肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「会社法の学び方」久保田安彦さん(日本評論社)

 

ちょっくら会社法でも勉強してみるかと何冊か本を読んでいたのですが、一通り基礎テキストを読んだうえでこの「会社法の学び方」を読むとイイ感じに理解を定着させていただけてかんたんしました。

 

※あくまで素人理解レベルの話です

 

www.nippyo.co.jp

 

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さいきんコーポレートガバナンス・コードの話が盛り上がっていたりしますよね。

 

ああいう世の中の流れをもう少し深く理解したいなと思い、前段となる知識として会社法なんかをインプットしてみようと思ったのです。

 

法律とか判例って読んでいると眠くなるのですが、眠いなりにいろいろためになることも多くて社会人の暇つぶしにはとてもいいんですよ。

法律は業種関係なくどんなビジネスやっていても必要になってきますしね。

 

 

本の内容をオフィシャルHPから引用しますと。

 

それを知らないと会社法がよくわからないのに教科書にはあまり書かれていないことを解説し、会社法の理解を一歩進める学習参考書

目次

《総論》
 第1章 株式とは何か
 第2章 株式会社の区分規制
 第3章 株式の評価方法

《株式》
 第4章 株主名簿の効力
 第5章 株式の準共有

《機関》
 第6章 上場会社の「取締役会の無機能化」問題
 第7章 取締役の利益相反取引
 第8章 取締役の報酬等――確定額の金銭報酬を中心に
 第9章 取締役の報酬等――退職慰労金とストック・オプション
 第10章 取締役の会社に対する責任

《資金調達》
 第11章 公開会社の株式発行
 第12章 非公開会社の株式発行
 第13章 新株予約権制度の趣旨と効用
 第14章 新株予約権の発行手続と株主の救済策
 第15章 株式の仮装払込み

《計算》
 第16章 資本制度と100%減資

M&A
 第17章 少数株主の締め出し

事項索引

 

という感じです。

 

そもそも会社法ってなんやねんという方も多いかもしれませんが、「株式とは何か」とか「公開会社の株式発行」とか言われるとなんか興味が湧いてきませんか。

会社法はその名のとおり会社の設立や資金調達や組織形態や意思決定を規定している法律ですので、知らず知らず多くの方が関わっている法律でもあるんですよ。

 

 

このテキストは会社法をより突っ込んで学ぼうという趣旨の本ですので、初めて会社法を読む人には取っつきづらいと思いますし、法務部や弁護士クラスのガチ勢にとっては実務でめっちゃ役に立つような本でもないかと思います。

会社法の基礎テキストを1-2冊読んでみた」くらいのレベル感の人向けですかね。

大学の授業で言えば、基礎講座の後半でやるような力加減のイメージかと。

 

実際、本の内容は法学雑誌「法学セミナー」に掲載されたものがベースとのことです。

 

その上で、各章とも初めに取り扱うテーマを挙げて、概要と論点を提示して、一つひとつの論点を検証して、現段階での見解をまとめる……という流れがとても良質な文章で記載されておりますので、「よい授業を受けた」という満足感・理解を得ることができる良著なのでありますよ。

 

 

 

個人的に面白かったのは第6章の「上場会社の「取締役会の無機能化」問題」。

 

ここで注意すべきは、会社法上、上記3種類の取締役(平取締役、選定業務執行取締役、代表取締役)の地位は対等であるということである。というのも、仮に取締役間に序列がある(例えば平取締役は代表取締役の下位である)とすると、取締役会で取締役全員が合議して業務執行の決定を行うことは困難になる(平取締役が代表取締役の発言に意義を唱えることは難しい)。また、取締役が他の取締役の職務執行を監督することも困難になる(平取締役が代表取締役の監督をするのも難しい)と考えられるからである。しかし実務上、後述する理由から取締役間に序列が形成された結果、会社によっては、取締役会が業務執行の決定や取締役の職務執行の監督を十分に果たしえない状況が生じた。これが「取締役会の無機能化」問題と呼ばれるものである。

 

会社法と一般企業の間のズレを端的に説明してくださっていて分かりやすいですよね。

多くのビジネスパーソンにとって取締役とは「出世レースのゴール付近」「平取→常務→専務→社長という序列」のイメージだと思いますが、会社法的には序列なんかなくて対等なんですよ。

 

それなのに、現実の企業の中には序列があることが多いものですから、会社法の精神に則った取締役会の機能発揮がなかなかできない……社長や会長のワンマンもやり放題やんけ……

なんてことだクソッ、ならば「社外取締役」や「女性取締役」をガンガン増やさせて多様な能力を活かした意思決定をできるようにさせねば……(昨今のコーポレートガバナンス・コード的な議論へ)

 

というのが世の流れなのであります。

 

ちなみにこの本ではこうした要因や現実を冷静に分析いただいた上で、社外取締役を重視する欧米諸国(特に米国)の一般的な考え方の妥当性についても、さまざまな議論がある」「わが国における上場会社の取締役会改革は未だ再検証の途上にあるというのが公正な評価であろう」と、中立のスタンスで結んでくださっているのが好感度高いですよ。

 

 

 

同じように、第8章の「取締役の報酬等――確定額の金銭報酬を中心に」も、法律と現実の間のバランス感を高いレベルで描写してはって必読性が高いです。

 

取締役の報酬って会社法的には株主総会で決めなきゃいけないんですが、現実問題として報酬の決め方ってものすごく難易度の高い判断事項で、株主総会で決められる訳ないんだけどじゃあどうしたらいいんだろうという内容。

 

こうしたポイントも、今まで以上に企業と株主のコミュニケーションで互いに理解を深めていかなければならないのでしょうね。

 

 

 

この他、資金調達関係の第11章~第15章は前章の知識が次章の学習の下支えとなっていくという流れが美しくて読んでいて楽しいですし、第17章の「少数株主の締め出し」箇所は興味深いのでもっと知りたい続編書いてくれませんかね感があってエキサイティングですし。

 

全体を通じてとても面白い授業でございました。

 

 

 

法律やガバナンス関係は専門家に任せときっぱなしにするにはもったいない、楽しいテーマだと思い始めています。

 

こういう議論が一般人レベルでもっと活発になっていけば、結果として世の中の企業ももっと元気になっていくのではないでしょうか。

 

 

いろいろありますが日本経済の地力が堅実に合理的に高まっていきますように。