小説現代に掲載されている松永久秀さんを題材にした小説「じんかん」(人間)が、その名の通り人の世の本質に迫るような迫力と、松永久秀さんを筆頭に魅力的な人物の生き生きとした活躍とを楽しめてかんたんしました。
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※'20.5月に単行本として刊行される予定もあるそうです。
松永久秀さんを主題にした小説はけっこうな数がございますが、当作は
- 松永久秀は有能
- 松永久秀は三好家忠臣
- 松永久秀の三悪にはそれぞれ事情がある
- 松永久秀の生き方が織田信長以降の世代に影響を遺す
- 松永久秀以外の登場人物もそれぞれ魅力的
- 小説として人間や世の中の深いところを描写している
という点で、おすすめ度が高い逸品になってございますよ。
松永久秀さんに関心を持ち始めたばかりの人にも推薦できますし、最近ホットな畿内史を取り扱っているので戦国時代ファンにも広く推したいところであります。
あえて惜しいポイントを申し上げれば、三好長慶さんの描写が淡泊なこと(もちろん、長慶さんを無能や踏み台として描いている系ではありません)と、三好三人衆&足利義輝さんがフォローできないくらいサゲられていることくらいです。
以下、詳しいネタバレはしませんが、かんたんなあらすじや構成を紹介しております。
おおまかなストーリーは、
となってございまして、3が一番描写が少なく、1や2が厚めです。
1や2を厚くするということは、オリジナル要素が多めということでもあるのですが、このオリジナル要素が小説として確かな読み応え、ストーリーの豊かさを生んでおりますので、実にいい感じですよ。
上に書いた通り、三好長慶さんとの関係性はあっさりと流れてしまうので三好主従萌えとかの要素はあまりないのですが、その代わりに三好元長さんと三好義興さんを非常に魅力的に描いていただいているのは注目ポイントであります。
(そういう意味で「覇道の槍」(天野純希さん)ファンも必見です)
小説として、松永久秀さんの上の世代である元長さんと、下の世代である義興さんとを画期的に描くことで、あいだの世代である主人公久秀さんの人物を際立たせている感じなんですね。
確かに、長慶さんのことを濃く書くと、主人公久秀さんが喰われてしまうかもしれませんので、久秀さんの一生を描く上ではこうした構成も理解できるところであります。
長慶・久秀の両方を立たせて描くのはなかなか難しいことなのかもしれません。
加えて、この作品で個人的にいちばん痺れたところなのですが、細川高国さんを非常に格好良く描いているんですね。
読んでいて、正直ものすごく意外な切り口で高国さんがアゲられていて、思わず唸りましたからね。
細川京兆家ファンにはぜひ読んでいただきたい。
こんなにイケてる細川高国さん創作は激レアですよ。
本当に。
あえてセリフや描写は引用いたしませんが。
じんかん、人の世に理想を抱く元長さんと、諦念を抱く高国さんとの対比が見事でしてね。
しかも高国さんの魅力描写がまた突然にやってきてね。
ここでそういうこと言うか、この人! というね。
詳しくは伏せますが、じんかんに対して両極を見出す二人との出会いが、松永久秀さんの生涯に大きな影響を与えて。
元長さんと高国さん、いずれもがじんかんの真理を言い当てており。
久秀さんは生涯その狭間でもがきながら、読み手の心に染み入る活躍をしていく訳なんですよ。
この構成のよさを、ぜひ愉しんでいただきたいと思うのです。
登場人物で言えば、松永長頼さんもいいですね。
これは理想の弟、こいつは自慢の弟ですよ。
人柄がまっすぐでお兄ちゃん大好きなことはもちろん、馬上槍や獣狩りや山岳戦精通等の具体的戦上手要素が満載でして。
「なんとなく強いらしい」「なんとなく頼りになるらしい」くらいしかこれまで人物像が描かれてなかった御仁ですので、具体的な人物・戦ぶりが描かれると非常にインパクトがあります。この長頼さん像はこれからも広まってほしいところですね。
そして、物語の前半でしっかりと描かれた久秀さんの人物像をベースに、後半の「三悪の事情」パートが優れたドラマになっておりまして。
いわゆる主君謀殺、将軍弑逆、東大寺大仏殿炎上の三つについて、単に「やってない」「事故です」といった感じではなく、「こんなドラマがあってこうなったのか……」と感動せざるを得ないような物語展開の冴えがあるのですよ。
詳しくは伏せます。
実力あるクリエイターさんが、いよいよ畿内史マーケットに入ってきてくれつつある印象ですね。
大河ドラマ等でも取り扱っていただいておりますし、これからも優れた才能がたくさん集まってきて、嬉しい作品が次々と登場し、人物像や解釈が磨かれていきますように。