明治時代に尾崎紅葉さんが執筆した怪作「鬼桃太郎」が青空文庫に収録されていてかんたんしました。
一度読んでみたかったんですよね。
↓青空文庫リンク
子ども向け……という建前になっていますので、10分足らずで読めるボリュームです。
「桃太郎」のその後を描く物語でして、鬼サイドが桃太郎さんへ復讐を企てるというあらすじになります。
桃太郎、
猿雉子 犬を引率 [#ルビの「いんぞつ」はママ]して
この鬼ヶ島に攻来 り、
累世 の珍宝 を分捕 なし、
勝矜 らせて
還 せし事、この島末代までの
恥辱なり
という鬼の皆さまの憤懣がもう面白いですね。
以下、一部ネタバレを含みます。
鬼ヶ島では「誰か桃太郎カタに嵌めたれや」と鬼王様がお触れを出すのですが、鬼さんたちは皆桃太郎さんのことが怖すぎて誰も手を上げません。
桃太郎さんよっぽど暴れはったんでしょうね。
文中の描写によれば、桃太郎さん、鬼ヶ島討入りの際には鉄の扉を砕いて侵入し、ついでに門番の鬼の角を根元からへし折っていったそうですよ。
鉄の扉を砕くって……もはやサムライというより超人ハルクですね。
角を折られた傷の痛みとトラウマで、桃太郎さんへの復讐に行けそうもない元門番の鬼さんがいとあわれであります。
で、その元門番の嫁さんが鬼ヶ島の川で拾ってきた苦桃の中から生まれたのが主人公の「苦桃太郎」さん。
まんま鬼版の桃太郎さんなのであります。
この苦桃太郎さんがすこぶる豪傑なので鬼ヶ島の皆さまも喜び、桃太郎退治に「行ってらっしゃい」と話が進みます。
桃太郎さんの犬猿雉よろしく、苦桃太郎さんもお供を雇うことにしました。
苦桃太郎さんが雇ったお供は……
龍王「ポイズンドラゴン」
牛並みに巨大な「狼」
という。
ほんまに子どもが考えたような、たいへん過剰な戦力を集めはりましたよ。
これでは桃太郎さんサイドの犬猿雉ではかないそうにありません。
さあ、待っとれ桃太郎、龍の背中に乗って日本までひとっ飛びじゃい……
というところで物語は急展開を迎え、非常にナンセンスな結末を迎えます。
ジャンプで10週打ち切りにあったような突き抜け方です。
風呂敷を広げ過ぎて畳めなくなったようにも思えます。
非常に倦怠感と脱力感を味わえるエンディングなので、その徒労も含めて面白い怪作になっていますね。
明治の子どもがこれを読んでどんなリアクションをしたのかが気になるところです。
「"ぼかん!” じゃねえよ!」と子どもたちで回し読みしてツッコミして笑い合っていたのなら微笑ましいな。
一見一読の価値はあると思います。
誰か奇特な方がこの作品を漫画とかアニメとかでリバイバルしてくださいますように。