じゃりン子チエの文庫版8巻、クソガキのコケザルさんが物語に本格的に絡み始め、そのおかげで大人連中の魅力が今まで以上に引き出されていてかんたんしました。
収録されている話は次のとおりです。
- 仲人はもうイヤだ
- 旅は道連れ即席うどん
- さえない男のムダ話
- おんな組の襲撃 その①
- おんな組の襲撃 その②
- テツの最後っ屁
- テツが消えればコケザルが来る
- 行きはよいよい帰りはこわい
- ジャンケンはもうイヤだ
- 行方不明のコケザル
- ボロボロのコケザル
- コケザルのリターンマッチ
- なにか変なこの頃
- 朝子さんのツ・ワ・リ
- テツのお手伝いさん
- 仲間を大切に
- 周旋屋シャッター事件 その①
- 周旋屋シャッター事件 その②
- 失われた時を求めて
- 記憶なんてすぐ戻る
- サナダ虫は誰だ
- 寒イボの音が聞こえる
- 大晦日みんな揃ってバチ当たり その①
- 大晦日みんな揃ってバチ当たり その②
渉先生の結婚や、男性陣対女性陣のソフトボール大会などに加え、コケザルさんの活躍が目立つ巻になっています。
以下、ネタバレを含みます。
コケザルはテツの鑑別所仲間の息子で、喫煙するわ生意気だわ捻くれてるわで蹴り飛ばしたくなるような(比喩)クソガキさんでございますが、一方で彼の根底にある寂しさや複雑な家庭事情等から放ってもおけない、妙なかわいさを持っているキャラクターでございます。
現実でもときどき見かけるタイプの子どもというか。
ある意味まっすぐ育たなかったパターンのチエちゃんですし、実際、コケザルもチエちゃんのことを一目置いている訳ですね。
この巻では、
コケザル家に家出したテツを迎えに行くヨシ江はん、
躊躇なく生意気なコケザルを叱るおバァはんとチエちゃん、
ヤクザにボコボコにされるコケザルを救いにいくテツとミツル、
等々が見どころになっています。
各キャラクターの名セリフは次のとおりです。
チエちゃん
「ゆうとくけどウチはおバァはんやお母はんみたいにまだ不幸に慢性になってないんやからな」
「あかん…マジメになりそう マジメになるともうふんばりが利かんからな」
「もうこれ以上不幸にならん思とったのに……ああ…ウチは日本一底なしの少女や」
近所にコケザルが引っ越してくることになったときのリアクション。
周りの大人は、コケザルにチエちゃんという友達ができてよかったよかったと思っているのがよけいにチエちゃんの哀れを引き立てていて好き。
コケザル
「ワシおまえくらいしか話する奴おらへんのや」
コケザルがチエちゃんに対して。
この後、飲み屋を営んでいる母親が客と抱き合っているのを見てしまったことを吐露し始めたりも。
チエちゃんとヨシ江はんの前では、悩める子どもらしい面を見せるのが好き。
おバァはん
「ええかげんにしなはれ」\ぱん/
「さっきから黙って聞いてたら大人になんちゅう口のきき方してますのや」
「大人には色んな笑い方がおますのや テツ相手にまともな顔しとったら今頃 首つってますわ」
「そんなに大人びたことゆうんやったらこっちも大人や思て相手したりまひょか」
生意気な口ばかり叩くコケザルを、速攻で張り倒して逆エビかけるおバァはん。
さすが笑
別の場面で、気絶したおジィはんと気絶したテツを見て、昔を思い出して横で一緒に眠るところもいじらしくて好き。
ミツル
「あんな奴らただつかまえてたまるかい」
「オレかて…オレかて昔はなぁ」
「くそ~オレかて制服脱いだらちょっとしたもんなんやど~~~」
テツとともに、ヤクザにしばかれているコケザルを救いにいくミツル(警官)。
彼はたまに漢気が溢れ出すのが好き。
昔に戻ったミツルを見て喜ぶテツもかわいい。
テツ
「それからコケザル おまえけっこうええ根性しとる」
「また遊びに来い」
まれに適切な大人の役割を果たすのが格好いいですね。
同類として通じるものがあったのでしょうか。
別の場面で、ヨシ江はんのことを「ヒン死の境遇で自殺もせんと笑てるあのヨシ江はんの不気味さ」と評したカラメル兄弟の頭に鉛筆を刺したところも好きです。
ヨシ江はん
「なんとかなりますやろ」
詳細は伏せますが、あらゆる方向に気を配った上で、テツを手玉に取るヨシ江はんがとても素敵です。
おジィはん
「とにかく今日は大晦日やねんから一つそのみんなでテツを喜ばしてやっても」
「カ…カ…カブなんかどうやろ」
巻のラスト、家族での大晦日カブバトルを提案するおジィはん。
いつもテツのことを気にかけているのが泣けますね。
小鉄&アントニオJr.
「わざわざ生駒まで物のアワレを感じに行かんでもチエちゃんの家庭見たりおまえとこのオッサン見てたら充分やないか」
アントニオJr.
「オレそうゆう生々しい現実から離れたかったんや」
生駒まで紅葉狩りに行って遭難した二匹。
このセリフだけで、それぞれのキャラクターが充分出ていていいですね。
コケザルはパッと見では不快感の高いキャラクターですが、彼の存在が作品の深みであったり、周囲の大人の魅力を引き出したりしていて、物語を厚くしてくれているように思えますね。
そうゆう意味ではマサルとも似ているのかもしれません。
現実の諸事情を抱えた子どもたちにも、頼もしい大人との出会いが訪れますように。
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