肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「歴史秘話ヒストリア 三好長慶回の感想」(NHK、2019/6/19放送)

 

NHKのヒストリアで三好長慶回が放映されていてかんたんしました。

歴史コンテンツ界においてヒストリアはトップクラスにメジャーな媒体ですから、今後の長慶さんの知名度アップに弾みがつくかもしれませんね。

 

www.nhk.or.jp

 

 

放送はざっくり次のような内容でした。

 

  • 三好長慶って知られてないけどスゴイ人なんだよ。
    織田信長のだいぶ前に鉄砲ばんばん使ったりキリスト教認めたりしたよ。
  • 11歳の時にお父さんが主君に疎んじられて成敗されちゃったよ。
  • でも、生きていくために親の仇の主君に仕え続けることにしたよ。
  • 西宮を拠点に、実力主義の人材登用、法華宗と連携した交易、弟たちとの協力体制構築等で実力をつけていったよ。
  • 横暴な主君に対する地域国人衆の不満が溜まっていたので、国人衆の利益を保護する新たな存在として主君に叛旗を翻したよ。
  • 元主君に味方する足利将軍とも戦ったよ。
  • 足利将軍からは暗殺者を送られたりしたけど一旦は許したよ。
    長慶は応仁の乱以来の足利氏などの分裂を止めようとしていたんだよ。
  • でも足利将軍からの嫌がらせが終わらないので、仕方なく京から追い出したよ。
  • 戦国時代、足利将軍を擁せずに京を統治したのは長慶が初めてだよ。
    当時は、「天下」という言葉は五畿内を指していたので、畿内の支配者となった長慶のことを「最初の天下人」と評することもできるんだよ。
  • 長慶の統治は公平で、水争いの裁判等を通じて民からも支持されていたよ。
  • 長慶の実力は正親町天皇からも認められ、永禄改元を足利将軍の代わりに武家の代表として執り行ったり、桐紋を拝受したりしたよ。
    元は阿波の守護代に過ぎない三好家がこんな待遇を得るのは異例のことだよ。
  • でも、弟と息子が急に亡くなってしまい、長慶はショックを受けるよ。
  • 長慶は九条家の血を引く甥を養子にし、求心力が分裂しないように生き残っていた弟を上意討ちにしたよ。
  • そして、ほどなく長慶も病死したよ。享年42歳。
  • 長慶死後、結局三好家は分裂してしまい、養子は織田信長に滅ぼされたよ。
    織田信長足利義昭と上洛したとき、まっさきに長慶がいた芥川山城に入って、三好の後継者アピールをしたんだよ。
  • ちなみに長慶は江戸時代初期まではすごく評価されていたけど、江戸時代後半、日本外史という頼山陽の小説がブームになった頃から評価が下がっていき、一方で織田信長の評価はどんどん上がっていって今に至っているんだよ。
  • 長慶ゆかりの高槻市は去年の台風被害からの復興に頑張っているよ。
  • 長慶ゆかりの大東市では長慶の住民票をもらえるよ。

 

 

……以上、あらためて振り返るとかんなり濃密です。

 

 

役者方の好演やイラスト・有識者解説、構成の工夫等により、これだけの、しかも一般に知られていない内容の数々が、分かりやすく伝わる放送だったと思います。

50分で詰め込められるだけのものを詰め込んで、かつ、一般視聴者にも詳しい人にも満足いただけるような番組づくりを目指している姿勢が伝わって参りますね。

 

さすがプロの製作陣。

 

別に三好長慶さんに限りませんが、「50分で、一見さんの興味を引くキャッチ―さと、有識者の批評に耐えうる確からしさを両立させよ。当然予算も納期も縛りあり」というお題で歴史コンテンツを毎週作り続けるというのは……

大変なご苦労なんだろうなあ。

 

 

個人的には、三好長慶役の役者さん(矢口恭平さん)がイケメンだったのと、

細川晴元役の役者さんがいい感じに小憎らしかったのと、

足利義輝役の役者さんが幼さを強調していたのと、

安宅冬康役の役者さんの死にっぷりのよさと、

要所要所のイラスト解説の出来ばえの素晴らしさが印象的でした。

 

三好長慶大河ドラマ化などは、娯楽感に乏しそうという理由で悲観的だったのですが、こうして映像化していただくと思いの外しっかり面白くて、あれ、意外と史実ベースの三好家も娯楽コンテンツとして成立するんじゃね? 大河ドラマとかの題材にも成り得るんじゃね? と新鮮な驚きを味わった思いであります。

 

 

 

 

素朴に、知名度って大事だと思うんですよね。

 

とりわけ三好長慶さん界隈は、歴史題材の中でも知らない人は全く知らない、知っている人も従来イメージ派と最新研究派の隔たりが大きくて話が噛み合わない、という定説感の薄さが際立っておりますし。

 

 

そんな中、こうしてメジャーメディアで取り上げていただいたことで。

 

 ・まったく三好長慶を知らない人

   ⇒名前だけは認知

   ⇒潜在的三好長慶ファン層/マーケットの裾野が広がる

 

 ・三好長慶に関心はあったけど詳しくは知らなかった歴史ファン

   ⇒三好長慶新説の理解が広がる

   ⇒前後の政権との連続性や畿内以外の地域史との関連付けが進む

   ⇒中世史研究が盛り上がる

 

 ・三好長慶天下人説に違和感を覚える人

   ⇒天下人の定義や細川・織田との比較等に関心が集まる

   ⇒中世史研究が盛り上がる

 

 ・「ギリワン」「暗殺」「爆死」松永久秀ネタに馴染みがあって、
  松永久秀登場に盛り上がるも、終盤の三好一族連続死にまったく
  関連付けられず拍子抜けした人

   ⇒最近の松永久秀研究に関心が集まる

   ⇒長慶・久秀主従の関係性や
    忠臣・梟雄ハイブリッドver.松永久秀の人気が高まる

   ⇒信長の野望201Xのユーザーが増える

   ⇒新たな三好主従コンテンツも増える

 

 ・放送内容に物申したき儀がある足利家ファン・六角家ファン等

   ⇒SNS等で畿内史系の発信が増える

   ⇒畿内史への関心が集まる

   ⇒中世史研究が盛り上がる

 

 ・放送内容に物足りなさを感じる三好ファン・畿内史ファン等

   ⇒SNS等で畿内史系の発信が増える

   ⇒三好周辺ニーズの高まりが認知される

   ⇒続編放送決定

 

 ・天野説に反論や批判がある研究者

   ⇒天野説の注目が高まると、反論への注目も高まる

   ⇒中世史研究が盛り上がる

   ⇒ゼミ生や出版機会やセミナー講師依頼が増えていく

   ⇒安心して研究を続けられる

 

 ・三好家ゆかりの地の住民

   ⇒地元が取り上げられて嬉しい

 

 

などなど、大きくはいいことだらけだと思うのです。

 

まあやっぱり、三好家の知名度が高まる過程で、変に他の戦国時代の人気者に乗っかったりディスったりするような、どのジャンルにもありがちな流れになったらどうしようみたいな心配はなくもなくですけれども。

 

できれば健全に知名度が高まって、結果として三好に留まらず歴史研究全体によい刺激になって、研究を踏まえた楽しいコンテンツも増えて、またファンが広がって……という美しいサイクルになっていってくださいますように。

 

三好ファン自身も理世安民めざして歴史趣味者の分裂を回避するようなアレで。

 

 

 

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(雑感)

 

ガチで「天下人」の定義がよく分からないんですよね。

 

長慶さんも同時代~江戸時代初期頃に「天下執権」とか「天下主」とか言われているので、天下人っぽい存在だったとは言っていいと思うんですけど、現代で言う「天下人」ってそれ以上の意味も付帯しているっぽい風潮じゃないですか。

 

私の場合は、平安時代頃までの大王・天皇はもちろん、藤原道長白河院平清盛も北条得宗家も足利将軍も細川高国大内義興細川晴元三好長慶も三英傑も秀忠さん以降の徳川将軍も明治時代以降の総理大臣あたりも、みーんな天下人……要は各時代の政権で随一の実力者=天下人……くらいのイメージだったんですけど(だから実は「最初の天下人」という言い方には違和感があったり)。

 

現代人の多くがイメージする天下人は「戦国時代に全国規模の支配をした(しかけた)人=三英傑」なのかな?

「天下人」って、当時の基準ベースでなく、現代人ベースの言葉のような気もするし。

 

かなりもやもやするワードになっちゃってるような。

 

 

 

なんかですね。

三好長慶さんの存在、研究の進展って、

江戸時代から脈々と築いてきた日本人の「戦国時代観」を揺さぶるというか、

趣味やロマンに近かったジャンルに直球正論をぶつけるような異物感というか、

うーん、なんとなくの消化不良を呼んでいる面もある気がするんですよね。

 

や、三好長慶さんに限らず、近年の一次史料ベース研究の進展全体がそうなのかもしれませんが。

 

こういう時、最新の研究を知っていたり、科学的な理解ができたりする側の人は、どうしても啓蒙的立場になってしまうのだけれども、人々の感情、受容、変化……は理屈だけで動くものじゃないですし……。

 

戦国時代ファンって、若き日に夢中になった講談、時代劇、小説、ゲーム、当時の研究等の、ノリや熱気やわくわく……をピュアに懐かしみたい、ていう気持ちを持っている人も多いと思うんですよね。

実際は違うんですけど、歴史ネタって、世代を超えた不変の教養と思われがちだし。

 

歴史研究にも「おくすり飲めたね」が必要だと言いたいのか、

という訳では決してないのですが。

 

 

なんしか、世の中って、平和に、やわらかに漸進していく感じがいいなあ。