吉川弘文館の列島の戦国史③「大内氏の興亡と西日本社会」が、タイトル通り西日本社会の独自性と大内氏の存在感をビビッドに描いていてかんたんしました。
16世紀前半、東アジア海域と京都を結ぶ山口を基盤に富を築き、列島に多大な影響を与えた大内氏。大友・尼子氏らとの戦い、毛利氏の台頭などを描き出し、分裂から統合へ向かう西日本を周辺海域の中に位置づける。
紹介文の通り、西日本を周辺海域の様相の中で位置付けている点がこの本の大きな特徴です。
戦国時代の通史と言えば、大きくは室町幕府の秩序や権力が戦国時代っぽく変遷していく様を軸に描かれることが多いと思うんですが、この本では海の歴史という切り口を重視しておられるところが独自性高くて素晴らしいですね。
倭寇、堺・博多・瀬戸内、銀、キリシタン……等の要素が好きな方はぜひぜひ。
詳しい方が内容を類推できるよう、以下、細かめに目次を引用いたします。
海域のなかの西日本―プロローグ
海から見た歴史
海禁と倭寇
大内文化
一 東アジア海域世界の展開
1 琉球王国の隆盛
琉球文化
通交関係と博多商人
琉球国王尚真の事蹟
列島諸勢力と琉球王国
琉球王国の斜陽
2 朝鮮通交と対馬
朝鮮通交と「偽使」
大内氏の日朝通交
三浦の乱と壬申約定
3 終末期の日明貿易
永正度遣明船
寧波の乱
天文八年度・天文十六年度の遣明船
広域的物流・交流の担い手たち
二 大内義興の上洛と西日本の諸勢力
1 大内氏の分国経営
大内氏の出自と来歴
守護分国と守護代
評定衆と奉行衆
大内氏掟書
守護所山口の発展
2 足利義稙政権と西日本の諸勢力
足利義稙の周防下向
大内氏内部の混乱
御内書・副状の受給者たち
上洛と船岡山合戦
大内義興の帰国と西日本社会
3 大内氏と大友氏・少弐氏の抗争
大内氏と大友氏の博多支配
大内氏・大友氏の抗争と少弐氏
大内義興と大友親治の攻防
松浦氏・相良氏と大内氏
三 分裂・構想の拡大
1 南九州の争乱
孤立を深める守護島津奥州家
島津豊州家と飫肥・油津・外之浦
伊東氏と島津氏の攻防
島津奥州家包囲網の形成
島津奥州家・薩州家・相州家の攻防
新納氏の攻防
海域に開かれた南九州の対立軸
2 大友氏と周辺諸国の争乱
朽網親満の反乱
菊池氏と大友氏
阿蘇氏の分裂・抗争
相良氏の基盤と内部抗争
3 四国の情勢
細川氏分国支配の後退
土佐国の分裂・抗争
伊予国の領有関係
4 山名氏・赤松氏分国の混乱
山名氏一族の守護分国
山名氏分国の分裂・抗争
山名誠豊と山名氏分国
赤松氏の分国支配
有力守護家の後退
5 大内氏と武田氏の抗争
安芸武田氏の自立
安芸武田氏と大内氏の抗争
鏡山合戦
大内氏・山梨・大友氏の結束
6 塩冶氏反乱と出雲・備後の諸勢力
尼子経久と守護京極氏
尼子経久の諸勢力
塩冶氏の反乱
分裂と混迷の時代
1 大内義隆と北部九州の争乱
芸備における停戦
北部九州の新たな情勢
連歌師宗牧の下向
大内氏包囲網の形成
2 北部九州全域におよぶ戦乱
豊筑をめぐる戦争のはじまり
勢場ヶ原合戦
3 和睦の成立
北部九州における停戦
大内義隆と太宰大弐
秋月の会談
少弐冬尚と菊池義武
五 大内義隆と尼子氏の戦争
1 尼子氏の拡大
尼子氏と毛利氏の同盟
美作国への侵攻
備後国山内氏の服属
「上洛」戦と播磨国侵攻
安芸国の動乱の再燃
郡山合戦
出雲国遠征の失敗
3 二大陣営の形成
大内氏・尼子氏の二大陣営
西日本の合従連衡
六 統合への胎動
1 九州各地における動向
宗晴康と丁巳約定
島津貴久の統一過程
伊東義祐の勢力拡大
大友氏「二階崩れの変」
阿蘇氏の統一と相良氏の三郡支配
2 瀬戸内海・四国各地における動向
天文伊予の乱と海賊衆
土佐一条氏の存立基盤
土佐一条氏の拡大
長宗我部氏の拡大
3 毛利氏の台頭と大内氏の滅亡
毛利氏の拡大過程
陶隆房の挙兵
惨劇の要因
三好政権の成立と尼子氏
防芸引分
大内氏の滅亡
七 列島周辺海域の変動
1 石見銀山
発見と開発
大内義隆と銀鉱山開発
産銀輸出のはじまり
2 海域の変貌
密貿易海商と日本列島
鉄砲伝来
後期倭寇の拠点と日本列島
キリスト教の伝来
3 嘉靖の大倭寇
大友氏・相良氏の遣明船
猛威を振るう倭寇
明初体制の崩壊
海域の変動と西日本社会―エピローグ
分裂から統合へ
連携と自立化の拡大
海域の変化と大内氏の滅亡
銀のいざなう新たな時代
あとがき
参考文献
略年表
ハンド転記したのでとても疲れましたが、その甲斐あって、当著の構成がよく分かると思います。
海ではじまり海で終わる。
日本を含んだ広域海洋社会の中で、大内家が果たしていた役割。
からの日本社会の分裂、大内家の動揺、石見銀山という新たなファクター。
そして大内家を失った海、新たな時代。
この本は、大内義興・義隆親子や尼子経久・晴久爺孫や大友義鑑・宗麟親子や毛利元就さんや陶晴賢さん等の個人ドラマに着目した本ではなく、マクロ的な視点で時代の変遷を説いてくれる訳ですね。
大内氏領土の西側、海では、後期倭寇の猛威等で従来の交易体制が崩壊。
大内義隆さんの戦略方向は西から東へ。しかし遠征失敗。からの大寧寺。
大内陣営・尼子陣営という二大勢力圏が生み出した、次世代に台頭する者たち。
ダイナミックで面白いんですよ。
たんに権力者Aさんに代わってBさんが出てきました、Bさんの後はCさんが……というだけの話に留まらず、地政学や外交や資源が複雑に絡みあうので、とても興味深く読み進められます。
大内家、尼子家、大友家、毛利家、島津家、伊東家、相良家、龍造寺家、山名家、赤松家、一条家、長宗我部家等々、様々な家の興亡についても触れられていてありがたいですね。
畿内史の進展についても取り入れてくださっていて、「大内義隆と畿内政権」「三好政権の成立と尼子氏」といった章を割いてくれているのが嬉しいです。
大内氏と尼子氏の抗争が、細川晴元さんと氏綱さんの抗争を規定したのでは、という説はなかなか興味深いので、今後の議論の深まりを期待したいですね。
それが最大のポイントかどうかは置いておいて、細川京兆家も三好長慶さんも、確かに西日本の実力者の動向を意識していたのはあると思いますし。
この本でもたびたび取り上げられている、鄭舜功さんの「日本一鑑」についても詳しく知りたいなあと最近思っています。
素人向けの日本語訳とか発刊されないかしら。
当著から離れますが、神戸輝夫さんの論文によれば三好長慶さんのことを「世に三好長慶と号す。世よ武にして且つ文にも良し。故に能く仁を思い義を慕う。倭のまさに耶律楚材と云う」と解説されていたり、当時の明人による日本社会の姿がいろいろ記されているらしいので、ゆるり読んでみたいものであります。
当時の西日本社会は、日本の中でも特に海外に開かれていた地域ですので、こういう本を読むと戦国時代観がばぁーっと広がって立体的になる感じがして楽しいですね。
様々な視点から研究が掘り下げられ、成果が互いに繋がって、戦国時代の魅力が一層鮮やかに織り上がっていきますように。
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