前から興味のあった畠山重忠さんの真っ当な書籍が発売されていてかんたんしました。
畠山重忠さんといえば平家物語や吾妻鏡などで褒めたたえられている武士として有名ですね。
戦強い、腕力強い、優しい、誠実、清廉、などなど、おおよそ武士の理想像のような扱いをされることも多い人物であります。
私もなんとなく彼のことが好きで、埼玉県に行く機会があったときは史跡に寄ったりするようにしています。
埼玉県比企郡嵐山町「菅谷館(続日本百名城)と嵐山史跡の博物館」 - 肝胆ブログ
埼玉県「大里郡寄居町の鉢形城(長尾景春&北条氏邦)」と「深谷市の畠山重忠公史跡公園」 - 肝胆ブログ
そんな畠山重忠さんについて、物語や伝説ベースではなく、きちんと史料ベースで直近の研究状況をまとめてくださった本が発売されていた訳ですよ。
これは嬉しい。
本の構成は
畠山重忠のスタンス
―プロローグ
秩父平氏の展開と中世の開幕
―秩父平氏の形成
―秩父重綱の時代
畠山重能・重忠父子のサバイバル
―畠山氏の成立と大蔵合戦
―畠山重忠の登場
豪族的武士としての畠山重忠
―在地領主としての畠山氏
重忠の滅亡と畠山氏の再生
―鎌倉幕府の政争と重忠
―重忠の継承者たち
畠山重忠・畠山氏の面貌
―エピローグ
あとがき
となっていまして、畠山氏のルーツである秩父平氏の解説から、平姓畠山氏が武蔵国でどのように勢力を広げていったのか、どのような情勢の中で畠山重忠さんが登場し、畠山氏の勢力や家格を踏まえ源頼朝さんや鎌倉幕府はどのように畠山重忠さんを扱い、そしてどのような経緯で畠山重忠さんが滅んでいったか、源姓畠山氏に繋がっていったかを順に説明いただけます。
個人の性格や能力を史料ベースで断定するのは無理がありますので、「畠山氏」という武士団の特徴や規模や活動や状況にフォーカスが当たっているのがいいですね。
丁寧に畠山重忠さんの背景を描写してくださっていることで、結果として畠山重忠さんの人柄や人生を想像しやすくなります。
畠山氏の勢力や成長を説明いただく過程で、
「東山道武蔵路」という東京(東海道)と埼玉・群馬(東山道)を縦に結ぶ街道や、
その街道沿いで勃興していく秩父平氏(畠山氏や小山田氏や江戸氏など)や武蔵七党(児玉党や横山党や猪俣党など)……
等々、私にとって土地勘のない地域の歴史の流れが通観できるようになっているのがありがたく、また、印象的でした。
この平安時代末期~戦国時代中盤くらいまでの、バラエティ豊かな中小勢力がイキイキと活躍したり離合集散したりしている関東中世、面白いですね。
こうした土台の上に、また、いわゆる大蔵合戦やの源義朝さんやの平清盛さんやの源頼朝さんやのの情勢の下に登場する畠山重忠さん。
関東でも屈指の武士団の惣領であり、京暮らし経験があるため文化的にも優れており、そうしたポテンシャルを充分に活かして戦で活躍し、イケメン的な活躍(音曲披露や行列先陣の誉を何度もいただく……イケてる鎌倉幕府御家人の象徴のような扱いだったのだろうか)もし、いわゆる物語で描かれるような人物像が形成されていったのであろうことが察せられます。
一方で、平家方だった父と決別して源頼朝さん方に転じたり、あるいは源頼朝さんに厚遇されながらも「側近」扱いにはならないという緊張感の孕んだ幕府との関係性であったりと、当時の情勢におけるリアルな一面も紹介されており。
勉強にもなるし、ますます畠山重忠さんの魅力を深掘りできるし、私にとっては本当に良著でありがたいです。
地勢を踏まえた研究や考察が多いので、関東に土地勘のある方が読めば更に面白いのではないでしょうか。
畠山重忠さんは北条家とのあれやこれやで滅び、その後畠山氏は足利氏の一門になって源姓畠山氏として再興されていきます。
戦国時代ファンにはこちらの源姓畠山氏の方が馴染みあるのですが、戦国時代当時も「畠山」ブランドには常に畠山重忠さんへのリスペクトが混じっていたんでしょうね。
平姓源姓を問わず、畠山氏の人気がじわじわ高まって参りますように。
そういえばこないだ二本松城に行ったのですが、伊達氏や幕末の有名事項だけでなく、ちゃんと奥州畠山氏の居城であることが紹介されていてかんたんしました。
天守台からの眺めが非常によかったです。風も爽やかでした。