先日紹介した「陰謀の日本中世史」、よく考えたらこれって「かんたん陰謀論づくり」のテキストでもあるなあと気づいてかんたんしました。
↓前記事
「陰謀の日本中世史」呉座勇一さん(角川新書) - 肝胆ブログ
前回は詳しく紹介しなかったのですが、いわゆる陰謀論には
・結果から逆算したストーリー
(最終的な勝者の筋書き通り)
・単純明快
・加害者と被害者が逆転
などの特徴があるそうです。
本ではこういう陰謀論を批判している訳ですが、逆に言うと、適当に選んだ歴史事件をこういう視点で解釈すれば誰でも陰謀論をつくれてしまいそうですね。
例えば戦国時代。
陰謀論といえば「本能寺芸人多過ぎやろ」というくらい本能寺の変が質・量ともに陰謀人気を集めているのですけれども、やっぱりこのブログだと少し前の時代の畿内史周辺に注目したいところであります。
・木沢長政氏
・遊佐長教氏
・松永久秀氏
辺りが有名ですが、さいきんは三名とも「そうでもないんじゃないか」「むしろ特定の誰かにとっては忠臣なんじゃね」と言われ始めておりまして。
(まだ定説とまでは言い難いでしょうけど)
で、仮に彼らが陰謀家ではなかったとしてですね。
木沢・遊佐両名による畠山氏の支配力低下については他にもいろいろ要因を挙げられる気がするんですけど、従来松永久秀さんのせいにされていた三好家連続殺人事件の方は「じゃあ皆さん自然死ですね」とは素直に思えない死亡率の高さな訳で、おそらく他の原因をみんな探したくなると思うんですよ。
もし三好家の人気が高まれば、この辺に陰謀論者がつけ入ってくるに違いありません。
【以下、陰謀論注意】
三好家連続殺人事件の中でも、最も陰謀ネタにされそうなのは安宅冬康さん殺人事件でありましょう。
通説では三好長慶さんが「松永久秀さんの讒言(弟さん謀反しようとしてまっせ)」、「松永久秀さんの偏愛(ワイだけを見とくんなはれ)」「三好義継さんへの権力集中」「足利義冬さん封じ」「純粋に長慶さんがトチ狂った」あたりの理由で冬康さんを成敗したことになっております。
で、冬康さん殺害後、長慶さんも後を追うように1か月後にお亡くなりになります。
冬康さんが無実であったことを知り、嘆きながらの悲しい臨終……的なアレで。
実はですね皆さん。
私が入念かつ科学的な検証を行った結果を申し上げますと。
この安宅冬康さん殺人事件には、驚くべき叙述トリックが含まれていたのですよ。
だっておかしくないですか。
三好長慶さんの遺体は塩漬けにされて2年ばかし山に埋められていたんですよ。
「死んだことを秘密にしよう」てなことで、実際に割と秘密は守られていたんですよ。
(そのせいで政務意欲をなくしたとか久秀さんの専横を許したとかの風評が)
葬儀関係の記録から「命日は7/4ざんす」ということになっていますが、「本当に7/4に死んだ」ことを誰が証明できるというのです……?
2年の時を経て、長慶さんの命日は何者かが意図的に調整できる余地があった。
いや、それどころか、2年間死を隠した理由も、「長慶さんが死んじゃうと世間が動揺するから」だけではなくて、「長慶さんの本当の死因がバレたら困るから、遺骸が痛むまで寝かせておこう」という面もあったのでは……?
……真相を申し上げましょう。
三好長慶さんと安宅冬康さんの死んだ順番、実は逆!
本当は安宅冬康さんが三好長慶さんを殺したのです!!
(加害者と被害者が逆転)
長慶さんが愛息義興さんを失ったショックで息も絶え絶えな中。
幼少の義継さんに三好家を託すくらいなら、冬康さんが“三好”に復姓して自分が舵取りした方がいいんじゃねと思うのは当然のことであります。
更に。
仁将と呼ばれた冬康さんを兄殺しの道にそそのかした真犯人もいるのですよ。
その名は「足利義冬さん」&「篠原長房さん」。
(最終的な勝者の筋書き通り。なお義冬&義栄の寿命)
動機?
あるある!
だって三好兄弟は結局足利義冬さんを無視してたじゃん!
四国衆の兵力を散々使いまわしたくせに、四国衆にほとんど利権くれなかったじゃん!
そんな彼らは義継さん&三好三人衆に冬康さんが実行犯であることをリーク、首尾よく冬康さんをも排除してしまいました。
もちろん、家督争いというダーティなイメージがつくのを防ぐため、死んだ順番を冬康→長慶とすることを首脳陣で握りつつ。
こうなれば義冬&長房コンビに怖いものなどありません。
義継さんは若造、
三人衆は目先の畿内統治で手一杯、
久秀さんは長慶さんの死から立ち直れず。
四国衆の力を掌握した彼らが、畿内三好家の力も取り込んで無敵になっていきますよ。
さあ次は義継さんをそそのかして永禄の変だイエーイ……
(足利家一統的な意味で単純明快)
なに?
久秀さんが足利義昭さんを逃がしただと?
【以上、陰謀論注意】
みたいなことを言い出す人が出てくるんじゃないですかね。
一応繰り返しますが、上で書いたことは何の根拠もない、口から出まかせですからね。
「なるほど」と思ったら駄目ですよ、下手に畿内史に詳しい人ほど騙される系ですよ。
この三好家周辺、他にも容疑者なんて作ろうと思えばなんぼでも作れます。
足利家はもともと疑われがちです。
六角家は甲賀ニンジャを抱えています。
三好家は伊賀ニンジャにも手を出そうとしていた時分です。
もともと昔の人も松永久秀さん容疑者説で三好家の崩壊を理解しようとしていた訳ですから、陰謀論的には扱いやすい領域なんですよね。
安宅冬康さんは安宅冬康さんで、墓がどこにあるのかよく分からないなど妄想の余地が多いお人ですし。
手法を試してみましたが、陰謀論ってほんまに手軽につくれるもんなんだなあ。
これは危ない。
あとは、自分に都合のよい史料だけをセレクトして情報武装を分厚くして。
学識者に批判されたら
「私が間違っているという証拠を出せ」
「私が批判されるのは学会が自分たちの権威を守りたいから」
とか吠えといたらいいんですよね。
大半の人からしたらどっちが正しいのか分からないだろうし。
うーん、ひどいなあ。
たくさん陰謀論が出るのは人気がある証拠だとは思いますけど。
妙ちきりんな変テコ説が無駄に広がったりしませんように。