じゃりン子チエ文庫版6巻、お好み焼屋のオッちゃん(百合根)の悲哀を中心に、往年の日本映画のような味わいに富んだ巻になっていてかんたんしました。
表紙はすごろく。
よく見ると鬼畜な難易度で、大阪の下町で生き抜く覚悟が問われるかのようです。
収録されている話は次のとおり。
- ギリが二つのイヤな奴
- 眠れない日の神だのみ
- ラグビーに向かって
- 精鋭部隊てなんや
- 防波堤の二人
- うらみつらみのラグビー
- アホだらけのラグビー
- 人気者 花井拳骨
- 西萩小町へのラブレター
- ミツルの憂ウツ
- 部長さんの恋
- 番外篇
- 選挙に向かって
- 市会議員候補 レイモンド飛田
- イヤミなイヤミなトランシーバー
- 投票日のその日①
- 投票日のその日②
- ブレザーを着る子
- マサルの写真
- お好み焼屋の憂ウツ
- 駅のお好み焼屋
- ユ・リ・ネの名前が出て来ない
- 宝塚のホームにて
- それぞれの師走
以下、ネタバレを含みます。
前半はラグビー回、
中盤に選挙回、
後半にお好み焼屋のオッちゃんの別れた妻子を巡る物語、が描かれます。
ラグビー回自体の内容は酷いシロモノでしたが笑、ラグビー後のエピソード、警察部長がヨシ江はんに恋してしまう話がとてもよございました。
部長の恋の呑み込み方、ラストでチエちゃんにかけたセリフ「オジさんは酔っている でも君には幸福になってもらいたい」は、残酷に評せば滑稽ではあるのですけど、私はとても誠実で格好いいものを感じました。
部長に隠し事をしているミノルさんが自己嫌悪に陥るのも、部長が惚れている相手をおバァはんだと勘違いしておジィはんがイライラするのも、それぞれいいですね。
選挙回は、大阪ヤクザを支持母体に当選一歩手前まで肉薄したレイモンド飛田さんの意外な底力に感心しましたね。
ノリノリで選挙活動するレイモンドさんを脇目に、地味な暮らしを選ぶべきではと悩んでいる側近の部下の姿も愛しい。
幕間でつげ義春じみたシュールな夢を見るチエちゃんが描かれているのも楽しいです。
そして、後半の別れた妻子を巡るお好み焼屋のオッちゃんの哀しさ。
この流れだけで一本の映画がつくれそうな。
すべてを説明しない、言葉を削って、絵と流れだけで事情を把握することができるシナリオ作りがまことに巧みです。
とりわけ、アントニオJr.がオッちゃんについて「オレを見る時の眼が猫を見る眼なんや」→「そやからオレを見る眼がこう…また人間を見る眼なんや」と呟いて、オッチャンの精神状況の移ろいをアリアリと伝えてくれるシーンが哀し過ぎてとても好き。
巻を通して、各登場人物の好きなセリフは次のとおりです。
チエちゃん
「はひふ…まみむ……やゐゆ…ゆ…ゆ…ゆり…ゆり…百合根君!!」
「やっぱり!!」
チエちゃんのファインプレーが、哀しい物語の中で唯一ピカピカに光ります。
ヨシ江はん
「ちょっと…ちょっと上にいきましょ」
百合根父子の再会の際、チエちゃんにあえて何も説明せず、そっと父子から距離を取るヨシ江はんの心配りが非常に情感深い。
たぶん当事者以上に事情と展開とが見えてしまっているのでしょう。
お好み焼屋のオッちゃん(百合根)
「子供で苦労するのも親の楽しみですからなぁ…」
哀しい。
苦労できなくなってからきつく実感してしまうのが世の習いですね。
レイモンド飛田
「そやけどワシ頑張ったやろ」
「そやからワシ最後までテツに抵抗したやろ」
落選後。
チエちゃんの前で精いっぱいのプライドのかけらを示すところがいいですね。
(気の毒やけどもっと早よカタギになったら良かったのに…)と考えているチエちゃんの世間慣れしまくっている冷静さがユーモアを生み出していて救いになっている感もあります。
テツ
「誘うた方がおごるのよ」
ミノルさんに無理やりかき氷をおごらせるシーン。
そのあと、チエちゃんが同じセリフでおバァはんにごはんを奢ってもらっているのがとてもかわいいです。
テツ&カルメラ&百合根&レイモンド主従&オバァはん
台詞ではないのですが、ラグビー時のナレーションで
ルールとかチームワークとかそうゆうものが入り込む空気はどこにもなかった
ただ一つチームワークに似たものといえば警察の群れを見ると反射的に「ムカッ」と来る性質の者が多かったことだ
と解説されていたのがウケました。
選手ですらないおバァはんまでムカッとしているのが特に。
スクラム時に警察チームの金的を蹴りまくった挙句大乱闘で幕を閉じるというアカン試合でしたけど、その後のエピソードがよかったのは上で取り上げた通りです。
小鉄
「ぜんざい!!」
「ワシも誘てくれ~~(ニャオニャオ~)」
と二本足立ちでチエちゃんにねだる小鉄がとてもかわいい。
あっさりチエちゃんに「あんた今日留守番しときや」と置いていかれているところもかわいい。
小鉄はアントニオJr.ほど恵まれた食生活は送れていないようですね。
自分でフナを塩漬けにしたりしているみたいですし。
アントニオJr.
「玄関に毛だらけの外国の犬がおったからまずそいつの毛全部むしってしもたった」
「オッさんの方は往復ビンタ五十発かましたった」
「オレそれでもおさまらんから今度は家つぶしたろ思てな さすがに家だけはつぶせんかったから白蟻ばらまいて帰って来たんや」
番外篇で、仲間の猫の仇討ちを遂げた際の述懐。
多少盛っているかもしれませんがある程度は本当にやってそう。
この巻ではお好み焼屋のオッちゃんのドラマの裏で、四本足で歩く練習をしたりコテでお好み焼を食べたりと名場面を多く演じています。
アントニオJr.ファンにとっては外せないですね。
次の巻では元気なオッちゃんが見られるんでしょうか。
離婚件数が高止まりしている世の中ではございますが、それぞれの別れが当人と家族の納得のもとでなるべくなされていますように。
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