肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「三好長慶とは」分かりやすい最近の研究とかの解説

 

大河ドラマ麒麟がくる」に登場したり、信長の野望20XXで人気キャラになっていたりと、三好長慶さんの知名度が最近急に向上していてかんたんしている一方、彼がどういう人物なのかを分かりやすくまとめているサイトや書籍が意外と少ないので、自分なりの最近の研究を踏まえた現時点の理解をとっつきやすい形で書き記しておきます。

ご参考になれば幸いですが、しょせん私の素人理解ですし、あえて単純化して書いていますのでご留意くださいまし。

 

 

どんな顔?

こんな顔です。

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肖像画の讃(バックの文章)には「按成一剣定天下」と書かれており、「武力で天下を安定させたよね」と功績を称えられています。

あと、特別に下賜された「桐紋」が衣装に描かれています。

 

 

 

何をした人なの?

雑に言えば、応仁の乱以来、ずうっと戦乱が続いていた当時の首都圏(畿内地域)に平和をもたらした人です。

 

 

その過程で、

  • 一時的に足利将軍を京から追放して首都を単独支配
  • 室町時代の有力守護である細川家・河内畠山家の勢力を吸収
  • それまで武家支配が及んでいなかった大和を侵略
  • 結果、五畿内(山城・摂津・大和・河内・和泉)を支配下
  • 足利将軍に代わって改元を主導、天皇即位式を警護
  • 石垣や居城移転や鉄砲やキリスト教等の先進事例を多く採用
  • 寺社や朝廷を保護し一揆を抑止し交易を促進し治安を改善

 

等の画期的な成果を上げられています。

 

 

言い方を変えれば、

後の織田信長さんたちが活躍できる下地をつくった人、

ややこしい室町時代的勢力を一掃してくれて、実力と名分さえあれば中央政界でデカい顔ができる前例をつくっておいてくれた人、

でもあります。

 

 

基本プロフィールは?

徳島県出身。

1522年~1564年。

年が近い有名人は武田信玄さんや陶晴賢さんや毛利隆元さん。

 

居城は西宮市(越水城)→高槻市(芥川山城)→大東市/四条畷市(飯盛城)。

お墓は京都の大徳寺聚光院(通常非公開、たまに特別公開)や堺の南宗寺等。

 

 

 

強いの?

戦も政治も異常に強いです。

 

決戦をするたび大勝利、しかも最終的な動員兵力は約6万にのぼるという。

世論工作もやたら上手く、足利義輝さんとの関係がこじれた際には、なぜか「足利義輝三好長慶に謀反」と世間に言わせてしまう始末です。

 

 

 

弱点はないの?

運と寿命(享年43歳)。

 

 

 

天下人なの?

諸説あります。

 

戦国時代や江戸時代初期の文献では「天下主」「天下執権」等と天下人っぽい表現で讃えられていました。

当時の「天下」は「五畿内」を指す説が近年有力なので、戦国時代に初めて五畿内を支配した彼を「最初の天下人」と呼ぶ人も増えてきています。

 

が、そもそも「天下人」という言葉に明確な定義がないので、

  • 全国支配をしていないから天下人ではない
  • 官位が従四位下どまりだから天下人ではない
  • 最終的に足利義輝さんと手を結んだから天下人ではない
  • とにかく天下人ではない

等の声も多い状況です。

皆さまの思う「天下人」のイメージに当てはめて判断いただければよいかと。

 

総じて、当時の人からは高評価、現代ではマイナーさもあって評価が混在、といったところでしょうか。

  

 

 

そんな話はじめて聞いた or これまで聞いた話と違う。

天野忠幸さん(現:天理大学准教授)等の研究が2000年代頃から急速に進みました。

もともと応仁の乱をはじめとする畿内史がややこしい上、織田信長さん以降の歴史の主役と直接関わっていないこともあり、研究・創作ともにそれまでは題材になりにくかったようです。

 

世俗的な眼から天野忠幸さんの功績を挙げると

  1. 三好家関係の一次史料(当時の文献)を整理した
  2. 逆に、三好家関係の俗説(講談や小説等の創作要素)を除外した
  3. 三好長慶さんや松永久秀さんの魅力的な人物像を提示した

 

というところで、1・2のおかげで最近は三好家界隈の研究がとても盛んになっていますし、3もあって私も含めたアマチュア歴史ファンも三好家トークを楽しめる状況になってきた次第でして。

3はあくまで仮説段階だと思いますが、1・2の基礎的事実の整理については学問的に定説になりつつある段階だと認識しています。

 

 

一方、江戸時代後期(頼山陽さんの創作等)から続く伝統的な三好長慶さん像は松永久秀さんに下剋上された残念な人」「晩年はボケた」でして、こうした昔ながらのイメージをお持ちの方もいまだ多く。

また、2000年代の「ニコニコ動画」や「信長の野望・革新」が盛んだった頃は、松永久秀さんが「梟雄キャラ」「義理1キャラ(すぐ裏切るキャラ)」として人気者だったこともあり、なおさら三好長慶さんは梟雄久秀さんの踏み台のような扱いを受けることも多く。

 

 

要は、2020年現在は「最近の研究」が浸透している途上、というところです。

初めて聞いた、で当たり前ですし、

聞いていた話と違う、でも当たり前です。

わざわざ能動的に調べて喜んでいる人の方がレアです。

 

そもそも、戦国時代の学術的な研究自体が戦後の学者さんたちの努力でようやく盛んになってきたところですし、 一口に戦国時代といってもプロもアマも縦割り横割りが激しくてなかなか互いの研究成果が上手く共有化されない構造課題があったりして、どうしても最新研究が定説化するには時間がかかっちゃうものなんですよね。

 

 

 

松永久秀さんに下剋上されたんじゃないの?

されてないです。

当時の文献では最期まで久秀さんは長慶さんに忠節を尽くしていますし、長慶さんや三好一族の連続死で久秀さんは何ひとつ得をしていません。

むしろ「松永久秀忠臣説」が人気出てきています。

 

実は、三好長慶さんは2年間ほど死を秘匿され、しかも秘匿が成功してしまいまして。

長慶さんの死を内緒にしていた1564-1566年頃、宣教師さんとかに「最近三好長慶さんは政務を疎かにしてすべて松永久秀さんに任せてしまっている」と評されてしまい、そのせいで松永久秀下剋上説が広まったんじゃないかという哀しい経緯があったことが判明しております。

 

 

 

晩年は不幸だったとか悲惨だったとか。

家庭面では不幸だったと言って差し支えないと思います。

  • 1561年 弟の十河一存さんが死亡(長慶40歳)
  • 1562年 弟の三好実休さんが死亡(長慶41歳)
  • 1563年 一人息子の三好義興さんが死亡(長慶42歳)
  • 1564年 弟の安宅冬康さんを自ら成敗し、自分も病死(享年43歳)

 

もともと三好長慶さんは

  • 11歳で父親が死亡
  • 18歳で母親が死亡
  • 27歳で妻と離縁

 

という経験もされておりますし、なんというか、いくら乱世といえど、もう少し運命の女神さんも彼に優しくして差し上げて……とは思ってしまいます。

 

 

 

なんで弟の安宅冬康さんを殺したの?

分かりません。

 

  1. 松永久秀さんの讒言
  2. 精神衰弱により道連れにしようとした
  3. 安宅冬康さんが謀反を企んでいた
  4. 後継者の三好義継さんに権力を集中させるため(お家分裂を防ぐため)

 

等の説がありますが、いずれも根拠はなく、創作や想像や状況証拠からの推測です。

天野忠幸さんは4を提示していますが、じっさいどうなんでしょうね。

本人の気持ちを慮ればどれも気の毒すぎる。

 

リアルにミステリです。防げ陰謀論

 

 

 

晩年はボケたり精神を病んだりしたんじゃないの?

死の直前まで普通に仕事しているので、ボケたりメンタルヘルスになったりはしていないと思われます。

 

精神が不安定だった説の元ネタは頼山陽さんです。

また、某小説家兼医師さんの「うつ病だったのでは」というかなり実験的な仮説論文(大胆な判断、痛烈なご批判を期待、と断って書かれたもの)が、wikiに部分的に切り取られて掲載されていた時期があり、余計にそういうイメージが広がってしまったりも。

 

 

 

ということは、すごい人なのに気の毒すぎませんか?

そうなんです。

だからこそ近年ファンを増やしているのかもしれません。

私は「三好長慶=戦国時代の樋口一葉」みたいに思っています。

 

 

 

そんな三好長慶さんの魅力は?

個人的には有能かつ薄幸なところを推していますが。

最大の魅力は「これぞ」という人物像がいまだないところではないでしょうか。

 

求む、素敵なコンテンツ誕生。

麒麟がくるにも期待しています。

 

 

 

必殺技とかないんですか?

ないです。

あえて言えば「実休さん召喚」でしょうか。

 

「車懸り」「啄木鳥」「三段撃ち」みたいな分かりやすい創作がある人はいいですね。

北条氏康さんなんかもそうですが、明らかにすごい人なのに分かりやすい必殺技がないせいでコンテンツ損している戦国大名っていると思うんです。

 

 

 

有名な戦は?

見どころが多くて面白い戦は

あたりでしょうか。

詳細は長くなるので割愛します。

 

 

 

ライバルは?

スポーツ漫画風に言うと、

  • 地区大会のライバルが木沢長政さん(惜しまれつつ引退)
  • 全国大会のライバルが遊佐長教さん(後に仲間に)
  • 世界大会のライバルが足利義輝さん(後に仲間に)

でしょうか。

 

 

 

友達は?

理由は不明ですが、同い年の千利休さんと墓場までぴっちょり一緒(聚光院)です。

小説等では利休さんに長慶さんの妹が嫁いだことになっていますが、仔細よく分からず。でも、仮に義兄弟だったとしても、お墓が隣り合っている、しかも千利休さんが生前にそれを指定、というのは相当な思い入れようですが果たしていったい。

 

 

 

趣味は?

連歌と禅。

 

茶の湯はあまり熱心ではなかったようです。

弟の三好実休さんや親戚の三好宗三さんが茶の湯では有名です。

 

 

 

人柄は?

分かりませんが、細川藤孝さんの証言によれば動かずにじっと沈思しているタイプの人だったようです。

あと、織田信長さんの有名な料理人坪内某エピソードを信じるならば、薄味派です。

そうとうストイックな匂いがしますね。

 

旧主を殺さなかったことで「甘い」とも言われがちですが、最近は「殺さないのが当時の常識」「世論への配慮が本当に上手い」と評されるようになってきています。

 

 

 

浮いた話は?

波多野氏出身の妻がいたが離縁した、

遊佐長教さんの娘を継室にもらったらしい、

以外はなんの記録も残っていません。

すなわち縛りはほとんどありません。

あとは何を想像するのもあなたの自由です。

 

 

 

属性は?

法名が「聚光院」なので光属性でいいんじゃないでしょうか。

光を聚(集める)。

戦国乱世における元気玉的な存在だったのかもしれません。

 

楽を聚(集める)した豊臣秀吉さんとの違いが面白いですね。

 

 

 

あだ名は?

  • 三筑(三好筑前守の略)
  • 在家菩薩(禅僧から見て)
  • 倭の耶律楚材(明から見て) 

 

など。

「在家菩薩」という言葉は仏教界に身を置く人でないと正確なニュアンスは分かりにくいかもしれませんし、「耶律楚材」という言葉は、現代の日本人が思うニュアンスと当時の中国人が思うニュアンスにギャップがあるかもしれませんね。

現代では「日本の副王」ともよく称されていますが、あらためて手元の諸資料を見たら出典が分かりませんでした。もしかしたら司馬遼太郎さんの「街道をゆく」の阿波編が初出かもしれないです。

 

 

 

彼が目指した世とは?

分かりません。

 

天野忠幸氏は室町時代の家格秩序を克服し、新たな世を」という魅力的な長慶像を発信してくださっていますが、あくまで仮説段階です。

なりゆきで天下人になっただけなのかもしれませんし、逆に先の世をしっかり洞察しつつ世論に配慮して物事をゆっくり進めていた人なのかもしれません。

 

彼の構想を評価する上でキーとなるのが、1558年の足利義輝との和睦。

それまで京を単独支配していた長慶さんは、ここで義輝さんと和睦し、以降は

  • 上に室町将軍を据えつつ
  • 自らが引続き実権を握り続け
  • 河内や大和等、周辺諸国への侵略を進める

というスタンスになるのですが、この和睦がどのような判断だったのか。

妥協なのか、屈したのか、能動的選択なのか。

 

議論が尽きない、興味深い論点であります。

 

 

 

興味が湧いたので真面目な資料や本を読みたいです。

※2021/10/23追記

新書が出たのでこれが一番いいと思います。

「三好一族――戦国最初の「天下人」 感想 マストバイ」天野忠幸さん(中公新書) - 肝胆ブログ

 

 

天野忠幸さんによる最近の研究に触れるならば、まずガイダンスとして、徳島経済同友会での講演要旨資料が短く上手にまとまっていておすすめです。

(リンク先のPDFファイル)

t-doyukai.jp

 

 

その上で、本を選ぶのであれば、「松永久秀下剋上」が手に入りやすくて読みやすいと思われます。

www.heibonsha.co.jp

「松永久秀と下剋上 室町の身分秩序を覆す」天野忠幸さん(平凡社) - 肝胆ブログ

 

タイトルは松永久秀さんですが、前半は三好長慶さんの事績と重なっていますし、後半の織田信長さん時代との繋がりも学べていい感じです。

 

 

「三好一族と織田信長」も中央政権の連続性という視点でいいですね。

www.ebisukosyo.co.jp

 

 

三好家に限定せず、畿内戦国史を広く知りたい場合はこちら「室町幕府分裂と畿内近国の胎動」がおすすめ。 

www.yoshikawa-k.co.jp

「室町幕府分裂と畿内近国の胎動 感想」天野忠幸さん(吉川弘文館 列島の戦国史④) - 肝胆ブログ

 

読んでみて肌に合いそうだったら、より学術的な本や論文をお読みくださいまし。

その際は、天野忠幸さんに加え、馬部隆弘さんや中西裕樹さん等の文章にも目を通されると理解が立体的になっていいと思いますよ。

 

 

大阪界隈にお住まいの方なら、「飯盛山城と三好長慶」も郷土史的面白さがあっておすすめです。

www.ebisukosyo.co.jp

 

 

 

真面目な本じゃなくて小説とかゲームとかないんですか。

あんまりないんですよねえ……。

まだまだ供給不足なのが実態です。

 

小説は、最近の研究が反映されたものがほとんどありません。

手に入れば「新三好長慶伝」は最近の研究もある程度反映されていて読みやすいんですが、松永久秀さんの扱いがかなり悪いので彼のファンはしんどいかも。

小説「新三好長慶伝 龍は天道をゆく 感想」三日木人さん(幻冬舎MC) - 肝胆ブログ

 

マチュアでよければ私が昔書いたやつもありますが、長くて暗いのでだったら専門書読んだ方がいいじゃんという感じです。自分で読む分にはまあ面白いんですけど。

きょう、(小説 三好長慶)

 

 

ゲームだと、最近は信長の野望シリーズが三好家をけっこう推してくれているのでおすすめです。

信長の野望・大志の「残念な足利義輝像」と「危険な三好長慶像」 - 肝胆ブログ

信長の野望20XX「三好主従&人気武将の活躍」'20バレンタイン三連覇&主従同率1位記念 - 肝胆ブログ

 

 

 

 

 

以上、自分なりにとっつきやすく書いたつもりですが、やっぱり長くなっちゃいますね。プロの手による新書発売とかを切に願います。

 

 

なんにせよ三好長慶さんの知名度がじわじわ上がって、ファンもそこそこ増えていきますように。