じゃりン子チエの文庫版31巻。
これだけの長期連載を経て、数々の修羅場をくぐり抜けてきたテツが初めて「死の恐怖」に身を震わせるほどのピンチに見舞われていてかんたんしました。
表紙はマジメに死を恐れるテツ。
以下、ネタバレを含みますのでご留意ください。
この巻に収録されているお話は次の通りです。
- 詩になる少女
- 女の詩が爆発する
- 男の詩も歌いたい
- 堅気屋の暗黒
- 常連さんを大事にする店
- メロンの気持ち
- ぶつぶつの絨毯爆撃
- ジュニアのカウンセリング
- 猫医者の身元
- 猫医者の告白
- 破裂する応援歌
- 梅雨の朝夢
- クソ熱い夏・山盛りのミルク金時
- 夏を応援する①
- 夏を応援する②
- 人間ドックのお返し
- 胃カメラの宣告
- テツ 胃カメラを飲む
- 胃カメラ後遺症
- 疑惑のお見舞い
- 怪しい現金の正体
- ヤクザな金を追いかけて
前半はチエちゃん周辺の人々をネタに詩作をしようとする作詞家の話、
中盤はアントニオジュニアのノイローゼに対するカウンセリング、
後半は人間ドックでの胃カメラをめぐる騒動です。
以下、各登場人物の名言を。
新庄ゲン(作詞家)
「ドブ板酒場に少女が一人
暗くなってもお客は来ない」
「今日もあたいは一人ぼっち
母ちゃんどこかに行っちゃった」
チエちゃんの店で飲みながら、不幸な少女をネタに歌詞を呟き始める作詞家。
インスピレーションを得ただけなはずなのですが、妙に事実と符合しているのがさすがというべきなのでしょうか。
チエちゃん&テツ
「ちょっと部屋見てみい
今時テレビも電話も机の上に電気スタンド一つない
家なんて」
「ワシ質素な生活が好きやねん」
「質素ゆうんとちゃうやろ
家にドロボーが居るから」
すでにコンビニやCDが出てきている作品世界のなかで、いまだに戦後直後のような暮らしをしている竹本一家。
ラジオ等、手に入った電化製品はテツがすぐに質屋にもっていってしまうので……。
テツ
「ワシ
マジメに花井が死んだ夢見たん初めてや
おまえ人が死ぬのおもろいと思てるかもしらんけど
とにかく死ぬゆうのは ほんまにこわい……
人間てほんまに死ぬんやなぁ」
「ワシ
ほんまに人間が死んだとこ見たことないから」
花井センセが人間ドックの再検査で胃カメラを飲んだところ、状況のよく分からなさにショックを受けて花井センセ&自分が死んでしまう夢を見たテツ。
死の恐怖へのおびえ方が子どものような素直な言葉で、テツの魅力が地味によく出ている気がします。
なお、花井センセの健康は何の問題もなかった上、直後にテツも胃カメラを飲むことになってしまいます。
テツ&花井センセ
「センセが死んで
その…
カンオケを開けたら……
カンオケの中にワシが……」
「うーん
ものすごいドンデン返しやなぁ
まさか正夢やないやろなぁ」
「ガーン」
自分が見た夢をセンセに話したら、余計にビビらされてしまうテツ。
大人からの怖がらせられ方が本当に子どもみたいでかわいい。
テツ&チエちゃん
「チエ…
ワシほんまに胃カメラ呑まなあかんのやろか」
「イヤやったらやめたら」
「やめたらて……
ひょっとしたらえらいことやから
胃カメラ呑むんやろ
ええか悪いか確率は半々やて」
「半々……」
「カブかインケツかどっちが出るか半々やゆうのに
花井の奴 先にカブ引いてしまいよったんやで」
「ほんなら残りはインケツ」
「と…とにかくワシこんな気分で……
口から胃が出てくるくらい気持ち悪い胃カメラを……」
「胃カメラ呑むくらいやったら死んだ方がマシか」
「お…おまえそんな極端な言い方」
「グチャグチャゆうてもどっちかやで」
「胃カメラ呑も」
「根性なし……」
チエちゃんのあしらい方が完全に保護者でウケます。
この後、テツは検査室で大暴れ。
チエちゃんの名前を呼びながら泣き叫ぶことになります。
マジでテツはチエちゃんの子ども。
ヨシ江はん
たたた…
「わっ」
急いで出勤しようと走り出したところ、家を出たところでヤクザが土下座していて、反射的にヤクザを跳び越えてそのまま駅に走っていくヨシ江はん。
運動神経はまったく衰えていないようです。
ヤクザが土下座しているくらいでは振り向きもしないくらい肝が据わっているのも素晴らしい。
というわけで、テツが初めて死の恐怖にすくんだのは「胃カメラ」だったというオチですが、皆さま人間ドックの結果は何の問題もなかったようで何よりです。
現代は胃カメラの性能もよくなって、バリウムよりは胃カメラの方が好き、という方も多いと思いますけど、普及しはじめたころの胃カメラって確かにこういう扱われ方だった気がしますね。
世の中の皆さまが定期的に健康診断や人間ドックを受けられ、お身体を健やかに保ってくださいますように。
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