小学校を舞台にした人の死なないミステリ「ほうかご探偵隊」が大人も子どももめっちゃ楽しめる良作に仕上がっていて大変かんたんしました。
ある朝いつものように登校すると、僕の机の上には分解されたたて笛が。しかも、一部品だけ持ち去られている。――いま五年三組で連続して起きている消失事件。不可解なことに“なくなっても誰も困らないもの”ばかりが狙われているのだ。四番目の被害者(?)となった僕は、真相を探るべく龍之介くんと二人で調査を始める。小学校を舞台に、謎解きの愉しさに満ちた正統派本格推理。解説=川出正樹
もともと「講談社ミステリーランド」というジュブナイルシリーズとして発刊されていた作品とのことです。
大人……親世代もにこにこ楽しめるクオリティを有しつつ、メインのターゲットは小学校高学年あたりをイメージされている感じでしょうか。
ネタバレしない程度に内容を申し上げますと。
五年三組で起こった「不用物連続消失事件」。
同級生が描いた風景画。
世話が面倒なニワトリ。
ハリボテの招き猫。
たて笛の真ん中部分(中部管)。
なくなっても特に誰も困らないものが次々と消えていく不思議な事件。
同一犯の仕業なのか?
動機は?
ニワトリは密室の中にいたはずだ、どうやって連れ去った?
……などなどの謎を、男子2名・女子2名のチームで調べていく筋になります。
消えた4つの品。
なんかニワトリだけ違和感がありますよね?
その辺りがミソになっています。
物語の中では、いわゆる「殺人事件」は起こりません。
アダルトな描写もありませんので、家族で読んでも大丈夫です。
子どもが初めて触れるミステリとしてとっても好適ではないでしょうか。
殺人がなくても、ミステリの魅力エッセンスはたっぷり詰まっていますよ。
探偵団の結成。
ちょっと気になる女子を含むぞ。
時系列の整理と証言集め、淡い“ドキドキ冒険”感覚。
キャラが立った登場人物の数々。
現場検証……明らかになる「不可能犯罪」な状況。
これは密室トリックだ。
4つの消失物に共通点はあるのか?
隠されたメッセージでも秘められているのか?
舞台は小学校という小さな世界。
しかし、同時期に街ではさる重大犯罪事件も起こっていて……?
紡ぎだされる仮説。
探偵役による滔々とした真相暴露のカタルシス。
そして……二転三転する真相。
ミステリっぽいでしょう?
実際、一つひとつの描写や仕掛けがとても練り込まれていて、ものすごくクオリティ高いですよ。
こんな良質な作品からミステリに入ったら二作目に何を進めたらいいのやら冷静に考えるとという感じですよ。
とりわけ、250ページほどの作品のなかで、解決編のボリュームが1/3くらいを締めているのが楽しいです。
ミステリの楽しさはここだよね! と大人は共感することでしょう。
真相が輻湊していて、謎解きの難易度は相当高いと思います。
初見で真相に辿り着くのは困難ではないでしょうか。
私の場合は……「分かった! こういう事件でこういうトリックだったんじゃね?」と思ったとおりのことを探偵さんが説明し始めてくれて、「よしよし、子ども向け作品には負けないぞ」と喜んでいたのも束の間。
真相が明らかになった……あれ、まだ50ページくらい余ってる……エピローグ長えな。
そう思わさせられてからの……
「これで
おわりの
はずはない」
ゾクゾクッ……
としましたよ。
分かった! と見せかけてからの「本当の真相」。
ああ~~やられた~~と素直にお手上げであります。
だよね。
ちょっと強引だったよね、いいのさミスリードに乗せられるのが楽しいんだよね、とハニカミながら夢中で更なる真相を楽しませていただきました。
控えめに言っても傑作だと思います。
まわりに小学生や中学生がいたら、ぜひ勧めてあげてください。
もちろん自分でも読みましょう。
時代劇などと同様、ミステリもめちゃくちゃ懐が深いですよね。
色んな可能性があるジャンルだなあとあらためてかんぷくいたしました。
これからも素敵な作品が次々に誕生し、それに呼応して若いミステリファンも次々に育っていきますように。
巻末の「文庫版あとがき」がまた、作者さんのミステリ愛がぎゅっと詰まっていて最高ですよ。
ミステリ好きの方はあとがきまで必読です!