肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

映画「嘆きのテレーズ 感想 後から倫理観を歪まされていたことに気づく名作」マルセル・カルネ監督

 

1953年のフランス映画「嘆きのテレーズ」を観てみましたら、ストーリーライン、演技、演出が巧み過ぎて、いつの間にか非倫理的な行為を応援しながら鑑賞していたことに映画が終わってから気づかされてかんたんしました。

 

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以下、ネタバレ前提で感想を書いていますのでご留意ください。

ネタバレしないと語りにくい内容なので……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公のテレーズさん(左)は、病弱な夫(中央)、子離れできない義母(右)と暮らしています。

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いきなり義母にイヤミを言われていますが、物語開始時点では眼差しが乾いていて人生に何の楽しみも見出していないような感じのテレーズさん。

 

 

 

帰宅後も義母は夫に悪口を吹き込み続けます。

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この感じ悪い姑演技が超いいの。

 

 

 

夫は寝込むばかりで何の頼りがいもございません。

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夫を見下ろすテレーズさんの、感情のこもっていない眼差し演技が既に最高ですね。

 

 

 

 

その後、なんやかんやでテレーズさんの前にイタリア人トラックドライバーのローランさんが登場します。

 

 

トゥンク。

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夫には望むべくもない情熱的な男性であります。

 

 

 

トゥンク。

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瞳にいきなり感情の灯りがつくのがすごいですね。

 

 

 

こうして二人はたちまち恋に落ちてしまうのです。さすがフランス。

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して。

 

しばらく不倫を楽しんで、やがて二人は駆け落ちしようぜ的になって夫に事実を突きつけましたが、もちろん夫は大激怒なのであります。

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テレーズさんを監禁する気まんまんの夫。

彼は介護が常に必要なタイプなのでテレーズさんに逃げられたら困りますし、そもそも母親にずっと守られて育ってきたのでプライドを破壊されたような経験もこれまでなかったのでしょう。

 

 

 

 

 

そして。

 

 

テレーズさんと愛人ローランさんは、うっかり夫を殺害してしまいます。

具体的には列車から突き飛ばしまして。

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警察からはそうとう疑われたものの、特に証拠もないため、事故として処理される感じになりました。

 

 

 

しかも残された義母は、ショックで口がきけなくなり。

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この「息子を殺したのはぜったいお前だろ」みたいな姑視線もスゴいわ。

 

 

 

 

邪魔者二人が消えて、結果としてテレーズさんとローランさんが幸せに暮らしていけそうになったと思ったら、二人を強請る証人さんが現れてしまいます。

夫殺害時の模様、きっちり見られていた訳ですね。

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相手は軍隊あがりのお兄ちゃん。

この証人の兄ちゃんもたいがい小癪な演技が上手くて、視聴者をイラっとさせるところがあるのですよ。

 

 

 

ローランさんも暴力で屈服させようとしてみるも。

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証人さんも軍隊あがりだけあって、そんなかんたんに諦めません。

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とはいえ、証人さんは正義を遂行したい訳ではなく、金が欲しいだけです。

テレーズさんの手もとにも、鉄道会社からの詫び金が折よく転がってきました。

 

 

 

そこで、テレーズさん、ローランさん、証人さんは最後の交渉機会を設けることになります。

 

 

最終交渉にあたり、証人さんはローランさんに殺される可能性も視野に入れ、裁判所宛の真実暴露レターをホテルのメイド少女に預けます。

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証人さん、これまでの人生ロクなことがなかったであろうことが充分に察せられる兄ちゃんで、ホテルのメイド少女に優しい表情を見せてくださるような面もありますので。

 

 

 

最終交渉場面を観る頃には、なんだか「テレーズさん(不倫・殺人偽装)もローランさん(不倫・殺人)も証人さん(恐喝・偽証)も、みんな交渉がんばれ、上手く収まって三人とも無事でありますように」みたいな気持ちになってくるのであります。

 

 

 

交渉が上手く収まった場面では、観ているこちらもホッと安堵ですよ。

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このハッピーエンド感!!

いつの間にやらテレーズさんの眼差し、胆の据わった女傑みたいになっているのもまじスゲェっす。

 

 

 

 

で、めでたしめでたしかと思っていたら。

 

 

 

 

直後、漫画太郎作品ばりの勢いでトラックがプップードカーンしてきまして。

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証人さんが「死~ん」状態に……。

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「手紙……」というテレーズさんとローランさんにとって謎の遺言を残し、息絶える証人さん。

 

終幕を迎え、テレーズさんの犯罪者のような視線に驚かされます。

 

 

 

 

 

やがて17時。証人さんの暴露レターはしっかり裁判所へ。

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モブの会話が軽やかフランス風なのが良いギャップ演出ですね。

 

 

 

FIN!!

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…………。

 

 

やーーー。

 

 

「17時の手紙」が出てきた時点で、オチはなんとなく分かってはいたのですが。

 

ストーリーライン、役者方の演技、画面の作り方、間の置き方……がめちゃくちゃ良くて、いつのまにか心情的にはテレーズさん、ローランさん、証人さんに肩入れしながら観てしまいまして。

 

最後のトラック&17時レターが、まさしく神の雷のように突然ブッ込まれ、これでようやく「因果応報」という真っ当な倫理意識を取り戻したんですよね。

 

久しぶりに「映画とか演技とかって怖いな」「倫理観って、ほんの数十分でこんなにコロコロ変えられてしまうんやな」ということを実感しました。

 

ごっついわこの映画。

 

有名作品として知られているのもさもありなん。

多くの方にこれからも鑑賞してもらえるといいですね。

 

 

 

演技やムードに乗せられて、不倫とか偽証とか殺人とかについつい手を染めてしまうようなことがどちら様もございませんように。