坂口安吾さんの短編「お奈良さま」の味わいにかんたんしました。
坂口安吾さんの小説は軽妙でキレがあって読みやすいですから、
硬い文章が多めの青空文庫の中でもとっつき易い方だと思います。
お奈良さま。
「お」「さま」と敬意を示す接頭・接尾がついていて
一見奈良県民が歓喜しそうなタイトルですが、
どちらかというと奈良県民が憤死しそうな内容です。
以下、ネタバレを晒します。
程度の低い下ネタも含みます。
お奈良さまとは、オナラがとめどなく漏れ出ている
放出系のお坊さんの物語です。
くだらねー、出オチかよと思ってしまいそうな設定で、
私もそう思いながら読んでいたのですが。
意外と「むむ、なるほど」「確かに」と唸らされる
人間描写があったのでついかんたんしてしまったのであります。
常にオナラがブウブウ出ている住職さんですから、
檀家の方々も反応が分かれてまいります。
温かな目で接してくださる方もいれば、
ありえねぇとマジ切れしてくる方もいる訳です。
そりゃ葬式やらの愁嘆場でブウブウかまされたら
日頃取り澄ましている人でも激昂しますよね。
で、この屁こき住職だけだったら話もそう膨らまなかったと
思うのですが、もう一人の屁こきオヤジが登場するあたりから
話がおおきく展開してくるのです。
屁こき住職にも屁こきオヤジにもブチ切れている
屁こきオヤジの女房。
屁こきオヤジは「家の中でも屁をこくな」と奥さんに厳命されてしまいます。
この仕打ちを受けてオヤジが語る語る。
夫婦の関係というものは強いようで脆いものですな。たかがオナラぐらいと思っていると大マチガイで、家内がオナラを憎むのはオナラでなくて実は私だということに気づかなかったのです。
夫婦の真の愛情というものは言葉で表現できないもので、目で見合う、心と心が一瞬に通じあい、とけあう。それと同じように、手でぶちあったり、たがいにオナラをもらして笑いあったりする。オナラなぞは打ちあう手と同じように本当は夫婦の愛情の道具なんです。オナラをもらしあってこそ本当の夫婦だ。
夫婦の愛情というものは、人前でやれないことを夫婦だけで味わう世界で、肉体の関係なぞは生理的な要求にもとづくもので愛情の表現としては本能的なもの、下のものですが、オナラを交してニッコリするなぞというのはこれは愛情の表現としては高級の方です。
オナラを愛し合わない夫婦は本当の夫妻ではないのです。要するに妻は私を愛したことがなかったのですよ
オナラを通じて紡ぎだされる理想の夫婦論。
……うん。確かになあ。
単に肉体関係のある二人より、平気でオナラをしあえる二人の方が
絆は強いような気もします。
初対面SEXは珍しくありませんが、初対面放屁は多量の勇気が必要ですよね。
いや、しかし、デリカシーのなさ過ぎる人はやっぱりちょっとな。
恥じらいを保ち続けるのも夫婦のたしなみだ。
なんだか、立ち飲み屋で変なおっさんの隣になってしまって
酔った勢いの愚痴交じり説教をされたような気分です。
でも、そういう酒の記憶はずいぶん強く残るんだよな。
飾り気がないというか、なさ過ぎるきらいもありますけど、
人間生活の根っこの部分を端的に軽やかに描写していると思います。
物語のオチは伏せますが、あっさりこっくり終わってしまいますので
多大な期待はなさらないでくださいね。
皆様のおなかの調子が爽やかでありますように。