わりと最近堺市にできた施設「さかい利晶の社」で千利休さんを題材にした朗読劇を鑑賞したところ、たいへん情念深い作品で心揺らされかんたんしました。
大阪ガスさんは、社会貢献活動として関西の歴史を題材にしたドラマシリーズを展開しており、これはその第9弾の作品なのだそうです。
さすが大ガスさん。
こういう地域の旦那っぽい活動、リスペクトせざるを得ません。
この「雪間の草」。
タイトルから分かる通り、千利休さんのお気に入りの歌、
“花をのみ待つらん人に山里のゆきまの草の春を見せばや”(藤原家隆さん)
をモチーフにしてはります。
登場人物は3名。
・たえ(宝心妙樹):八田麻住さん
・千紹安(千道安):田米カツヒロさん
たえさんは「いね」と呼ばれる千利休先妻ですが、ドラマの都合上、名を変えて、ややオリジナル気味の人物造形になっています。
宝心妙樹の「妙」から名を取ったんでしょうかね。
ドラマは永禄年間、三好長慶さんの権勢がピークを迎えたり不幸が始まったりする頃のお話です。
千利休さんが、同い年なのに既に天下を取ってはる三好長慶さんに対してコンプレックスを抱いているような感じだったりするのが趣深いですよ。
大阪ガスの方が前説で仰ってましたが、千利休さんの壮年期を描いた作品は珍しいと。
まったく仰る通りで、記録の関係上仕方ないとはいえ、晩年期しかドラマで描かれない千利休さんもちょっと気の毒だと思います(笑)。
で、詳しい内容はネタバレしませんが……
この朗読劇がたいそうよかったのです!
利晶の社にある茶室を舞台に、三人の役者さんの、熱と気持ちがこもった演技がね。
朝雛拓さんの包容力、受け止め力の高い落ち着いた演技。
田米カツヒロさんの快活な、物語進行を滑らかにする小気味よい演技。
何より、八田麻住さんの情念のこもった演技がね、すごかった、観客全体、茶室全体を呑んでましたからね。
舞台もので「観客が一体となって」とはよく言いますが、「観客全体が呑まれて」ってそうそうないですからね。
情念の刃、雑に言えば昭和歌謡的とも申しますか。
千宗易さんに対するお言葉の数々。分かる。妻ならきっとそうであろう。
三好長慶さんを評するお言葉。分かる。彼に期待を寄せた同時代人ならそうであろう。
彼女の情念がなんともやるせない、無常の余韻を生み出してくださっておりました。
わずか1時間の朗読劇で、こんなに揺さぶられたら。
ええわあ……! と喜ばずにはおられません。
千宗易&千紹安父子の茶の湯着想なんかも要所要所で光り、茶道的な視点からも楽しいナイスな作品になっておりますよ。
イストワール過去作品はMBSの「ポッドキャスト1179」で公開されていますので、この作品もそのうち載るかもしれません。
興味がおありの方は是非聴いてみてください。
ていうか三好家を題材にしたという「蘆州の人」も公開されているんですね。
また時間ができたときにゆっくり聴いてみよう。
さかい利晶の社もあわせて見物してみました。
「堺にドライブスルーあるスタバができたなあ」とは聞いていたのですが、それが利晶の社のことだったのですね。
その名の通り、千利休さんと与謝野晶子さん、堺が誇る二大偉人を紹介する施設です。
思いのほか小規模な施設で、お二人に関する展示もひょいひょいと見れるボリュームなのがかえって好感度高かったです。
間口が広い方がいいですよね。
千利休さん関係では、棗&黒楽茶碗(ともにさいきん制作された品)がよかったのと、三好長慶&三好実休兄弟が堺の名刹(南宗寺&妙国寺)に縁がある人で最近は天下人とも言われてるんですよと推されていたのがよございました。
そして、与謝野晶子さんコーナー。
これが一見の価値ありまくりでした。
与謝野晶子さんの生音声、孫をあやす動画などが視聴できたり。
明星やみだれ髪をはじめ、当時の素晴らしい装幀の数々を堪能できたり。
この時代の本を彩った装幀、素晴らしいですね。
一種のロストテクノロジーなのではないかとすら思ってしまいました。
利晶の社、南海堺駅からも阪堺線宿院駅からも近いのでおすすめですよ。
なんというか、本当に信長さん以前の畿内史コンテンツが増えてきましたね。
千利休さんも大河ドラマ化の推進運動があるそうで、夢のある話だと思います。
歴史の探求がいまを生きる人に活力をもたらしますように。