肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「戦国武将のアピールポイントとは 理想像から共感の対象へ?」知恵泉(NHK Eテレ)の松永久秀特集より

 

NHK Eテレの「先人たちの底力 知恵泉」という番組で「ヒールの言い分!時代劇定番の大悪人 松永久秀」という特集がされていて、三好長慶松永久秀の主従愛アピールが半端なくてかんたんしました。

 

 

↓'19/2/5に再放送があるそうです。

www4.nhk.or.jp

 

 

テレビなのでちょいちょい分かりやすさを最優先した演出や表現になっていたものの、出演者のトークコーナーも含め、総じて面白い内容でしたね。

 

「愛する主君」「愛する長慶」「長慶の面影を求めて信長に接近」等々、エモーショナル過多な表現に笑いました。

泉下で三好実休さんや三好長逸さんが「誰がNo.2やねん」「三好三人衆かて長慶様を愛してたわ」「なんでいつもいつも久秀だけ」等とお怒りになっているような気がしないでもありません。
(これはこれで三好一門と松永久秀さんの軋轢ぽくて面白いのですが)

 

 

信長の野望・大志といい、さいきんの三好家の取り上げられ方はなぜか「愛」アピールが強い傾向になってきました。

f:id:trillion-3934p:20190130234413p:plain

f:id:trillion-3934p:20190130234432p:plain


愛する人は他にもいたんだけどいまは久秀だけだよと言い残して逝く長慶さん)

(やはり長逸さんの立場はない)

 

 

 

※ここからは完全に私見です。

 

 

番組でも取り上げられていましたが、歴史上の人物の注目度や取り上げられ方は、現代サイドの世相を反映しているところがございます。

 

とりわけ戦国時代は人気が高いところでして。

 

織田信長さんであれば、古くは「勤皇」、昭和後半くらいから「革新」、最近は「保守と革新の融合」みたいな感じで、なんだかんだ理想的なリーダーの特徴を常に見出されている気がします。

豊臣秀吉さんであれば「出世王」、徳川家康さんであれば「偉大なる創業者」。

武田信玄さんならば「統率者・内政巧者」、上杉謙信さんなら「カリスマ」、毛利元就さんなら「謀多きは勝ち」。

あるいは、山中鹿之助さんや真田幸村さんの「敗れた者たちの意地」、高橋紹運さんや鳥居元忠さんの「次に繋がった殉」、花の慶次さんの「華も実もある自由」等々。

 

共通するのは、タイプはそれぞれなれど、いかにも社会人の理想像を仮託されている感がありますよね。

現代のビジネスパーソンや行政パーソンも、一口に有能と言っても色んな有能の形がございますから、戦国時代の多くの武将の中から、自分の理想像に近い人を探すのも楽しい歴史との接し方でありましょう。

 

 

一方で、平成後半頃から歴史の楽しみ方にも幅が出てきておりまして。

 

特定の個人というよりは、鎌倉武士のアナーキーさや末法の極み感、室町時代の混沌と胎動といった、時代時代の空気感自体を楽しむ人が増えてきましたし。

 

個人に対しても、「理想像としての戦国武将」に加え、「共感できる対象としての戦国武将」のようなアプローチが盛んになってきましたよね。

最上義光さんの鮭ネタや小田氏治さんの不屈ネタや毛利元就さんの手紙長いネタや織田信長さんのだんだん字が小さくなる手紙ネタ等に代表される「かわいい」「愛しい」概念の勃興であったり。

具体的な作品名やカップリングは挙げませんが特定主従・戦友の組み合わせに着目した「尊い……」「好き……」概念の旋風であったり。

 

それ以外にも共感を飛び越えてもはや何の対象なのか歪んだ性欲なのか何でもいいのかでも確かに格好いいな/かわいいなみたいな擬人化コンテンツの急成長等もありますがそれはそれとして。

 

なんしか歴史に親しむ裾野が広がるのはいいことだと思うのです。

(番組に出ていた伝統的コンテンツ「講談」も好きです)

 

 

 

そんな中、局地的に注目を集め始めている三好主従愛ネタ。

史実的なことはさておき、これも現代の何がしかの空気にフィットしているということなのでしょうか。

 

これって、天野忠幸氏やコーエー社が初めから何もかも意図的に仕組んでいた訳ではないと思うんですよね。

 

研究者の方々が、真面目な研究の結果として、従来のイメージと違う面を取り上げた。

信長の野望等のコンテンツが、そういった内容を試しに反映してみた。

そうしたら、思った以上にユーザーからの反響があった。

反響があったから、研究者も、クリエイターも、更に掘り下げてみた。

また反響があった……また掘り下げた……

やがて人々はこう名付けた……「愛」……これにはフロイスさんも感涙……

 

みたいな感じで、ある種自然発生的に強化されてきた流れだと思うんですけど。

自然発生的だからこそ何がしかの共感を集めているということなのかなあと。

 

 

……低成長、むしろマイナス成長な時代だから?

登場人物全員不幸みたいな三好家に共感できて?

登場人物全員不幸な中でこの愛だけは永遠的な?

 

????

 

 

まあ、松永久秀極悪説の反動で注目されている面も多分にありますし、そんな中で忠臣とか愛とかの言葉を付加すれば余計に面白いというのも大きいのでしょうけど。

 

 

「不幸だけど美しい」みたいな概念が支持される時代になっていってるのかなあ。

だったら再び平家物語とか江戸時代の心中ものとかが復権したり……?

これから我々はどんな時代を生きて、どんなコンテンツが喜ばれる時代になっていくのでしょうね。

 

 

 

とりあえず、世の中で三好主従愛ネタが受け入れられていくのなら、研究者の方々におかれましては久秀さんだけに傾斜せず、一次史料から長慶さんの本命を特定してくださいますように。

歴史的事件の真相とかよりも、この人がいちばん好きだったのはこの人に違いないみたいな論争の方が盛んな世の中になったらアバンギャルドでいいですねえ。