小野篁さんの評伝が出版されていてかんたんしました。
小野篁さんはお上に立てついてリアル島流しにあったのに有能なので復帰して出世したという公務員やサラリーマンの神様のような方なので、存在や事績が世間によく知られ、また、これを機に研究が蓄積していくといいですね。
目次は次のとおりです。
序章 歴史研究としての小野篁の伝記の試み
第一章 朝廷が記録した小野篁の人生
第二章 若き日の小野篁
第三章 海の民の末裔
第四章 篁の機智
第五章 小野篁という能吏
第六章 小野氏の先人たち
第七章 遣唐使小野篁
第八章 小野篁という庶民の罪人
第九章 篁に惚れ込んだ白楽天
第十章 小野篁という法律家
第十一章 冥界の裁判官を務める小野篁
終章 小野氏および和邇氏の存在の記念碑としての小野篁
小野篁さんの生涯について、各種伝説ベースでなく、「日本後紀」「続日本後紀」「日本文徳天皇実録(薨伝)」といった歴史書ベースで解説いただける本になっています。
- 漢詩が超上手
- 法律家としての見識も高い(令義解の編纂者の一人、序文を執筆)
- 嵯峨天皇や仁明天皇の寵愛を受けた
- 若いときは陸奥国で馬術を磨いたことも
- 遣唐副使に選ばれるも、なんやかんやで職務をボイコット
- 怒った仁明天皇により、隠岐の島へ島流し
- でも、有能なので許されて復帰して再び出世していく
- 最終的には参議、左大弁、従三位
ということで知られています。
また、そうした史実以上に、
- 唐の白楽天も小野篁さんの漢詩の才に一目置いていた
- 夜は冥界に行って、副業で閻魔大王の補佐をしていた
- 「無悪善(嵯峨なくてよからん)」と嵯峨天皇をおちょくった
⇒「子子子子子子子子子子子子(ねこのこ こねこ シシのこ こジシ)」
等の伝説が有名でして、
この本では第四章や第九章、第十一章等で、そうした伝説の内容を丁寧に解説しつつ、史実の視点から穏当に「まあ伝説ですよね」と説いてくださっています。
また、第三章や第六章は小野篁さん本人ではなく、小野氏のルーツや歴代人物について解説する内容になっています。
「猿女」「小野妹子さん」「小野老さん」「小野岑守さん」等、興味深い題材が次々に登場するので楽しい。
こうした周辺状況の解説が濃厚なのは、小野篁さんのことについてだけクイックに知りたい方にとっては不都合かもしれませんが、個人的には著者の小野氏愛や古代愛を感じて好印象です。
全体の読後感については、著者の気持ちや、著者としての歴史学へのスタンスがやや前に出がちな印象もありますけど、これまでまとまった評伝がなかった分野の初期研究ではそうした面を見受けることもよくあるのでまあいいかな、それよりはパイオニアになってくださったことへの感謝が先、という感じでしょうか。
学問的な突っ込みや批判が今後出ることもあるでしょうけど、何も起きないよりは起きて盛り上がった方がいいですよね。
私としましては、過去、京都や関東地方をぶらぶらしている時に小野篁さんの史跡を何度か見かけたことがあったり、最近も隠岐の島で小野篁さんの話を聞いていたりしたので、こうした一冊の本に伝記がまとめられて、周辺状況含め彼の生涯や伝説についてインプットできたのは幸いでした。
隠岐の島観光「島後:山中鹿之介潜伏先、水若酢神社、玉若酢神社、白島等」 - 肝胆ブログ
あらためて上で挙げたような史実・伝説それぞれをまとめ読みすると、小野篁さん、めっちゃ濃いですね。
有能エピソードと波乱エピソードと怪奇エピソードをこんなに一人で抱え込んでいる方は珍しいですし、好意や好奇心が高まっていくのを抑えられません。
著者もあとがきで述べておられる通り、平安時代といえばどうしても中期以降の有名人(陰陽師、藤原氏、文学等)が目立ちがちで、前期の小野篁さんたちが注目されることは少ないのですけれども、面白さや興味深さではけっして負けていないと思います。
この小野篁さんの評伝を皮切りに、彼自身の研究についても、平安時代前期の注目についても、だんだんと盛り上がってまいりますように。