肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

季刊大林「No.60「技術者」感想 古市公威、青山士、八田與市等」

 

季刊大林の、近代日本の発展に尽力された技術者方を特集した最新号がたいそう面白くてかんたんしました。

個別にお名前や事績を伺ったことがある方もいますが、こうして通観的にまとめてくださるととてもとてもありがたいですね。

 

↓リンク先の公式HPで記事を読むことができます

https://www.obayashi.co.jp/kikan_obayashi/kikan-60.html

 

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表紙中央のすこぶるイケメンな方は青山士さんです。

技術者を題材にしたソシャゲとかが出たらたぶんSSRの主役級になることでしょう。

 

 

冊子の内容は次のとおりです。

 

座談会:近代土木の開拓者

樺山紘一東京大学名誉教授、印刷博物館館長)
月尾嘉男東京大学名誉教授)
藤森照信東京大学名誉教授、東京都江戸東京博物館館長、建築史家・建築家)

 

総論:近代土木の技術者群像

北河大次郎(文化庁文化財調査官)

 

古市公威と沖野忠雄】 「明治の国土づくり」の指導者

松浦茂樹(工学博士・建設産業史研究会代表)

 

ヘンリー・ダイアー】 エンジニア教育の創出

加藤詔士名古屋大学名誉教授)

 

【渡邊嘉一】 海外で活躍し最新技術を持ちかえる

三浦基弘(産業教育研究連盟副委員長)

 

【田邊朔郎】 卒業設計で京都を救済した技師

月尾嘉男東京大学名誉教授)

 

【廣井勇】 現場重視と後進の教育

高橋裕東京大学名誉教授、土木史家)

 

【工楽松右衛門】 港湾土木の先駆者

工楽善通大阪府立狭山池博物館館長)

 

【島安次郎・秀雄・隆】 新幹線に貢献した島家三代:世界へ飛躍した日本のシンカンセン

小野田滋(工学博士・鉄道総合技術研究所担当部長)

 

【青山士】 万象ニ天意ヲ覚ル者:その高邁な実践倫理

高崎哲郎(著述家)

 

【宮本武之輔】 技術者の地位向上に努めた人々

大淀昇一(元東洋大学教授)

 

八田與一】 不毛の大地を台湾最大の緑地に変えた土木技師

古川勝三(愛媛台湾親善交流会会長)

 

【新渡戸傳・十次郎】 明治以前の大規模開拓プロジェクト

中野渡一耕(地方史研究協議会会員、元青森県史編さん調査研究員)

 

丹下健三】 海外での日本人建築家の活躍の先駆け

豊川斎赫(千葉大学大学院融合理工学府准教授、建築士家・建築家)

 

近代土木の開拓者年表

 

 

それぞれ面白いのですが、土木・技術エピソードとして素人的にもかんたんできるのは島一族、青山士さん、八田與市さんあたりでしょうか。

 

 

島一族による新幹線実現への貢献については、よく知られる日本の鉄道の広軌狭軌問題について、狭軌も含めた日本鉄道史の紆余曲折・経験の積み重ねがあったからこそ新幹線プロジェクトをやり遂げることができた、と総括されているところがとても素敵だなと思いました。

 

 

青山士さんについては、以前荒川の岩淵水門を見学したことがあったので感慨もひとしおです。当時伺った話では、青山士さんは東京市街地を洪水から救った方であり、また、荒川区から荒川を奪った(旧荒川は隅田川になった)方だそうですね笑

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八田與市さんはこの本で初めて詳しく知ったんですけど、台湾開拓にこんなにも尽力された方がいらしたんですね。

素直に感心するばかりで、ぜひ一度台南地方に行ってみたいなあと思いましたよ。

 

 

ほかにも、田邊朔郎さんの記事では京都疎水が登場したり、渡邊嘉一さんの記事では黎明期の京阪鉄道が登場したりしますので、関西人的にもアガること間違いなしです。

どの記事も短いページでクリティ高くまとまっているので堪能いたしましょう。

 

 

 

具体建築物ではなく、技術思想的な面で個人的に深い感銘を受けたのが古市公威さんとヘンリー・ダイアーさん。

ともに、技術者が目指すべきところについて総合性や教養性の重要さを説いておられるところが大好きです。

 

古市公威さん。

古市は、1915(大正4)年第1回土木学会総会で国土づくりを担当する土木技術者の在り方として、他の専門との比較で「将ニ将タレ」との有名な言葉を残している。

「余は極端なる専門分業に反対する者なり。専門分業の文字に束縛せられ萎縮する如きは大に戒むへきことなり。殊に本会の方針に就て余は此の説を主張する者なり。」

「工学所属の各学科を比較し又各学科相互の関係を考ふるに指揮者を指揮する人、すなわち所謂将に将たる人を要する場合は土木に於て最多しとす。土木は概して他の学科を利用す。故に土木の技師は他の専門の技師を使用する能力を有せさるへからす。」

 

ヘンリー・ダイアーさん。

幅広い教養教育も重視されていたことが特筆される。

「文学、哲学、芸術、さらには自分の専門職に直接役立たないような諸科学にまったく門外漢であったならば、多くの専門職人にみられがちな偏狭、偏見、激情から逃れられない」。

エンジニアは専門分野の学力と実務能力だけでは十分でなく、「政治、経済、文化に関する幅広い教育を踏まえて、自らの社会的使命を的確に認識し実現する」ようにと説いて、エンジニアの社会的役割を強調した。

工部大学校では士族出身の学生が多く、ともすれば実務を軽視する傾向がみられたし、専門職はとかく思想や行動の偏狭さに陥りがちになるであろうから、この教養教育の重視という観点は大きな意味がある。

 

土木も含め、環境問題、防災減災、エネルギー、あるいは各ビジネス領域等、現実社会で大きな課題に直面する方は、専門性に加えて総合性や教養、幅広な責任感が求められることは明らかですから、こうした指針を早期に出しておられた先人の偉大さにはまことに敬服してしまいます。

 

 

そう言えば、かつて東大総長だった南原繁さんも入学式祝辞で

「教養の意義は、さようにして、諸君のこれからの専門知識と研究が展開されてゆく普遍的基盤を提供するばかりではない。その目ざすところは、畢竟、もろもろの科学を結びつける目的の共通性の発見であり、かような目的に対して深い理解と価値判断をもった人間を養成することに在る。この意味において、教養は、まさに時代の高きに生きんとする人間の何人もが、欠くことのできない精神的条件である」

「われわれが生を生きるのは、他ならぬ他人との共同生活においてである。だから、教養とは、結局、われわれが自主的に価値を選別し、真理と自由と思惟するところを、社会と同胞との間に実現する能力と勇気を具えた社会的人間の養成ということに他ならない。そして、それを可能ならしめる根拠は、あくまで人間の自由の自覚と精神の自律である」

 

と仰っていたそうですが、実際、土木に限らず、これから汎用的なことはたいていAIやロボットがやってくれる時代になる訳ですから、そうした中で各界を引っ張っていかれる方は、多様な専門領域を結びつけるような統合的資質がますます重要になっていくんでしょうね。

 

まったく、百年近くも前にそういうことを仰っておられた方々の慧眼ってのは素晴らしいものであります。

 

 

 

先人の偉大さを振り返ると、現在を生きるモチベーションにもなりますし、背筋が伸びるような自律も与えてくださって、いいものですね。

 

こうした良い本が、若いこれからの方々に広く読まれて刺激になりますように。

 

 

 

 

 

「中華一番!極 8巻感想 シェル・レオン再び」小川悦司先生(マガポケ)

 

好評連載中の「中華一番!極」にて、シェルさんとレオンさんが遂に再活躍(しかも@敦煌)してくださりかんたんしました。

この二人の噛み合わせが好きな往年のファン的には非常に嬉しいっすね。

 

kc.kodansha.co.jp

 

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詳しい説明は省きますが、「中華一番!極」は「真・中華一番!」の続編でして。

この巻では、シェルさんとレオンさんが「太極料理界」という裏料理界の親戚的な方々と「伝説の厨具 霊蔵庫」「囚われのミラさん」をかけて料理勝負をいたします。

 

 

シェルさんとレオンさんですよ。

少年厨師の主人公マオさんを支える二人のイケメン料理人。

ちょいちょい喧嘩するけどおおきくは仲良しな安心感あるコンビ。

本気を出したら一瞬で敵の宮殿をぶち壊すほどの豪傑っぷり(自称破壊神)。

料理面ではマオさんが強すぎるので活躍シーンが控えめだったことでも知られる。

 

当時のファンから熱く愛されていた組み合わせなのであります。

 

 

 

極の連載開始後も、登場は時々するものの、料理シーンはほとんどなく。

8巻にしてようやく大活躍してくださり、ファン的にはカタルシス高いっすわ。

 

 

詳しいネタバレは避けますが、

  • 中華一番!っぽい、特殊ギミック相手の苦戦から始まり。
  • レオンさんが特殊ギミックを見事に見破った上で、
  • シェルさんが特殊ギミックを上回る料理力と漢力で見事に勝利。
  • 更にタッグマッチで延長戦、正々堂々な大勝利。
  • ちなみに最終的に料理勝負している男4人全員が半裸!
    繰り広げられるシェルさんとレオンさんの熱い餅つき!
    ハイッ!! フンッ!! パァンパアン パパパパパ
    シェルさんの鋼棍二本挿し!!!

 

というですね(一切誇張なし)、ファンとしては見逃せない展開が続きますよ。

もちろん料理も大変おいしそうです。

 

極はけっこう長編展開が続いているのですが、この巻はほぼ1冊でエピソードが完結できているのもいいですね。

 

 

 

巻の後半では、再びマオさんに話が戻りまして、謎の料理人 VS フェイさん&ルイさん(極登場のイケメン龍厨師)タッグの試合観戦が始まります。

 

この勝負の展開は9巻に持ち越しですが、謎の料理人の異常な料理スケールを目にしたマオさんが

「分かる気がする!!」 

 

とあやふやな解説を確信的な表情でしているのがツボでした。

 

 

また、コロナ禍を踏まえてか、カバーそでの作者自画像が「仮面料理人リエンさん」になっていたのもウケましたね笑

リエンさんは海外人気がパねぇそうなので、海外ファンは歓喜していることでしょう。

 

 

引続き極の連載が好調に続き、さいきん一時ほどの元気がなくなってきている料理漫画シーンを牽引していってくださいますように。

 

 

祝!「中華一番!極 第1話」小川悦司先生(マガポケ) - 肝胆ブログ

 

 

 

「享徳の乱と戦国時代 感想」久保健一郎さん(吉川弘文館 列島の戦国史①)

 

吉川弘文館「列島の戦国史」シリーズの第一弾、「享徳の乱と戦国時代」が期待にそぐわぬ面白さ・完成度の高さでかんたんしました。

このシリーズ、とてもいいですね。

 

www.yoshikawa-k.co.jp

 

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15世紀後半、上杉方と古河公方(こがくぼう)方が抗争した享徳(きょうとく)の乱に始まり、東日本の地域社会は戦国の世へ突入する。室町幕府の東国対策、伊勢宗瑞の伊豆侵入、都市と村落の様相、文人の旅などを描き、戦国時代の開幕を見とおす。

 

 

 

このシリーズは、各時代・地域の最新研究をバランスよく、かつ地域社会や文化の発展までを含めて整理してくださっていますので、目次を細かめにご紹介することが大事なのではないかと思います。

 

戦国時代とは―プロローグ

    過渡期か独自の段階か

    時期区分と地域の個性

    本巻の狙い

 

一 室町社会と鎌倉府の変動

 1 室町幕府と鎌倉府の成立

    陸奥将軍府鎌倉将軍府

    鎌倉か京か

    初期鎌倉府

    奥州管領

 2 打ちつづく内乱

    薩埵山体制

    内乱の展開と諸地域の状況

    上杉憲顕の復帰

    公方と関東管領

    鎌倉府の勢力拡大

    稲村・篠川御所と奥州探題

 3 鎌倉公方の滅亡

    上杉禅秀の乱

    乱後の混迷

    足利持氏の反幕府勢

    永享の乱

    結城合戦

    鎌倉府包囲網の形成

    外縁と変容する包囲網

 

二 享徳の乱

 1 鎌倉府の再編

    関東管領上杉憲忠

    足利成氏の帰還

    長尾景仲と太田道真

    江の島合戦

    成氏と上杉憲実

    不穏な形勢

 2 大乱勃発

    上杉憲忠誅殺

    古河公方の成立

    幕府の対応

    五十子陣の構築

    堀越公方の成立

    優劣決せず

 3 乱の膠着化

    足利政和の意向と立場

    渋川義鏡の失脚

    体制の移行

    包囲網の綻び

    包囲網の外で

    応仁の乱享徳の乱

 

三 混沌化する社会

 1 長尾景春の乱と太田道灌

    一進一退

    山内上杉氏家宰問題

    五十子陣の崩壊

    道灌、南へ北へ

    足利成氏の進出

    成氏と上杉方との和睦

 2 都鄙和睦

    武蔵・相模の戦い

    追い込まれる景春

    景春の乱の終結

    都鄙和睦の過程

    都鄙和睦の条件と実現

 3 長享の乱

    道灌謀殺

    道灌の人物像

    山内・扇谷両上杉の抗争

    戦況の推移

    駿河今川氏と遠江

    越後・信濃の動向

    奥羽の秩序と変動

 

四 都市と村落の様相

 1 寺社の自治

    鶴岡八幡宮と香蔵院珎祐

    衆会と「被籠」

    「悪党」事件

    別当と供僧

    検断と強問・喧嘩

    喧嘩から合戦へ

    都市と戦争

 2 領主と在地のあいだ

    佐々目郷白鬚神田問題

    長禄四年年貢・反銭問題

    台・洲崎の代官任用

    寛正二年夫馬借用・年貢問題

    代官と入部

 3 在地の人々

    百姓の代官拒否

    珎祐と百姓

    鑁阿寺領戸守郷

    「強入部」

    蒲御厨の公文・百姓

    品川の有徳人

    神奈川の蔵衆

 

五 旅する文化

 1 連歌師宗祇と心敬

    宗祇の東国下向

    宗祇と長尾一族との交流

    『白河紀行』の旅

    心敬の東国下向

    『ひとりごと』の執筆

    「河越千句」と南奥の旅

    大山隠棲と『老のくりごと』

    宗祇と古今伝授

 2 万里集九と太田道灌

    万里集九の関東下向

    太田道灌と学芸

    江戸城の万里

    万里の鎌倉行と交流

    万里の帰還

 3 旅と紀行文

    聖護院道興と『廻国雑記』

    堯恵と『北国紀行』

    旅・交通・文化

 

六 踏み出していく社会

 1 伊勢宗瑞の登場

    「北条早雲

    駿河以前の盛時

    駿河以後の盛時

    足利政和の構想と挫折

 2 宗瑞と伊豆・関東

    堀越公方府の内紛

    伊豆打ち入り

    宗瑞、関東へ

    戦乱の拡大

    明応大地震と伊豆平定

    伊豆打ち入りの意義

 3 世紀末の状況

    長享の乱の展開

    今川氏親の動向

    武田氏の内訌

    上杉房能と長尾氏

    動揺あるいは再編

 

ふたたび戦国時代とは―エピローグ

    十五世紀末の東日本

    戦国大名・戦国領主

    戦国領主の勃興と下剋上

    長い開幕ベル

 

あとがき

参考文献

系図

略年表

 

目次からそのままハンド転記したのでとても疲れましたが、その甲斐あって、当著の構成がよく分かるかと思います。

詳しい方であれば、ある程度論筋を読み解くこともできるかもしれません。

 

 

近年、「戦国時代は東日本から始まった」という話を聞いたことがある方も多いかもしれませんが、当著においても東日本の戦国時代前夜から伊勢宗瑞(通説の北条早雲)さんの登場までを分かりやすくまとめてくださっていますね。

 

何から戦国時代というのは難しい話ですけど、エピローグの「長い開幕ベル」という素敵な表現が当著のスタンスをそのまま表しております。

享徳の乱で開幕のベルは鳴らされるが、そのベルは十五世紀後半を通じて鳴り続け、十六世紀初頭に至るということである。この間、待ちきれない演者の中には、上がりきらない幕の前に進み出てパフォーマンスを見せる者もいたりした。たいへん長い開幕ベルであったといえよう。

 

このリリカルな表現と歴史解釈、好きです。

 

 

 

本編全体は(あくまで私の素人理解ですが)各領域の最新研究を上手く集約しつつ、最新研究にありがちな先鋭的な見解については「紹介しつつ穏当な著者意見を添える」という大変バランス感覚のよい記述をしてくださっております。

 

享徳の乱応仁の乱を惹起したのか? ですとか、

伊勢宗瑞さんの伊豆打ち入りは中央政権の指示によるものなのか? ですとか。

 

「享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」」峰岸純夫さん(講談社選書メチエ) - 肝胆ブログ

 

こういう、先鋭意見を無視せずに紹介して、著者の意見も添え、判断はある程度読者に委ねますよ、という幅をもたせた書き方。

私のように初心者だけどそれなりに突っ込んで学びたい、というスタンスの者にはありがたいですし、通史としての当シリーズにも相応しいと思いますね。

 

 

 

その他、個人的な感想、印象に残った点はざっくり次のとおりです。

  • 上杉憲実さん、魅力的だなあ。
    死去したのが長門大寧寺とは知らなかったなあ。
  • 長尾景春さんの評価が抑え目なのがむしろいいなあ。
    過大視しすぎない方が長尾景春さんの魅力は引き立つと思う。
  • 太田道灌さんの実像を細やかに分析してくれているので、これは道灌ファンは必見やなあ。上手いこと地域荘園での存在感を高めていく様、まさにやり手の戦国領主やなあ。
  • 上杉房定さんの対文化人窓口・歓待っぷりが素敵だなあ。
    京の人から見れば、東日本の玄関口的な役割だったんだろうなあ。
  • 万里集九さん、確か下呂温泉でも見かけたなあ。
  • 宗祇さんの古今伝授碑、三島で見かけたなあ。
  • 記述は薄めだけど奥州情勢等も書いてくれているので、同時代で横串させるのはありがたいよね。

 

我ながら、いかにも素人感想だ笑

 

 

(参考:三島大社で見かけた碑)

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力作シリーズの第一弾に相応しい良著だと思いますので、たくさん売れて読まれるといいですね。

 

こうした通史的シリーズが多くの人の目に触れ、研究的にも創作的にも、各地域間や各時代間の接合がますます進んでいきますように。

 

 

 

「大内氏の滅亡と西日本社会」長谷川博史さん(吉川弘文館 列島の戦国史③) - 肝胆ブログ

「室町幕府分裂と畿内近国の胎動 感想」天野忠幸さん(吉川弘文館 列島の戦国史④) - 肝胆ブログ

 

 

「中世の罪と罰 感想」網野善彦/石井進/笠松宏至/勝俣鎭夫(講談社学術文庫)

 

復刊された「中世の罪と罰」で語られた仮説が、非常に切れ味鋭い一方、現代の視点で読むとかなりスレッスレなことを闊達に提唱していたりしてドキドキとかんたんいたしました。

 

bookclub.kodansha.co.jp

 

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「やーい、お前の母ちゃん、でべそ!」

誰もが耳にしたことがありながら、よく考えると意味不明なこの悪口。そこに秘められた意味とは? ありふれた言葉を入り口に、今は遠く忘れ去られた日本の姿が、豊かに立ち上がる。


「お前の母ちゃん…」のような悪口が御成敗式目にも載るれっきとした罪であり、盗みは死罪、犯罪人を出した家は焼却処分、さらに死体の損壊に対しては「死骸敵対」なる罪に問われれた中世社会。

何が罪とされ、どのような罰に処せられたのか。

なぜ、年貢を納めなければ罰されるのか。

それは何の罪なのか。

10篇のまごうかたなき珠玉の論考が、近くて遠い中世日本の謎めいた魅力を次々に描き出す。

 

稀代の歴史家たちが、ただ一度、一堂に会して究極の問いに挑んだ伝説的名著、待望の文庫化!(原本:東京大学出版会、1983年)

 

 

解説(桜井英治・東京大学教授)より

本書を通じてあらためて浮き彫りになるのは、中世社会が、現代人の常識や価値観では容易に解釈できない社会だということ、つまりそれは私たちにとって彼岸=異文化にほかならないということである。……日本中世史研究がまばゆい光彩を放っていたころの、その最高の部分をこの機会にぜひご堪能いただきたい。

 

 

【主な内容】

1 「お前の母さん……」 笠松宏至
2 家を焼く 勝俣鎭夫
3 「ミヽヲキリ、ハナヲソグ」 勝俣鎭夫
4 死骸敵対 勝俣鎭夫
5 都市鎌倉 石井進
6 盗 み 笠松宏至
7 夜討ち 笠松宏至
8 博 奕 網野善彦
9 未進と身代 網野善彦
10 身曳きと“いましめ” 石井進

討論〈中世の罪と罰〉 網野善彦石井進笠松宏至・勝俣鎭夫

あとがき 笠松宏至
あとがきのあとがき 笠松宏至

文献一覧

解 説 桜井英治

 

 

長く引用しました通り、中世の法制史そのものを語る本ではなく、中世の法の背後にある当時の意識・価値観・倫理観について大胆に語ってみる内容の本になっています。

 

 

現代の「お前の母さんでべそ」……に至る以前、中世でも母親にまつわるタブー的悪口が存在したとか(内容は伏せます)。

 

荘園領主が犯罪者の家を焼く行為は、財産を奪うということより、犯罪による「穢れ」を除去する行為、すなわち「祓」の一種だったのではないかとか。

 

あざむく系の罪を犯した者に加える耳・鼻そぎ、焼き印、(女性の)髪切りは、犯罪者を異形の姿に変えることそのものを目的にしていたのではないかとか。

 

死骸にも霊力や意志が宿っていると考えられていたため、死者に対しても磔等の処罰を加えていたのだろうとか。

 

都市鎌倉の周縁部に見られたカオスだとか(詳細は伏せます)。

 

フロイスさんたちがびっくりするほど、当時の日本社会が盗みに対して厳罰(処刑)を以て対していた思想的背景ですとか。

 

夜討ちは犯罪か武士の習いか、昼と夜を分かつ暗黙のルールとは、ですとか。

 

博打が徐々に犯罪として厳罰化されていった思想的背景ですとか。

 

年貢は義務か契約か、ですとか、犯罪者の奴隷化および年貢未納者の奴隷化ですとか。

 

 

様々なテーマに対して大胆な仮説を述べられている訳ですね。

もちろん、いずれも思い付きで話されている訳ではなく、中世の史料をもとに論筋を構築されております。

 

 

読ませていただいた感想としては、いずれも非常に切れ味鋭い考察でして、著者の方々あたま良いんだろうなあとかんたんさせられますので、学問をする人等にとっては頭脳の使い方の好事例として刺激的なテキストになるのだろうと思います。

個人的には、後半に出てくる荘園領主と年貢と出挙と債務奴隷等、荘園統治実務のバックボーン的な内容のところが一番好奇心を抱きました。

 

一方、前半のパートは、「穢れ」「祓」「異形の存在」「死骸の霊力」等、確かに中世の価値観としてなるほど感がありつつも、現代ではかなりデリケートな扱われ方をする言葉を軸にした論説が続きますので、相応の説得力を感じつつも、人に話したり軽々しく借りパクしたりするのは相応しくないだろうという気持ちになります。

端的に言えば、SNS向けではないというか。

「穢れ」「祓」「霊力」のようなワードは、歴史を解釈する上で便利過ぎるような印象もありますので、優れた仮説として敬意を抱きつつ、尻馬に乗って言葉を借りたりするのは一旦やめておこうと思いました。

 

 

討論内容も含め、この本はあくまで切れ味鋭い仮説や思考過程を学び楽しむ本だと思いますので、書いてあることをそのまま真に受けて「中世はこうだったんだ」とか断言してしまうことのないように気をつけてまいります。

 

 

以上、あえて細かなことを紹介せずにぼわっとした感想だけ書いたので、あまり良質な記事になっていなくて恐縮です。

下手に面白そうな部分だけを切り取って引用すると、中世人の倫理意識に対する偏見を生んでしまいそうなので!

 

 

人の、「罪と罰」に対する価値観がどのように誕生し、変容していったかというテーマは好きなので、中世に限らず、これからも各領域で掘り下げられてほしいですね。

 

今も昔もこれからも、やむを得ず罪を犯すような方がむやみに増えませんように。

 

 

映画「相撲道―サムライを継ぐ者たち― 感想」

 

映画「相撲道」がたいそう面白くてかんたんしました。

これは相撲ファンは観るべきだし、相撲に興味のある方や海外の方にも胸を張って見せられそうだし、何より後進の力士方のモチベーションアップに繋がりそうですね。

 

sumodo-movie.jp

 

 

 

前半は境川部屋豪栄道関(19年初場所)、

後半は高田川部屋・竜電関(19年夏場所)に密着ルポルタージュする映画です。

 

ネタバレ……という概念が相応しいかは分かりませんが、以下、内容の紹介を含みますのでご留意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大まかな流れとしては、

  1. 満員御礼の国技館の映像
  2. 境川部屋の稽古風景
  3. 豪栄道関や妙義龍関や佐田の海関等へのインタビュー
  4. 境川部屋に監督が焼肉をご馳走!
  5. 19年初場所豪栄道
  6. 高田川部屋の稽古風景
  7. 竜電関や輝関や高田川親方(元安芸乃島)へのインタビュー
  8. 高田川部屋のちゃんこ!
  9. 19年夏夏場所の竜電関
  10. 竜電関の結婚式

 

といった感じです。

 

その中で、

  • 相撲部屋の激しい稽古風景
  • 力士がバチコォーンとぶつかり合う迫力
  • 稽古や土俵づくりの中で描かれる土・砂のリアリティ
  • 妙義龍関の筋肉美
  • 30人強で80万円分の焼肉を食い尽くす力士の胃袋
  • 豪栄道関の「やせ我慢」
  • 竜電関の四股
  • 高田川親方の有能プレイングマネージャー
  • めっちゃうまそうな高田川部屋のちゃんこ
  • 両部屋ともに若手力士たちがかわいい
  • 竜電関夫婦が実に幸せそうで何より

 

などなどを堪能できまして、相撲を知っている人もよく知らない人も楽しめることうけあいです。

映画館で観たところ、あちこちのシーンで観客方が息を呑んだりケラケラ笑ったりしていて、一体感も楽しめましたね。

映像の美しさ、編集のテンポ、三味線等のBGMも非常に上品質で、特にダレることもなく、時間を忘れて見入ることができました。

 

個人的に、映像の中で特に印象に残ったのは妙義龍関の身体のキレッキレっぷりと、相撲部屋の稽古シーンです。

ともに下半身の映像がよく撮れていて、力士方が足の指で砂をかむようにしている、パネェ筋肉と柔軟性で巨体を支えている、のがよく伝わってくるんですよ。

 

TVの相撲中継とはまた違う迫力や実感がありますので、ぜひ一度ご覧になっていただきたいものです。

 

 

あわせて感慨深いのが、映画を通じて相撲の変わらない部分と、変わってしまった部分の両方が描かれていたこと。

 

映画では「サムライを継ぐ」と表現されていた力士の強さ偉大さ精神性といった面は、これまでもこれからも不変の相撲の魅力だと思いますので、「そうそう」とおおいに同意できて嬉しいんです。

 

一方、豪栄道関」「満員御礼の国技館等、映画撮影から1年半後の現在ではもう見られない映像は「失ったものの大きさ」を実感でき過ぎて胸に来ました。

映画冒頭の栃煌山関へのエールや、元気そうに歩いている豊ノ島で泣きそうになりましたし……。

コロナ下にあって一人マス席の快適さをおおいに評価しつつも、ギュウギュウ詰めで騒がしい国技館の場景、久しぶりに見るとこんなにこんな気持ちになるんだ、と驚いてしまいました。

この辺、思い入れのあるファンは鑑賞時に注意くださいませ。

 

 

 

相撲好きにとっては素晴らしい映画ですし、アピール力も高いと思いますので、翻訳されて海外配信されたりしてグローバルに相撲ファンを増やすきっかけになっていただけますように。

この映画で描かれた豪栄道関や竜電関のような魅力的な力士が、これからも続々と登場し活躍してくださいますように。

 

 

 

 

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当時、ちゃんと豪栄道関と竜電関を褒めていた自分を褒めてやりたい。

 

 

 

 

篠原古戦場「斎藤実盛の首を抱え天を仰ぐ木曽義仲像」石川県加賀市

 

私用で北陸に遠征(大成功)していたところ、念願の「斎藤実盛さんの首を抱え天を仰ぐ木曽義仲さんの像」を拝見することができてかんたんしました。

 

www.hot-ishikawa.jp

 

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石川県の南端、小松空港加賀温泉がある辺りに位置する篠原古戦場。

 

木曽義仲さんのサクセスロードのひとつで、火牛計伝説で有名な倶利伽羅峠の戦いの次戦が行われた場所であります。

平家方が総崩れになる中、老将斎藤実盛さんが小勢で奮戦するも、圧倒的な木曽義仲勢の前に遂に討ち取られてしまう戦いですね。

 

 

その老将斎藤実盛さん。

木曽義仲さんにとって幼い頃の命の恩人という関係でございまして、図らずも恩人を討ち取ってしまうことになった木曽義仲さんの心中は察して余りあるものがあります。

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どこまでが史実でどこまでが物語なのかはよく分かりませんが、私はこういう運命が悲しい交じり方をする話が好きなのです。

 

 

 

斎藤実盛さんは白髪を黒く染めて出陣したと言われており、討ち取られた後、この池で首を清めたところ、みるみるうちに髪が白くなったのだとか。

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斎藤実盛さんの首を抱え、天を見上げる木曽義仲さん。

斎藤実盛さんの首を検分した片腕の樋口兼光さん。

斎藤実盛さんを実際に討ち取った手塚光盛さん。

 

三人の様子を描いた銅像がこちらです。

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木曽義仲さんの物語の中で、私はこの場面が一番好き。

北陸新幹線の延伸にあわせてもし木曽義仲さんの大河ドラマをやるのなら、ここにこそ力点を置いてほしいと思います。

 

 

 

木曽義仲さんのアップ。

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雨で銅像が少し溶けて、いっそう涙しているように見えてしまいますね。

こうしたシチュエーションの銅像は珍しいですし、ダイレクトなインパクトがいいと思います。

運命を哀しむ青年武将として造形されているだけに、木曽義仲さんのその後の運命まで思い描いてしまって何とも言えない無常感に襲われます。

 

 

 

樋口兼光さん(たぶん左)と手塚光盛さん(たぶん右)。

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状況的に気まずいどころではないと思いますし、それ以上に私のイメージするこの時代の武士は、主が悲しいときは家臣も同じだけ悲しい思いになって一緒に号泣していたんじゃないかなあと。

 

ちなみに樋口兼光さんは直江兼続さんのご先祖様とされていますね。

 

 

 

もはや何も語らない斎藤実盛さんの兜。

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そして江戸時代に訪れた松尾芭蕉さんの句碑。

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「むざんやな 兜のしたの きりぎりす」。

 

 

 

木曽義仲さんはともすれば豪快で乱暴なパリピ感高い方のように扱われがちですが、このエピソードや巴御前さんとの関係等、様々な面を持っている豊かな人物だと思いますからもっと人気が出るといいですね。

 

 

 

 

ちなみに篠原古戦場の近くには有名な安宅の関勧進帳舞台)もあります。

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むしろこちらの方が有名なので、義経・弁慶主従ファンに篠原古戦場も近くにあるんだよということをアピールしたいところです。

 

 

 

日本海に沈む夕陽がとてもきれいでした。

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旭日将軍の銅像を見たあとに夕陽を見ると、物思いしちゃいますけどね。

 

 

 

 

これで、畠山重忠さんの銅像とともに、いつかは見てみたかった銅像を無事に拝見できて何よりでした。

「三好長慶さんの銅像」堺市南宗寺と大東市役所 - 肝胆ブログ

埼玉県「大里郡寄居町の鉢形城(長尾景春&北条氏邦)」と「深谷市の畠山重忠公史跡公園」 - 肝胆ブログ

 

 

そのうち大内氏関係史跡とか佐賀県とかにも行きたいと思っています。

が、どうせ行くなら何日か自由時間を確保したいですし、でも何日も確保しようとするとなかなか予定が立てられないですし。

難しいものでありますね。

 

 

運輸産業の方は大変な渦中にありますが、インフラの整備・保持とともに、庶民の旅の安心をこれからも支え続けてくださいますように。

いつも感謝しています。

 

 

 

 

 

亀屋陸奥「松風 大人になってから食べると超うまい一向一揆の兵糧」

 

ものすごく久しぶりに亀屋陸奥さんのお菓子「松風」を食べてみたところ、ものすごく美味しくて何コレこんなにうまかったっけ!? と3切れ連続で食べてしまうほどかんたんしました。

 

kameyamutsu.jp

 

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(画像はオフィシャルHPから引用)

 

 

 

松風は、小麦粉、砂糖、麦芽糖、白みそを練り込み、少し発酵させてから焼いて、仕上げにケシの実を振りかけたお菓子です。

短冊形に切り分けられた焼き菓子ということで、見た目は和菓子というより古典的なケーキ類に近いような気もしますね。

 

 

若い頃は麦芽糖系の味にあまり興味がなかったので、食べた時も「うん。……うん。」みたいな反応しかできなかった記憶がありますけれども。

あれからかなりの年月が経ち、味覚の幅が広がったのか単に年寄り趣味になっただけなのか、久しぶりに食べてみると「うっま。うっま。……え? うわ、うっま!」と語彙力が乏しくなるくらいハマってしまいまして。

しみじみした甘味、複雑玄妙なクセのある香り、もへもへした絶妙な食感、快い余韻と、非常に大人向けの魅力がございます。

 

万人受けはしないと思いますが、ハマる人はハマるし、なかなか似たような食べものも思い当たらない感じで、非常にキャラが立っている。

 

 

亀屋陸奥さんは山科の蓮如さん時代から本願寺に仕えていて、その後、石山合戦時代に松風のルーツとなる食べものを兵糧として考案。

顕如さんにも愛好され、彼の「わすれては 波の音かとおもふなり まくらに近き 庭の松風」の歌から銘をとって「松風」と呼ばれるようになったそうです。

 

織田信長さんに苦戦して、毛利家とかからの兵糧補給も減ってきて、あ゛ーーやべーーってなっているときにこんなうまいもの(のプロトタイプ)を口にしたら、士気はうなぎのぼりだったでしょうし、生き残った方々は「また食べたい、何度でも食べたい」とDNAに刻まれたことでありましょう。

 

とりあえず信長の野望とかの歴史コンテンツでHGJや雑賀衆が好きな方は食べてみるといいんじゃないでしょうか。

 

 

さいきん畿内史の本を読んでいて「塩瀬饅頭」を食べたくなったのと同様。

「室町幕府分裂と畿内近国の胎動 感想」天野忠幸さん(吉川弘文館 列島の戦国史④) - 肝胆ブログ

 

戦国時代当時から食べられているお菓子が現代でも大人気というのは、どえらいことだなあと敬意を払わずにはいられませんね。

 

こうした料理や食材、まだまだ知らないものが多いと思いますので、これから先も意外な出会いや喜びに巡り合うことができますように。