肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「ラーメン発見伝&らーめん才遊記」作 久部緑郎先生/画 河合単先生

 

漫画「ラーメン発見伝」と「らーめん才遊記」にかんたんしました。

 

www.shogakukan.co.jp

 

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食べもの漫画が好きで、時々目についた作品を買って読むようにしています。

この作品は、コンビニのペーパーブックスで購入していました。

 

私は先に「才遊記」から読んでしまったのですが、
作品の時系列としては「発見伝」→「才遊記」となります。
ストーリーの繋がりは薄いのでどちらから読んでも問題ありませんが、
発見伝から読んでいれば才遊記の数箇所でニヤリとできる感じです。

ちなみにこの2月末に発見伝の最終巻が出たところで、
3月末からは才遊記の1巻がコンビニで出るようです。


以下、若干のネタバレを交えつつ、両作品を紹介します。

 

 

 

 

 


発見伝は脱サラしてラーメン屋になりたい男が主人公、
才遊記は料理研究家の親許から逃げてきた女が主人公です。


発見伝のあらすじ。

主人公はラーメン屋を開く開業資金を貯めるため、
昼間は商社でサラリーマン勤めをし、
夜は修行のために公園でラーメン屋台を出しています。

二重生活な訳です。

そんなある日、主人公は会社でラーメン事業の担当になることに。
ラーメン事業の開発、ラーメンを通じた人助け、ラーメンライバルとの対決等を経て、
主人公は念願の脱サラ・ラーメン店開店を果たす……という流れになります。

 

才遊記のあらすじ。

主人公は著名な料理研究家の一人娘です。
世間常識はありません。B級グルメであるラーメンの知識もありません。
名前はゆとりちゃん。まんまかいな。
但し、母の薫陶により料理スキルだけは並外れたものがあります。

とあるきっかけでラーメンという食べもののワクワク感を知った彼女は、
前作発見伝の主人公のライバルが経営するラーメンコンサルに入社します。
そこでラーメン関係のコンサルや人助け、ライバルとの対決に励んでいった末に、
最後は料理研究家の跡を継がせたい母と、ラーメンで生きていきたい娘の
母娘対決に繋がる……という流れです。


この両作品、作者さんの「ラーメン業界に対するリスペクト」が
素晴らしいんですよね。
ここまで敬意を尽くしてくれれば、取材先のラーメン屋さんも満足を超え、
誇らしいとすら感じていただけるのではないでしょうか。


ストーリー。

この両作品は一貫して「ラーメンの進化・発展」を掘り下げているのですが、
面白いことにこの漫画自体も「既存の料理漫画の進化・発展系」なんですよね。

昭和風シンプルラーメンが「美味しんぼ」や「ミスター味っ子」だとすれば、
この漫画はダブルスープとこだわりタレを絶妙のバランスで仕上げた、
いかにもな21世紀型ラーメンというところ。
先達の優れたところを取り入れつつ、独自の魅力を加えて正統進化させた感じなのです。

具体的には。

 ・料理を通じて人助け……美味しんぼミスター味っ子
 ・料理対決での盛り上げ……〃
 ・豊富なウンチク……美味しんぼ
 ・親子関係の葛藤……美味しんぼ
 ・主人公を導く強大なライバル……美味しんぼ
 ・問題を拾ってくるダメ上司……美味しんぼ
 ・審査員のオーバーリアクション……ミスター味っ子(アニメ版ほどではない)
 ・パートナーのかわいい女性……美味しんぼ(序盤)、ミスター味っ子(未亡人)
 ・ネタが切れたら三角関係……美味しんぼ

などなど、先人が築いた料理漫画の骨組みをよくよく研究し、
自分のものとしている感があります。
とりわけ、美味しんぼの影響は明らかですね。

 

その上で、この漫画の大変優れた工夫なのですが。
コンサルや対決のテーマに「実際的な店舗経営」を取り入れているのです。


印象的なエピソードをひとつ。
町の中華料理屋が高齢の為、後継者を探しています。
適切な後継者を主人公たちが探してくるという話の流れなのですが。

普通の料理漫画はここから「おいしい料理をつくった人」「心をこめた接客ができる人」を選ぶところ、この漫画では「自分では料理を作らず、店から出て、地域との信頼関係づくりや広告宣伝に力を入れた人」が大勝利するんですよね。
元々の中華料理屋のポテンシャルを踏まえれば、売り込み方を変えれば充分繁盛するんだと。飲食店経営は皿の中、店の中だけを見ていては駄目なんだと。

もちろん、ラーメンの出来栄え、味の良さで対決する話が多いのですけど。
ちょこちょことこういう経営ネタを入れてくる、
ラーメンの味のことだけを考えていたら大失敗、という戒めを刺してくるのです。


漫画のジャンルを「料理漫画」+「経営漫画」のダブルスープにしたようなもので、
下手なストーリーテラーならばとっ散らかってしまうところなのですが。
原作者の久部緑郎先生という方は相当に頭がよいのかセンスが巧みなのか、
漫画としてきれいに、読み易く、読み応えがあるように成立させています。

「主人公すげえ」より「作者すげえ」の方が正直な感想になります。
まったくジャンルは違いますが、「暗殺教室」の読後感に近いかもしれません。
研究と洗練の果てに完成した良作漫画、という印象です。


発見伝と才遊記の違いについては、どちらも面白いのですが
発見伝の方がいい意味で意識高めで、才遊記の方がいい意味でアホですね。

発見伝の主人公、昼間はグータラサラリーマンで一見美味しんぼ風なのですが、
第一話の時点で夜には屋台を出してラーメンの研鑽に励んでいるのです。
これって、凄いことですよね。
相当の覚悟がないと、普通の社会人はそんなことできません。続きません。

物語が進む中、一部界隈で有名な「ラーメンハゲ」こと芹沢さん

ラーメンハゲ - Google 検索

を始めとして、主人公の周りには強力なライバルや支援者が次々と登場します。

皆が皆、それぞれの方法で主人公に気づきを与え、主人公の成長を導くのです。
これは単なるラッキーではなくて、実力ある者ほど主人公の本気・努力を認めているからなんですよ。

 

発見伝は主人公を取り巻く、「格好いいおっさんたち」を愛でる漫画です。
よほど取材がしっかりしているのでしょう。
協力者である石神秀幸さんもよほど手厚い支援をされたのでしょう。
それぞれにモデルがいるのだと思いますが、
まあ出てくるおっさん一人ひとりの実に男前なこと。

ライバル芹沢さんばかりが目立ちがちですが。
昼間の上司、油断させて腹の中はキレッキレの四谷さん。
日頃はニコニコ、仕入れ先の不手際には激おこのギャップ萌え小池さん。
粗野で粗暴ながらも実は商売の本質を掴んでいる賢マッチョ武田さん。
カリスマ×復讐者×ツンデレ×メガネヒゲ×仏頂面という盛り盛りな千葉さん。

これはもうおっさんフェチには堪りません。

経営要素なんかを取り入れて人生は厳しい難しいといった態を取りつつ、
よく見ると「真摯に頑張った者がきちんと報われる」ストーリーになっている。
下手な自己啓発本を読むならこの漫画を3回読んだ方が遥かに良いと思います。


続編の才遊記は逆に、主人公のキャラクターで皆を引っ張っていく漫画です。
ゆとりちゃん(本名)は最高にアホで、最高にかわいくて、最高にすごい奴なのです。
前作最大の強敵芹沢さんですら、彼女にはペースを狂わされてしまうのです。

発見伝でラーメン屋経営がいかに厳しいか、
ラーメンをつくるのがいかに難しいかを散々やった後だからこそ、
ゆとりちゃんの天才性が引き立つのです。

発見伝ほど肩肘を張らず、勢いでピッコーンピッコーン言いながら
読み進めていくのが楽しいと思いますね。
ゆとりちゃんを見ていると元気が出てきます。

とは言え、一人のキャラでいつまでも引っ張っていくのは難しいのでしょう。
発見伝に比べれば短めのストーリーになるのはやむなしです。
真の意味でゆとりちゃんを食うような脇キャラも出てきませんでした。
そしてそれが、正しいスピンオフのあり方だとも思いますね。

 


作画。

河合単さんのイラストは独特の味わいがあります。
私がいいなと思う点を3つ挙げたいと思います。


1つ目。
写実的なラーメンの描写。

やはり取材をしっかりされた上で、写真などを参照しながら
描かれているのだと思いますが。
漫画の主題、ラーメンが実においしそうです。

ただトレースしているのではなくて、
ラーメン現物や取材先への敬意が伝わってくるかのようなのです。

さすがプロ! と唸らされてしまいます。

そして何より、見ているとおなかが減ってきます!


2つ目。
おっさんたち。

先ほどストーリーのところで散々書いたので短くしますが、
とにかくおっさんたちが格好いい。

イケメンなんてほとんど出てこないんですよ。
ゲジ眉主人公、ハゲ※、デブ無精髭、タラコ唇ロンゲ髭……とかばかり。

 ※万が一にも髪の毛をラーメンに落としたくないから剃っているという設定

絶妙にリアルな、その辺にいそうなビジュアルのおっさんばかりです。
でも、読んでいるうちに彼らが輝いて見えてくるんですよねえ。

若いうちにこんな漫画を読んでいたら(青年誌全般がそうですが)
おっさん好きの女子が増えてしまうじゃないですか。
不倫とかが増えて治安が乱れるじゃないですか。

そういう意味では禁書になりかねませんね。


3つ目。
女の子。

河合単さんが描く女性は……おっさんたち同様、体型がリアルなんです。
親近感を覚えざるを得ません。

平たく言えば、全体的に足が太いのです。
その癖、微妙に短いスカートをはいていたり薄着だったりします。
その状態で足を組んでいたりもします。

下着だとか裸だとか性的な描写だとかはまったくないのですが、
ちょいちょい挑発的な表紙であったり、
下ネタ混じりの会話であったり、
巨乳キャラが放り込まれたりしてくるんですよね。

ううむ、けしからんと言ったらよいのか、もっとやれと言うべきか。
サービスやテコ入れで書いているのか、作者の趣味で書いているのか。
判断に困りますが、味わい深い魅力があるのですよ。
なんかこう、いわゆる若い人向けの漫画にはない、
青年誌系の女性特有の艶ってありますよね。

 

 

さて、色々と発見伝・才遊記の魅力を書いてきました。

私はラーメンは京都派というか、
白状すると天下一品と新福菜館があれば幸せという人間なので、
東京の左の方っぽいシュッとしたラーメンの魅力は
実のところたぶんよく分かっていないのですが、
それでもこの漫画は面白いと思います。

繰り返しですが、ラーメンへの強いリスペクトが感じ取れるのがいい。
職業系の漫画はけっこうな数がありますが、
取材で流した汗の量を想像できるような漫画は多くありません。

ちょっと文字が多いので読むのに時間はかかりますが、
読んで後悔することはないのではないかと思います。

コンビニ等で見かけたらぜひ。
そして、私の家の近所に天下一品ができますように。