肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

小説感想「戦国バディーーーーズ!! ~三好長慶と松永久秀、たった二人から始める復讐と天下制覇の物語~」既読さん(小説家になろう)

 

あけましておめでとうございます。

みなさま本年もよろしくお願いいたします。

 

 

今年は三好長慶生誕500周年ですね。

年末年始に関係情報を検索していたら、三好長慶松永久秀主従が主役、しかも面白さという点でも最新研究の反映という点でも素晴らしい小説がアップされていてかんたんしました。

 

 

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戦国時代、最初の天下人といわれる三好長慶
彼を天下人にまで押し上げたのは、のちに天下の大悪人と呼ばれる松永弾正久秀だった。

物語のはじまりは、わずか10歳の長慶を突然襲った父の死。
父・元長が、友であり主君であったはずの細川六郎に裏切られ、謀殺されたのである。
主だった家臣はみな父とともに殺され、滅亡を目前にする長慶と三好家。
長慶は武士ですらない松永久秀をたった一人の友として、復讐を心に誓う。

一方、人生に何の意味も見いだせないまま22歳になるまで遊んで暮らしてきた久秀は、長慶と出会い、世にもまれな自分の才能と、命をかけて守るべき主君とを、同時に発見する。
長慶を守ること、そして彼を天下人にすることが、久秀の人生の目標となった。

天下人の子として生まれながらすべてを奪われた貴公子と、奇妙な才能をもつ身分のない男。
二人は「絶対に裏切らない友」という最強の武器を手にして、天下への道を駆け上っていく。

 

 

小説家になろう」収録作品ではありますが、異世界転生とか不自然な主人公無双とかの要素はなく、史実ベースのクオリティ高い歴史小説になっています。

(もちろん小説としての創作要素もあるものの、歴史小説として違和感のない範囲の描写に抑えられています。このバランス感が好き)

 

物語は、三好長慶さんの生涯を描き切り、エピローグとして永禄の変や東大寺大仏殿の戦いを経て終了するという流れ。

完結時点で松永久秀さんは生存しておりますが、あくまで主役は三好主従、主君が亡くなった段階で物語が閉じられるというのは納得感が高いものがあります。

 

 

感想として、最新歴史研究の反映、歴史小説としての純粋な面白さ、の2点にかんたんしましたので、それぞれの推したいポイントをかんたんに紹介させていただきます。

 

 

最新歴史研究の反映

三好家や畿内戦国史の研究は、近年著しく進展していることで知られます。

毎年のように新たな要素が発見・発表されるので、実はつぶさに最新研究を反映しようとするとかえって難易度が高くなっているような状況だと思うのですが笑、こちらの作品では(私が把握している限りの)最新研究を広範に正確にきっちりと反映されていて、作者さんの造詣の深さに驚きました。

 

パッと思い浮かぶだけでも、

  • 三好康長さんの年齢
  • 細川”氏之”さん
  • 木沢長政さんの評価
  • 六角定頼さんの評価
  • 細川晴国さんの奮闘
  • 細川氏綱さんの評価
  • 河内畠山家と遊佐長教さんの関係性
  • 蓮淳さんや天文法華の乱の描写
  • 足利幕府や家格秩序の重み

 

等々、さいきん注目されている要素が惜しげもなく投入されていて、しかも歴史小説としての完成度向上に繋がっているのが素晴らしいなあと。

 

なお、物語前半部分は細川晴元さんや本願寺や細川晴国さんや六角定頼さん周辺の描写が厚いので、予備知識がない方からすると複雑で分かりにくいような印象を受けるかもしれません。

一般的な「小説家になろう」作品では序盤から主人公が活躍しまくるのが定石だろうと思いますけど、この作品では史実ベースなので三好主従が大活躍するのは中盤から、まずは三好主従が相対する畿内戦国界のややこしさ難しさ面倒くささ恐ろしさを味わってくださいということでご理解いただくといいんじゃないかなと思います。

 

 

この他、最新研究で評されている文脈にとどまらず、作者さんとしての歴史解釈があちこちで見られるのもいいですね。

小説として各登場人物の動機がクリアになりますし、「なるほど」感もあって、読んでいて楽しいです。

 

その意味で個人的に推したいのが、三好長慶さん死後の安宅冬康さんおよび安宅家の立ち位置描写。

三好一族各位から安宅家がどのように映っているかという考察がとても興味深く、さいきん言われる「三好義継さんへの権力集中のために安宅冬康さんを成敗した」にとどまっていないのがお見事だなと感じ入りました。

 

 

 

 

歴史小説としての純粋な面白さ

続いて、歴史小説として、純粋にかんたんした箇所を。

 

全編通して各登場人物のキャラクターがよく造形されていて、薄っぺらい悪役ですとか舞台装置みたいな人物ですとかがいないのがまず嬉しいです。

敵には敵の美学や動機、味方は味方で一人ひとりが人間として生きている感じの小説っていいですよね。

各登場人物が魅力的なので、全81話の充分な長編小説ではあるのですけど、私としては各人の描写を増補しまくった文字数5割増し版が読みたくなったくらいです。

 

物語構成の盛り上げっぷりも巧みで、とりわけ舎利寺の戦い、江口の戦い、教興寺の戦いといった大戦の、敵味方それぞれのボルテージがだんだん上がっていくような描かれっぷりがごっつう素敵。

一つひとつの場面だけでなく、流れも楽しいのが悦ばしいのです。

 

 

最後に、特に感銘を受けた箇所を2点ほど。

ともに松永久秀さんの描写なのですが、エモ過ぎて死ぬと思いました。

 

 

以下、重大なネタバレを含みますので、作品未読の方はよくよくご留意ください。

物語を一話から読んだ上で出会った方がぜったい心震えますので。

 

 

 

 

 

 

 

 

一つ目は「第五十七話 広橋保子」より。

 

母親の病気に心痛めた松永久秀さんが、これまで知らなかった己の脆さ、不幸な予感に出会ってしまうシーン。

 

「母者が、死ぬのが怖いと申しましてな」

 

 そして、胸に詰まったものを吐き出すように続ける。

 

「死ぬのは怖い。当然のことだ。しかし、随分と長い間、おれはあえてそれを見ぬようにしていたような気がするのです」

 

 保子は穏やかな眼差しを向けたまま、久秀の言葉を聞いている。

 

「そう思うと、どうしても死なせたくない、なんとかして救けたい。居ても立っても居られなくなってしまった。これまで戦で殺した者たちを思えば、勝手なことだとは思うのだが、そう思えば思うほど、なおさら……」

 

 言葉に詰まる久秀に、保子が問う。

 

「死が、怖くなりましたか」

 

 それは、久秀の心の奥を、やさしく掬い上げるような声であった。

 久秀は思わず、その心情を吐き出してしまう。

 

「……そうだ。おれは、死が怖くなった。おれが死ぬのはいい。戦場で、長慶のために死ぬ。ずっとそう思っていた。だが、死はおれを直撃せず、おれの周りから、人を奪っていくのかもしれない。そう思ったら……」

 

 手で顔を覆う久秀の肩に、ふと保子の指が触れた。

 

「かなしい人。あなたも、誰かのためにしか生きられないのですね」

 

 しばしの間、柔らかな沈黙があった。

 

 

 

二つ目は「最終話 東大寺大仏殿の戦い」より。

 

炎上する東大寺大仏殿を眺めながら……。

 

「世の噂にいわく、松永弾正は主・三好長慶を毒殺し、将軍・足利義輝を弑逆したという。これに東大寺の大仏を焼いたとなりゃあ、おれは天下の大悪人だ。百年、いや千年残る汚名かもしれん」

 

 そして、赤く燃え立つ夜空を見上げて言う。

 

「それでいいさ。汚名であろうと悪名であろうと、おれの名が残るなら、人はその向こうに三好長慶の存在を知るだろう。醜かろうが、恰好悪かろうが、おれはとことん生き抜くぞ。長慶の生涯を、無かったことにはさせやしねえ」

 

 久秀が笑う。

 もの悲しい哄笑が、夜に響いた。

 

 

最高かよ。

 

 

三好主従という一大叙事詩松永久秀さんの宿命を象徴するかのようなセリフ。

 

 

この文章に出会うことができてよかった。

作者さんに心からの賛辞と謝意をお贈りしたい!

 

 

 

 

 

 

 

正月早々、三好主従を扱った名作を読むことができて幸せです。

 

ますます高まる畿内戦国史への注目。

この作品のように、才あるクリエイターがますます集まり素晴らしいコンテンツをますます生み出していってくださいますように。