肝胆ブログ

かんたんにかんたんします。

小学館版学習まんが「日本の歴史8 戦国大名と織豊政権 感想 畿内・三好描写の充実に慄く」

 

有名な歴史漫画「小学館 学習まんが 日本の歴史」がさいきんリニューアルされたと聞きましたので、パラリと戦国時代の目次を見てみたら“第2章第3節 「天下」への道~三好長慶の躍進~”という信じがたいチャプターが混じっていてかんたんしました。

 

たいへん嬉しく思いつつ、いくらなんでも早すぎはしまいかという心配もありますので、こうした意欲的な作品が世の中にどう受け止められていくのか引続き見守っていきたいっすね。

 

www.shogakukan.co.jp

 

 

↓目次等の試し読み

shogakukan.tameshiyo.me

 

 

本書の範囲は明応の政変から豊臣秀吉さんの死没までを対象としています。

 

 

出版社のあらすじには

全20巻の新シリーズ、第8巻では、北条早雲毛利元就武田信玄上杉謙信、そして織田信長豊臣秀吉など戦国武将が覇権を争った激動の戦国時代が描かれます。

 

等と従来風の戦国時代解説を書いておきながら、

全ページの前半分はほぼ畿内戦国史(足利・細川の分裂と三好家台頭)、一部北条家の躍進(畿内情勢との相関を示しながら)。

毛利元就さんの厳島の戦い武田信玄さん・上杉謙信さんの川中島の戦いは、「三好長慶畿内で大きな力を得たころ、全国各地の戦国大名は、争いを激化させていました」という前フリで2~3ページずつだけ紹介される……

という大胆すぎるページ構成になっているんですよね。

(もちろん後半ページは信長さん、秀吉さんです)

 

なんせ一番始めに登場する人物は足利義尚さん、50ページまで読み進めて出てくる文章が「こうして義稙はふたたび将軍に返り咲き、細川高国大内義興らが支える体制ができあがるのでした」ですよ。

「戦国時代なら語れるぜ!」と、お子様にいっちょ有名な武将の有名な逸話を教えてやろうとわくわくして購入したお父さんやお爺ちゃんにショックを与える構成になっているのは否めない気がします。

 

うそか本当かわからない講談・漫談のようなお話は極力排除し、信頼できる参考文献に基づいた歴史の記述を心がけています。
これまで以上に勉強に役立つ、本格派・正統派な学習まんがです。

 

というリニューアルにあたっての小学館さんの意気込みをよくよく読んでから購入するようにいたしましょう。

 

 

個人的にかんたんしたのは次のような描写です。

漫画的おもしろ描写ポイントを含む。

  • すげぇきれいな表情で「しかしまあ、美を極めようとすると金がかかってしょうがない……義尚には悪いが、まだしばらくはわしの手のなかにいてもらうぞ」と呟く足利義政さん。

  • 明応の政変と連動して伊豆に攻め込む伊勢盛時さん。

  • 細川政元さんが三好之長さんを見た感想。(それにしても三好一族…いくさ上手で有名じゃな…得体の知れないやつらだが、ここは敵にまわさないほうが得策だろう)

  • 細川高国さん・大内義興さんの攻勢に対して「ま、逃げるしかないでしょうな」とふてぶてしく話す三好之長さんと同じページに「戦国の時の如し」近衛尚通さんの時代を表す言葉を載せるナイス構成。

  • 細川晴元さんの弟として登場する細川氏之さん。これからの子どもは細川持隆さんの名を知らずに育つことになるのか。

  • 木沢長政さんの存在に対して「ふん。新参者が、目障りじゃ。いずれ消えてもらおう」とぶっ殺す宣言をする三好元長さんと、三好政長さんの存在に対して「目障りじゃな」「ここらでひとつ、消えてもらうとするか」とぶっ殺す宣言をする三好長慶さん。よく似た親子!
    それにしても、木沢長政さんや三好政長さんが「学習まんが 日本の歴史」に登場すること自体にまず驚きですよね。

  • 石見銀山の発展、ヨーロッパの大航海時代倭寇の王直さん等、世界史との連関をしっかり説明いただける構成。

  • 芥川城が山城に描かれる一方で、天守閣がそびえている越水城。

  • 西田敏行さんに顔が似ている斎藤道三さん。

  • 永禄の変に反対したり、美濃制圧前の織田信長さんと親善したりするきれいな松永久秀さん。

  • 金ヶ崎の撤退でしっかり登場する池田勝正さん。

  • 将軍追放や楽市楽座など、なにかやるたびに欄外で「~ともいわれている」と諸説を紹介される織田信長さん。

  • 一次史料ベースにリニューアルしてもやっぱりすごい豊臣秀吉さん。他の登場人物とは一線を画する傑物感、豊臣政権により時代が明確に変わった感が漫画を通して伝わってくるように仕上がっています。

 

等々。

 

すごいなあ。

 

このまま畿内戦国史・三好一族が戦国時代の学習の真ん中に座るようになっていくのか、それとも色んなツッコミやまっとうな学問的指摘が入ってだんだん下火になっていくのか、私には見当もつきませんが、じわじわこの界隈の人気が明確な「形」になっていっているのをリアルタイムで見ていられるのは不思議な感じがいたしますね。

 

とはいえ、物語の多様性もまたこの時代の魅力だと思いますので、戦国時代学習のメインが中央の政治史になっていくのであれば、各地の素敵な人物に触れることのできる導線も並行して用意が整っていきますように。