肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「カラスの教科書」松原始さん(講談社文庫)

 

 

カラスの生態や特徴を楽しく学べる本、「カラスの教科書」に
かんたんしました。

 

bookclub.kodansha.co.jp

 

 

読み終える頃には「好きな鳥はカラスです」と言ってしまうほど
カラスへ愛着を感じてしまう。

凄まじいクオリティのカラス布教本であります。

 


作者である松原始さんの文章がいいですね。

知的で、ユーモアがあって、偉そうでもなく卑屈でもなく
マイペースで飄々としたリズムが快い文体。

京大の人っぽいなあと思ったら本当に京大ご出身の方でした。

 

同じくイラストを手掛けた植木ななせさんも素晴らしいと思います。

植木ななせ - Google 検索

カラスをこんなに愛嬌たっぷりに描いた方はいないんじゃないでしょうか。

松原始さんの文章と相性バッチリで、読者をカラス好きにさせる
大きな原動力となっております。

 



本書は4章仕立てですので、各章ごとに概要や感想を書いてみたいと思います。



第一章 カラスの基礎知識


日本で主に出会えるカラス……ハシブトガラスハシボソガラス
見分けるのはプロでも難しいといったことや、
カラスは若い頃は群れで暮らして成熟すると家庭を築くといったことや、
雛から巣立ちまでのなかなか感動的な家族劇や、
マヨネーズが大好きだったり割烹の残飯を食べてたり羨ましいぞといったことが
紹介されております。


印象に残ったのが作者さんの恩師の山岸哲先生のコメントで、

「カラスは行動範囲広すぎて見えねえ、捕獲できねえ、標識できねえ、年齢わからねえ、性別わからねえ、巣が高過ぎて覗けねえの三重苦どころか五重苦、六重苦。だからオレはやめた」


というもの。

これだけ身近な鳥ながら、実はカラス研究はまだまだ進んでいないのだそうで。
なるほど……。


あとは「焼き芋大好き」というところに親近感を覚えました。




第二章 カラスと餌と博物学


学術的なパートで、採餌行動やくちばしの構造や山間部での暮らしぶりや
遊び・知能ぶりや世界各国における文化との関係などを紹介いただいております。


第一章で指摘されていた通り、カラスの行動を捕捉して観察するというのは
本当に難事業なんだなあ……と唸ってしまいます。


推論段階ということわりつきながら、沖縄諸島における島ごとのカラスの
行動・くちばしの違いは採餌環境の違いがもたらしたものではないか……
という進化論風の内容が興味深かったです。

カラスをモデルに何世代で特徴が分化していくのかとか分かったら
意義深そうですね。


あと、松ぼっくりで遊ぶカラスを描写した文章・イラストが
ともにめっちゃかわいくて和みました。




第三章 カラスの取り扱い説明書


ゴミ問題や、攻撃されたりするんですかいいえ基本されませんという
トピックスになります。


穏やかな語り口でカラス駆除の効果性に疑問を呈しておられて、
立派な学者さんだなと敬意を抱きました。

 -罠にかかるカラスは、放っといても死ぬ個体である可能性が高い
 -駆除を続けてきたが、カラスの総数に影響があったように見えない 等

行政は民意に従ってやることも多くて必ずしも科学的合理性があること
ばかりではないのが実情ですけど、こういった波風を最小限に抑えた
提言・諫言はものすごく貴重だと思うのです。

市民サイドもいろいろ学んでまっとうな要望を上げていく必要がありますね。


カラスは人間を怖がっているので基本的に攻撃はしてこない、
かんたんなカラス語を理解すればカラスのテンションは分かる、
とりあえず巣・雛から目を逸らして距離を取れば大丈夫だ、
そもそもカラスと人間のウェイト比は人間と象のウェイト比なんだぜ、
といった内容も分かり易くて納得感が高かったです。

野生生物への対応全般に通じることだと思います。




第四章 カラスのQ&A

Q カラスはなぜ黒いのかなあ?

A 全然分かりません。

 

Q カラスってお賽銭を盗んで自販機で買い物するんですよね?

A それ、ガセネタです。

 

といった楽しいQAがたくさん載っていて面白うございました。

 

 


最後に

 

とても印象に残ったのが結に書いてはった

シギのような長いくちばしも、猛禽のような鋭い爪も、アホウドリのような長い翼も持ってはいないが、それでもカラスはちゃんと餌を食っている訳だ。
包丁で言えば「これ一本でだいたい間に合う」という万能包丁で、刺身や菜切りに特化したつくりではない。

遭えて得意科目を作らない、60点主義でいいから八方美人にしておく、という進化もあり得るということだ。


という文章です。

ゼネラリスト気味人材に勇気と感銘を与えてくれる名文だと思います。
ちょっと家紋に八咫烏を掲げたりしたくなりますね(雑賀衆)。

 


以上、野生生物に興味がある方にはとてもおすすめの本です。

カラスによるゴミ荒らしに悩んでいる方にも参考になると思いますよ。

 

人間とカラスのほどよい共存が続きますように。