肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「田中邦衛さんの魅力」大学の若大将/大脱獄/学校より

 

この半年ほど「北の国から」「県警対組織暴力」「トラック野郎・爆走一番星」と、
田中邦衛さんが出てくる映画にかんたんすることが多く……

 

ようやくにして、田中邦衛さんが好きな自分に気づきました。

 

そこで、「田中邦衛をやろう!」とひとり思い立ち、
週末にまとめて鑑賞したのが次の3本です。

 


旧い作品から順に、

 ・大学の若大将(杉江敏男監督)……1961年
 ・大脱獄(石井輝男監督)……1975年
 ・学校(山田洋次監督)……1993年

となります。


初めに3作品の簡単なあらすじ(若干のネタバレ含む)を書いて、
最後に田中邦衛さんの魅力をまとめようと思います。

 

 

大学の若大将

 


加山雄三さんが主演の青春映画となります。
当時最高のイケメン「若大将」に見惚れるシリーズの第一弾です。

そう言えば「こち亀」の中川さんも学生時代「エレキの若大将」と呼ばれていましたね。
秋元治さんはちょいちょい子どもには分からないネタを混ぜてくる印象があります。


この映画、ストーリーは盛りだくさんなので一言では表しにくいのですが、
加山雄三さんがモテまくりつつ最後は本命の星由里子さんと上手くいくという筋で、
合間合間に大学水泳部の青春的な場面やら、家族内の喧嘩と仲直りやら、
友人の恋の応援やらが挟まってくる構成になっています。


田中邦衛さんは、この映画の中ではライバル役です。
人呼んで「若大将」ならぬ「青大将」

ひどい。皆に青大将って呼ばれてますが、これオープンな陰口じゃないのか。

役柄としてはいいところのお坊ちゃんで、いつもイキっていて、
いつも空回っている感じの三枚目キャラになります。

ヒロインを強姦しようとしたところはいただけませんが、
それ以外は総じてムカつくけど憎めない人物で、
特にラストシーンの一連の展開は「見直したぜ!」とかんたんすること請け合いです。

終わってみれば加山雄三さんに並ぶほど田中邦衛さんに対する好感が印象に残って、
田中邦衛さんおいしいな、と思ってしまいました。


他にも見どころは多く、
北あけみさんのビキニ姿がスゲェとか、
水泳部員の50年前デザインの水着がやたら気になるとか、
加山雄三さんの胸毛セクシーだなとか、
加山雄三さんが箱根でつくる料理がやたらうまそうだなとか。

とりわけ食事シーンはすごく気合が入っていて、
水泳部の皆で焼肉を囲むシーンはとても印象に残りました。
(このシーンはオチ付きのギャグシーンでもあります)

全員で鉄板を囲んで、「まだまだまだ……せえの、ホォイッ」みたいに
一斉に箸を伸ばすところが。
全員がそろって丼飯に肉を乗せてワシワシがっついているところが。

男! 若者!! ってなります。
大学の体育会系のむさ苦しい系の親密な男たち……いいですよね。

あまり語り過ぎると変な方向に脱線しそうなので、この映画はこの辺で。

 


大脱獄

 


いかにもな70年代東映系の映画です。
高倉健さんと菅原文太さんのW主演……ストーリー的には高倉健さん主役かな。


この映画、ストーリーは荒唐無稽かつ乱暴としか言いようがありません。
かろうじて菅原文太さんに漢気を感じるくらい。
「主役なのに同情できない高倉健さん」とか、
逆に珍しいのではないかと思います。

展開としては、高倉健さん・菅原文太さんを含む死刑囚たちが
刑務所を脱獄するのですが……。
脱獄早々、侵入した民家で娘さんを強姦するか
どうかで仲間割れし、二人が死亡。

のっけから観客に「この連中はクズですよ」と教えてくれます。


高倉健さんは強盗殺人犯の役どころで、実際には殺人は犯していない、
真犯人は田中邦衛さん、復讐に行くぞ、という設定なのですが。

逃走中に無実の人を何人も撲殺しようとします。
復讐の為なら無辜の民草の命はお構いなし

うーーん、これはさすがに共感できないぞ。


反対に菅原文太さんは撲殺しようとした高倉健さんをニコリと許し、
最後まで健さんをサポートし続けます。
ご都合主義の連続で敵の情報やショットガンを調達してきて、超有能。

途中、健さんと文太さんが喧嘩してなぐり合うシーンはよかったです。


ちなみに、田中邦衛さんは顔面ごとショットガンで吹き飛ばされて死にました。
70年代東映ですから、邦衛さんはいわゆる小狡いチンピラ役です。

大親分ではなくて、要領よく立ち回ろうとするも結局は上手くいかない悪役。
この貫禄のなさ、むかむかしてくる自己中ぶり・保身ぶりが逆に凄い。


脚本よりは「面白い画面づくり」がメインの映画ですから、
頭を使わずに眺めているとけっこうよかったです。

オープニングの各死刑囚を紹介するズバァンとしたテロップとか、
道に迷って頭がおかしくなってケツを晒して凍死する死刑囚どもとか、
使用済みコンドームに小便を入れて暖を取ろうとする死刑囚とか、
民間人に殺意の籠った視線を送りまくる高倉健さんとか、
深い意味もなく脱線する鉄道とか、
70年代東映らしい鮮やかな朱色の血潮(これがまた雪景色に映えるのだ)とか、
印象に残る画面が多い娯楽大作ですよ。

 


学校

 


一転、真面目でじんわりと染みる映画です。

東京の下町の夜間学校を舞台にした人間ドラマで、
前半はそれぞれ事情のある学生たちを掘り下げていく流れ、
後半は田中邦衛さん演じる学生(昼は労働者)の人生を悼む流れとなります。

主役は西田敏行さん演じる夜間学校の先生ですが、
後半は田中邦衛さんがもう一人の主役と言ってもいいでしょう。

田中邦衛さん演じる生徒の人生は凄惨で……
ひらがなの読み書きもできない老人労働者が、ようやく夜間学校に巡り会い、
初めて文字を学び、葉書を書くことができるようになっていくのです。
しかし、その頃には既に彼の身体はぼろぼろで……


田中邦衛さんの生涯を通じて、夜間学校の他の生徒たちが
「幸福とは何か」を語りあい、それぞれの感情を表し、それぞれが死を悼む。

見応えのある、見事な出来栄えの映画だと思います。


山形から東京に出てきた田中邦衛さんは、競馬が唯一の愉しみで。
同じく地方から中央に出てきたオグリキャップを全霊で応援するシーン。

恋心の行き場がなくなった憤りを西田敏行さんにぶつけ、
皆をがっかりさせるような当たり方をして、焼肉屋から放り出されるシーン。

俺とお前たちは「血統が違う」と何度も呟く田中邦衛さんの表情。


この素晴らしい演技を、ぜひ多くの方にご覧いただきたいと思います。

 


田中邦衛さんの魅力

 


いまほど紹介した3作品にしても、その他の著名な作品群にしても。

田中邦衛さんほど「等身大の庶民」を得手とする役者はいないのではないかと思います。


加山雄三さんや高倉健さんのような憧れのスターではない。
西田敏行さんのような貫禄が滲むタイプでもない。


善人の役柄であっても、駄目な部分をたくさん持っていて上手くいかない。
悪人の役柄であっても、卑しいところをたくさん持っていて上手くいかない。

実際に世の中で一番多いタイプ、庶民の実像を鏡に映したようなタイプ。

いいところを卑屈や卑怯が潰してしまう。
悪いところを弱気な笑顔がフォローできてしまう。

「クラスにひとりはこんな人がいる」でもなく、
「いつかはこんな人になりたい、出会ってみたい」でもなく。

「誰しも自分の中にこんな人がいる」
そういう現実を映し出す演技なのです。

これは、田中邦衛さん自身がそういう性質の人物だからとかではなくて、
それだけ苦労している市井の人々をたくさんたくさん見てきたから、
学んでいらしたからではないでしょうか。


当時の映画を観れば観るほど……並み居る主演陣を押しのけ、
私の中で田中邦衛さんが大きくなっていきます。

この演技力……これこそ真にオンリーワンというべきかと思います。


若い方はワンピースの黄猿さんというイメージが強いかもしれませんが、
是非、田中邦衛さんの出ている映画を観ていただきたいですね。

何か心に残るものがありましたら幸いです。
そして、ご自身の中に田中邦衛さんを見出したのなら……
あなたはもう若者ではなくなってきています笑

 

 

いつかまた、田中邦衛さんの元気なお姿を見れますように。