肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

「ベーコン 随筆集 感想」訳:成田成寿さん(中公クラシックス)

 

フランシス・ベーコンさんの随筆集を読んでみましたら、けっこう実際的というかイギリス貴族っぽい経験知に富んでいてかんたんしました。

日本で言えば戦国時代末期くらいの人物ですが、現代の上級マネジャー層に求められる素養に通じるようなことをたくさんおっしゃっている良い古典だと思いますよ。

 

www.chuko.co.jp

 

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随筆集なので、テーマとなる目次を引用いたします。

興味を引かれたら読んでみてくださいまし。

 

 

 

  1. 真理について
  2. 死について
  3. 宗教の統一について
  4. 復讐について
  5. 逆境について
  6. 偽装と隠蔽について
  7. 親と子について
  8. 結婚と独身生活について
  9. 嫉妬について
  10. 恋愛について
  11. 偉大な地位について
  12. 大胆について
  13. 善良と性質の善良について
  14. 貴族階級について
  15. 反乱と騒動について
  16. 無神論について
  17. 迷信について
  18. 旅行について
  19. 帝国について
  20. 忠告について
  21. 遅延について
  22. 狡猾について
  23. 自分自身のための分別について
  24. 革新について
  25. 事務の敏速について
  26. 賢明に見えることについて
  27. 友情について
  28. 出費について
  29. 王国と国家の偉大さについて
  30. 養生法について
  31. 疑念について
  32. 談話について
  33. 植民地について
  34. 富について
  35. 予言について
  36. 野心について
  37. 仮面劇と祝賀行列について
  38. 人間の性質について
  39. 習慣と教育について
  40. 運について
  41. 利子について
  42. 青年と老年について
  43. 美について
  44. 障害者について
  45. 建物について
  46. 庭園について
  47. 交渉について
  48. 追従者と友人について
  49. 依頼人について
  50. 学問について
  51. 党派について
  52. 礼儀と身だしなみについて
  53. 賞賛について
  54. うぬぼれについて
  55. 名誉と名声について
  56. 司法について
  57. 怒りについて
  58. 事物の推移について
  59. 噂について(未完)

 

 

文章は簡潔でとても読みやすいですし、ところどころ西洋史の有名人エピソードを例として挙げてくれるので歴史ファン的な楽しさもあります。

個人的に推しているシラ(スッラ)さんのエピソードもちょいちょい取り上げてくれるのが嬉しい。

 

 

59編のテーマの中で、特に印象に残ったのは11の「偉大な地位について」ですね。

偉大な地位にいる人は三重の召使である。君主あるいは国家の召使であり、名声の召使であり、仕事の召使である。だから自分の体にも、自分の行動にも、自分の時間にも、自由をもたない。権力を求めて自由を失おうとするのは妙な欲望である。あるいは他人に対する権力を求めて、自分自身にたいする権力を失うことになるのである。

偉大な地位へのぼることは、みんな、曲がりくねった階段を通るものである。そして党派がある場合に、のぼりかけているときには、自分の身を一方の側につけ、地位を得てからは、どっちつかずにいるのがよい。自分の前任者の記憶を利用するときには公平でやさしくするのがよい。というのは、もしそうしないと、自分がいなくなったとき、きっと借金が返されるということになる。同僚があったら、その人たちを尊敬することである。そしてその人たちが求めていないときでも、その人たちの助けを呼ぶ方が、呼ばれることを期待する理由があるのに除外するよりよいものである。話しあっているときや、ものを頼む人にたいする私的な答えのときに、自分の地位をあまり意識したり、考えたりしない方がよい。そして、「公けの仕事のときは別人になる」といわれるようにした方がよい。

 

心構えとしても具体的姿勢としても、よい忠言であると思います。

もっと広まるといいですね。

現代社会はいい意味でも悪い意味でも実力があればそれなりに偉くなることができますけれども、偉くなる過程でこういうメッセージを誰からももらえない人も多いですし。

 

同様に、20の「忠告について」も含蓄のある内容でして、偉くなる人は読むべきです。

 

 

 

40の「運について」もいいですね。

明らかに目に見える徳性は賞賛をもたらす。だが、秘密の隠れた徳性があって運をもたらすものなのである。

たくさんの小さく、ほとんど見分けられないような徳性というか、むしろ資質と習慣があって、人間を運のよいものにするのである。

シラは自分の名に「大」をつけず「幸運な」という方を用いるようにした。そして、これまでも気のつかれていることだが、自分自身の知恵や政策を、あまり大っぴらに自慢する人は、不運に終わるものである。

 

 

 

45「建物について」、46「庭園について」は、イギリス人らしい美意識と趣味が出まくっていてエッセイとして純粋に面白いです。

 

 

47「交渉について」も実際的な名文だと思います。

巧妙な人物を相手にするときには、いつでも、その人の目的をよく考えて、その言葉を解釈してみなければならない。そして、そういう人たちにたいしては、口数を少なくして、相手にいちばん思いもかけないことをいうとよい。困難な交渉の場合にはいつでも、種をまくと同時に刈り取ろうと思ったりしてはいけない。問題を準備し、だんだんと、それを熟させるようにしなければならない。

 

 

 

幾つかを引用しましたが、君主的な視点で実用的な知恵をたくさんいただけるよい本だと思いますので、これからも広く読まれていくといいですね。

 

どうか才能ある方には相応しい徳性を身につけていただいて。

もったいないつまずき方が世の中から減っていきますように。