、
水平かつ平たい肩から平たい骨盤にかけての背骨のライン、
特徴的な細長い手足のライン、

それぞれに「←」「↓」といったエネルギーの方向性が
埋め込まれているように思えるんですよね。


侘びしさとか哲学とかを受け取るというより、
私はパワーを受け取ることができる展覧会だと思います。

日常のなんやかやで疲れている方におすすめですよ。



哲学といえばサルトルなど実存主義系の人がこのジャコメッティ
愛好していたそうです。

戦後ヨーロッパの各種アートで「実存主義的」と評される作品が
生まれましたが、個人的には「但しイケメン・美女に限る」系のものが
多いなあと思っております。
(具体名は挙げません)


そうした中で、このジャコメッティ彫刻はまさしく実存主義的、
人が人であるがまま、あらまほしきままの迫力を有していると
言えるのではないでしょうか。




それにしても「アルベルト・ジャコメッティ」とは
日本語使い的には独特に思えるお名前ですね。

10年前の兵庫県立美術館で友達とこんな会話をしたことを覚えています。

 友「ジャコメッティって覚えにくいね」
 私「せやね」
 友「じゃこ道くんとかなら親しみやすいのにね」
 私「がぜん愛媛生まれっぽくなったね」


今回の国立新美術館の物販でも「ジャコメッティー(茶)」
「ジャコリントウ(かりんとう)」といった趣深いグッズが売られていて、
なじみが薄い文化圏のお名前に懸命に親しもうとしている日本人の
姿勢を感じることができます。

物販では白トートバッグのデザインがけっこういいんじゃないと思ったのですが
よくよく考えたら使う場面も思い浮かばないので購入は見送りました。

 

 

以上、ジャコメッティ展のご紹介でした。

 

 

 

ちなみに、美術館の2階でやっている「サンシャワー 東南アジアの現代美術展」も
よかったですよ。

政治歴史的な背景がありますのでメッセージ性が強いものが多いのですが、
暗くならずにはっちゃけている作品が多くて楽しかったです。

階段から世界地図っぽいデザインのブロック板を延々落とし続ける映像作品とか、
アーカイブ」で紹介されている楽しそうな写真の数々とか
(ダッチワイフにドレスを着せて結婚式を挙げたりしていました)、
物販店が100円で石を売っていたりとか、

それぞれでくすくす笑えました。

 


国立新美術館の展示は文章が少なくていいですね。

能書きが多すぎると作品見ずに文章ばっかり読んでるになりますし、
足を止める客が増えて流れが悪くなりますし。

こちらの美術館は広いしゆったりしてるし実に私好みです。

 

これからもほどよい混み方で存続していきますように。