高校生美少年が実在の喫茶店を巡る漫画「木崎少年のほろにが喫茶巡礼」が、近頃のグルメ漫画の中では個人的にスマッシュヒットでかんたんしました。
本日コミック2巻が発売となって物語はひとまず完結いたしました。
実在の喫茶店さんに許可を取って登場してもらっているようですので、そりゃ連載をずっと続けるのは難しいことでしょう。
名店がいくらでも存在する訳ではないですしね。
中身に移ります。
木崎くんという高校生1年生男子(美形)が喫茶店を一人で巡って、おいしいドリンクと料理を楽しみながら読書に耽るという「自分の流儀」を試みる物語なんですが。
グルメ面と木崎少年のキャラクター面の両方で上質なエンターテイメントになっているんですよ。
グルメ面。
作者さん自身がコーヒー好きのようで、実在喫茶店への敬意がたっぷりと込められているのが伝わってきますから、読んでいるだけでこちらも嬉しくなってきます。
登場するお店は次のとおり。
カフェーパウリスタ銀座店
-キッシュセットとパウリスタオールド
w/男の作法(池波正太郎)
本格珈琲昭和(池袋)
-昭和ブレンドとハンバーグサンド、バナナジュース追加
w/江戸川乱歩傑作選
古瀬戸珈琲店(千代田区小川町)
-古瀬戸ブレンドとシュークリーム
Mojo Coffee 神楽坂店
-フラットホワイトとアップル&ブルーベリークランブルケーキ、ラテ追加
w/東京奇譚集(村上春樹)
フルーツパーラーフクナガ(新宿区四谷)
-チェリーパフェ
メガネコーヒー(桜上水)
-ハムサンドとカフェラテ
ルノアール 大塚店
-釜飯
堀口珈琲 狛江店
-ブレンドの7番
さぼうる2(神保町)
-ナポリタン
w/未来いそっぷ(星新一)
シークレット店舗(詳細不明)
-ブレンド
自家焙煎珈琲 凡(新宿駅)
-ぶれんど珈琲とショートケーキ
喫茶 gion(阿佐ヶ谷)
-ソーダ水フロートのせ
ベローチェ有明店 ※コミケ的なイベント開催時
-コーヒーフロート
眞踏珈琲店(神保町)
-ルッコラの海に溺れるクロックムッシュとコーヒー
伯爵邸(埼玉県大宮)
-沖縄焼きサンド
喫茶 YOU(東銀座)
-you飯セットでオムライス&コーヒー
喫茶 ちゃっぷ(町田)
-ホットケーキ2枚とピーチソーダフロート
w/星の王子さま(サン=テグジュペリ)
すみだ珈琲(錦糸町)
-すみだブレンドのやや深煎りとモカチーズケーキ
w/男の作法(池波正太郎)
……どの店もすこぶるおいしそうです。
東京のお店中心なのでなかなか行く機会もありませんが、近くに行くことがあれば寄ってみたいですね。
個人的には新宿駅「自家焙煎珈琲 凡」のショートケーキを食べてみたいと思いました。
食べもの飲みものだけでなく、お客さんの雰囲気やインテリア、コーヒーカップ、お店の歴史まで、各店の魅力を丁寧に描写してはります。
お店そのものを深く愛していくスタンス。
そうですよね、喫茶店ってそういう場所ですよね……!
共感が募るグルメ漫画というのはいいものです。
ちなみに私はこの漫画をドトールで読みました。
「きなこ豆乳ラテ ~丹波黒豆きなこ使用~」と「スイートポテト」、どちらも大層おいしかったです。
キャラクター面。
この漫画の秀逸な点は、主人公に木崎少年というキャラクターを据えたことだと思います。
グルメ漫画というとたいていは渋いおっさんか若い兄ちゃん姉ちゃんが主人公でして、とりわけ若い人(男女問わず)が主人公の場合は「アヘアヘェ!」とか「んほぉぉすごいのぉお~!」みたいなオーバーリアクションものが多いんですけど。
こちら木崎少年は「美少年」のヒキを持ちつつ、「思春期」独特の成長途上感・かわいいあどけなさに溢れておりまして。
喫茶店を巡っていく中で、少しずつ少年は大人になっていく……という物語の縦糸が通っているのです。
けっこう画期的ですよ。
バトル漫画とか恋愛漫画とかならともかく、グルメ(料理人ではなく食べる方)漫画で主人公が成長していくって難しいと思うんですよ。
味覚とか大食い力とかじゃなくて、人間的な意味での成長ですからね。
それが、主人公が思春期の少年ということで違和感なくストーリーに溶け込んでいるんです。
具体的に紹介しますと。
木崎少年は友達がいません。
趣味は一人で喫茶店を巡り、「少し気取った」本を読むこと。
喫茶店でも「自分の流儀」にこだわります。
-どの席に座る、フロートは先にアイスを食べる等
クラスに1-2人はいたようなタイプです。
で、こうした木崎少年の「こだわり」を漫画のなかで全肯定していたとしたらちょっとクドいんですが、漫画的にはこれらを木崎少年の「幼さ」「かわいさ」「未熟さ」として表現しているんですね。
それが、各喫茶店の素敵なお客さま方の振る舞い、同級生の川居さん&天尾くんとの交流等を通じて、少しずつ木崎少年に変化が生じてくる。
意識することなしに、自然と「他者を受け容れる」ことができるようになっていく……。
喫茶店は、お店もお客さんもみんなが少しずつ配慮しあって、みんなが少しずつ気持ちを共有しあっているからこそ、気持ちのよい時間空間が生みだされている訳ですからね。
自分の流儀、自分の世界だけに閉じこもってしまっていたら、素敵な喫茶店の本当の意味での一員にはなれないのかもしれません。
そんな少年のささやかな成長物語が漫画のなかで見られるんですよ。
いい年の大人が読むとこういうのが嬉しいんです。
私の推しは「5話のフルーツパーラーフクナガ」と「最終話のすみだ珈琲」のお話。
「パフェを食べるときは…」
「笑っちゃってもいいことにしよう…」
はいいセリフだと思います。
フルーツパーラーフクナガのおじさんや、最終話の隣席の中学生の笑顔も最高によかったです。
グルメパートも木崎少年の成長パートでもいい気持ちになれる漫画です。
webで半分くらいは読めますし、コミックスも2巻で完結しているのでとっつき易いのもいいですね。
続編、あるいは次回作がまた近いうちに発表されますように。
今後も「孤独のグルメ(漫画版)」のように不定期掲載していただけると嬉しいです。